第8話 オタク、受け入れられる



「依頼主がいる間は言えなかったけど、オタクくん、ちょっと常軌を逸しすぎだよ?」


 クルスさんにそんなことを言われた。

 昨日もエイジャさんたちに強化してたんだけど、自分で強化を体験してみて、改めて認識したらしい。


 そうなのかな。

 レールスとか、当たり前に使ってたけど。


 ぼくが悩んでいると、クルスさんが頭を抱えながら言った。


「オタクくんがパーティをクビになった理由がわかった。……強すぎるんだよ、普通の剣がメタルライノの金属甲殻を紙でも裂くように一刀両断できるまで強化されたら、普通のパーティは持て余す」


「え、そ、そうなんですか? ……効果は強力な方が、パーティが生き残りやすくなるじゃないですか!?」


「それはそうなんだけどね。剣士として、自分が鍛えた以上に強化されたら、やっかむ人も多いよ。……早い話、優秀すぎるんだよ、オタクくん」


 クルスさんが申し訳なさそうに言う。

 何だよ、それ。


 努力したんだよ。自分で腕を上げたんだ。

 それで精一杯の補助をしてるのに、なんで『役に立ちすぎる』から嫌われなきゃいけない?

 実力を上げたら悪いのか? 鍛えたら憎まれるのか?

 冒険者は、実力を上げるために鍛えるもんじゃないのか?


 ぼくがグルグルと悩んでいると、クルスさんがぼくの頭に手を置いた。

 優しく、触れるように。


「理不尽だよね。わかるよ。……自分がよかれと思って上を目指したのに、周りが勝手にやっかんで孤立する。……ぼくに剣を教えてくれた師匠も、そうやって一人だった」


「クルスさん……」


 クルスさんを見上げる。

 と、横からぼくの頭を抱き寄せてくる人がいた。

 リーシャさんだった。


「悩んでんの、オタクくーん? 何か言う奴らなんて、放っときゃ良いじゃん。少なくとも、ウチらは助かってるんだから、さ!」


「リーシャさん……ありがとうございます」


 ぼくを見て、ニカッと笑うリーシャさん。

 良い人だな、と思う。ぼくに女装させるけど。


 と、突然に肩を殴られた。ぼくに肩パンしてきたのは、エイジャさんだった。

 エイジャさんは褐色の頬を赤く染めて、ぶっきらぼうな口調で言ってくれた。


「がんばって、それが理由で嫌われるなんて、マジあり得ないじゃん? 女が男より強くても、おめーらが弱ぇんだろって話だしさ。……オタクくんも、もっと堂々としてろし」


 エイジャさんも、似たような経験があるのかもしれない。

 あんなに大きなデスサイズを自在に振り回す女性だ。

 きっと、何かを言われたこともあったんだろう。


「……はい。ありがとうございます、皆さん」


 ぼくは、素直な気持ちでお礼を言った。

 努力してきたんだ。努力できるのは遺伝だとか才能だとか言う人もいるけど。

 たくさんの労力を払って、この実力を得た。


 だから、ぼくは、この人たちを全力で支える。

 自分の力で、できる限りの力で、この人たちを支えたい。

 そう思った。


「オタクくんは余計なこと考えないで、できることをしてくれれば良いよ。……ボクらは、オタクくんがボクらを認めてくれただけで、もう救われてるからさ」


 クルスさんはそう微笑みかけてくれた。

 ぼくも笑顔でうなずく。

 この人たちと出会えて、良かった。


「……ふん。おら、昨日の残りの金と、今日の素材の仮払いだ。お前らの間で話がついたなら、持ってけ」


 レイノルド爺さんが、革袋を投げて渡してくる。

 受け取って中身を見てみると、金貨七枚と銀貨がいくつか入っていた。

 これなら、昨日使った分は取り返せたな。


 レイノルド爺さんは、手を振って追い払うように解体室を追い出した。

 またな、と背中越しに手を挙げてくれる爺さん。


 その手に、ぼくは無性にお礼を言いたくなって、ぺこりと一礼して部屋を出た。



*********



 あまり連日で贅沢をするのもどうかと言うので、前回の連れ込み宿で部屋を取った。

 ここは壁が薄いけど、設備が安っぽい分だけ宿代も安い。

 回復薬などで出費の多いクルスさんたちは、予算の都合でここを定宿にしていたようだ。


「……とは言っても、明日からは他の宿を探さなきゃだね」


「報酬額知られたらヤッバいよね? 気のせいか、ギルドを出てからもずっと視線感じてたしさ」


 クルスさんの提案に、エイジャさんも同意する。

 革袋の中には金貨九枚。散財しても、二日で残った額がこれだ。


 正直、ギルドを出ても誰かが見ているようで、気が気じゃなかった。

 ……やけに、馴染みのある視線を感じた気もしたけど。


「じゃあ、今日はこの宿の最後の日だね。思いっきり騒ごっか! オタクくんの歓迎会も含めてさ!」


 リーシャさんがぱぁっと騒ごうと提案してくれる。

 歓迎会か。嬉しいな。

 さっきみたいに、ぼくを追放せずに受け入れてくれる人たちだから。


「嬉しいです。何をするんですか?」


「えっちなこと」


 はい?

 リーシャさんがホットパンツを下ろし、ショーツを見せる。

 その顔には、「美少女、美少女!」と興奮した笑みが浮かんでいた。


「ここをどこだと思ってんの? 思い切りできるの今日が最後かもしんないじゃん。じゃあ、オタクくんにサービスしたげなきゃねぇー」


 上着もブラも脱ぎ捨て、ショーツ一枚になったリーシャさんは目の色も怪しく迫ってくる。

 この人、同性愛者じゃなかったのか?


「ウチ、男はダメだけどさぁー。オタクくんは、ちょっと『ついて』るだけの美少女だから良いよね? ね?」


 ね? じゃないです。

 美少女じゃなくて男です。


「そだね。ちょっと『ついて』るだけだしー。あーしも、オタクくんなら可愛がってあげられっかなー。オタクくーん、あーしちょっと溜まってんだー。よろしくねー!」


 何をよろしくするんです?

 また酷いことするんです?


 エイジャさんは唇をペロリと舐め、同じくホットパンツのボタンを外し始めた。

 二人とも本気だ。


「ま、まぁ、ボクもいるしさ。オタクくんだけの負担にはならないよ。大丈夫、言うことを聞けば二人とも意外と優しいからさ!」


 何も大丈夫じゃないですね!?

 イケメン美女のクルスさんも鎧を脱いで、そのおっぱいをぷるんとこぼれさせる。

 二人に良いようにされている先輩として慰めているんだろうけど、完全にぼくが慰み者になる流れですよね!?


「じゃ、ウチらと良いことしよっか、オタクくん?」


「はーい、覚悟しよーねー、オタクくーん?」


「心配ないからね、ボクらに任せて、オタクくん!」


 心配しかない。

 その日、ぼくは童貞を卒業しました。



 卒業させられた、と言った方が正しいかも知れない。


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