第342話 オタク、城の敷地で捕まる
三日後、騎士団兵舎の兵站部に来た。
ミリーさんの付き添いだ。
兵站部の軽作業場では、職人さんたちが集められて、毛皮を加工した生皮が会議テーブルに広げられている。
グレネイドバッファローの、仮なめし革だ。
まだ硬く固まる前なのに、すでに裁ち切り刀を受け付けてないらしい。
職人さんたちが、ナイフを手に切り出そうとして刃が通らなくて、四苦八苦している。
「騎士団長さーん! 来ましたよー!」
「おお、これはミリー嬢。お待ちしておりました」
アンドレイ団長が、気づいてこっちに挨拶してくる。
今日は監督で見守っていたようだけど、眉間のシワが残っているので、状況は芳しくなかったようだ。
「アンドレイ団長、状況はどうですか?」
「無理ですな、オタク殿。最初に切り分けてもらったサイズから、全然裁てません。敷物大の大きさなので、このままでは何にも使えませんな」
というわけで、ミリーさんを振り向く。
ミリーさんが大きく親指をぐっと伸ばすと、肩から小鳥のウルスラさんが、ぽんと姿を現した。
「職人のみなさん! 精霊のウルスラさんにお任せですぅ! 裁ち切り刀に、強化魔法をかけてもらいましょう!」
「おお、ありがてぇ!」
馬具職人さんたちが、喜びの声を上げた。
そのままウルスラさんは、職人さんたちの周りを飛び回り、強化魔法を振りまいていく。
もう一度革に刃を入れた職人さんたちは、その革がすっと裁ち切れることに感動していた。
「こりゃすげぇ! これなら、楽に作業ができますぜ!」
「困ったことは、精霊様にお任せですぅ!」
ミリーさんの肩に戻ったウルスラさんが、両羽根を大きく広げてバンザイしていた。
勝利宣言のようだ。
革が裁ち切れるとわかった職人さんたちは、炭で革に裁ち切り線を引いていく。
数人がお互い相談しながら、何の馬具の材料をどこから採るか、で話し合っているようだ。
やがて割り当てが決まって、敷物サイズの何枚ものグレネイドバッファローの革を、次々と切り取っていく。
「工房長。何頭分の馬具が作れそうだ?」
「そうですね、騎士団長様。この量なら、全員分の兵馬の鎧兜は作れそうですな。もし鎧にも金属の縁取りをするんなら、もう一回りサイズが縮まりますんで、余るくらいですが」
その提案を聞いて、アンドレイ団長は考え込んでいた。
巨大なグレネイドバッファローの革だから、量としては正騎士全員分の鎧兜には足りるらしい。
騎士団長の結論は、見栄えよりも実用重視だった。
「鋼の縁取りをすると、重量が増えて兵馬の負担が増える。材料は使い切っても構わないから、鎧は革だけで作ってくれ。縁取りは、兜だけにする」
「へい、かしこまりました。では、端切れを残してちょうど足りるくらいですな」
そこから、兵馬の鎧用の革を切り出していった。
兵馬の鎧と言っても人間みたいな全身鎧じゃない。前垂れとか、鞍から伸ばす横張りとか、相手のランスの刺突を防ぐくらいで充分だ。
だから、部分的に覆う鎧を作っていくだけなので、一頭分の革で百騎以上の部品が採れる。
この分だと、騎馬兵の全員分じゃないな。
とりあえずは突撃隊の人数、全員分だけ作って、斥候兵や機動部隊の馬には装備をつけないつもりなんだろう。
「オタク殿。これよりもっと軽い、丈夫な素材がもしあれば、また購入をお願いしたいと思います。今すぐでなくとも充分ですが、将来的には軽騎兵用の装備も作りたいので」
「わかりました。何の魔獣の革が良いのか、はレイノルド爺さんに聞いておきますね。爺さんなら、冒険者に人気の斥候ポジション用の軽素材を、よく知ってると思いますから」
ぼくの返答に、アンドレイ団長は満足そうに笑ってくれた。
アンドレイ団長からしても、レイノルド爺さんの業務経験は、評価が高いようだ。
やがて素材の切り出しが終わると、職人さんたちはキリで鋲打ち用の穴を開けていった。
強化魔法がないと、針も通らないからね。
穴を開けて、端切れで作った革紐で縛って馬具に仕上げるつもりらしい。
やがてだいたいの作業が終わった後は、本なめしをして組み立てるだけ、にまで作業が進んでいた。
「うん、精霊様の魔法はすごいですな。あとはなめし職人に任せれば、馬具装飾士が仕上げてくれるでしょう」
「ありがとう、工房長。助かったよ、出来上がりが楽しみだ」
アンドレイ団長と工房長が握手をして、作業が終わった職人さんたちは道具を片付けて引き上げていった。
「ありがとうございました、ミリー嬢。このお礼は、教会にすればよろしいので?」
「どうでしょう。一応、わたしは教会とは関係なく請け負ってますし……まぁ、そのうち何か、教会から騎士団にお願いするかも知れません」
ミリーさん側のお礼に対しても、話はまとまったらしい。
結構時間はかかったけど、とりあえずぼくらも帰って良いみたいだ。
「では、ぼくらは帰りますね? できあがったら、王太后様が喜ぶと思います」
「ああ、世話になったな。ありがとう、オタク殿。これからも、よろしくお願いする」
騎士団長はこれから部品の点検をするようで、しばらく残っているみたいだ。
ぼくとミリーさんも、連れ立って兵舎を後にする。
王城の敷地を歩いているうちに、ミリーさんがいたずらっぽく笑ってぼくを振り返った。
「オタクくーん。知ってます? わたし、『聖女』だから、城の変なところに立ち入ってても許されるんですよ?」
「はい? どこか行くんですか?」
そう言うが早いか、ミリーさんはぼくを人目の付かない物陰に連れ込んだ。
そして、スカートをめくってショーツを下げ、後ろ腰をこっちに突き出してくる。
「うふふ。お城でしちゃうなんて、ドキドキですねぇ? さ、オタクくん。早くしないと、終われませんよ? 誰かに見つかる前に、は・や・くっ」
「そ、そんな、こんなところで……わかった、わかりましたから」
ミリーさんは露出して突き出した下半身を、ふりふりとぼくに向けて見せつけていた。
早くしないと、本当に誰かに見つかりそうだ。
そして誰かに見つかったら、この状況だと、『聖女』をぼくが襲っている構図に見える。
足元を見られて逃げられなくなったので、しかたなくぼくは物陰で始めた。
目論見通りに行ったミリーさんが、受け入れて声を上げる。
「あはぁっ!? 最近は、ノアさんに中を譲ってばっかりでしたもんねぇ!? ほらほら、もっとたくさんお願いしますね、オタクくん!? たくさん動かしちゃいますから!」
「ちょ、ちょっと、ミリーさん。静かにしてくださいっ。あ、んっ……!」
立ったままだけでなく、そのまま地面に押し倒されて、しばらく終わらなかった。
ミリーさん? もし誰かに見つかったら、ちゃんと説明してくださいよ?
じゃないと、ぼくの首が飛びます。
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