第204話 オタク、王妹を呼ぶ



「貴族との面会、私たちが護衛しましょうか?」


「よろしいんですか? 騎士団や憲兵が上からの命令でもないのに、個人を護衛するなど」


 ノアさんとアイルマンさんから、意外な申し出がされた。

 どうやら、シルヴァさんの交渉を後押ししたいようだ。


「もちろん、憲兵関係者としての思惑はあるわよ。教会の地下賭博を取り締まるために、あなたの派閥作りを後押しした方が良い、という判断よ」


「国王陛下に対立する派閥じゃなくて、教会に対立する派閥だからね。むしろ、国王陛下にも王権強化という利益がある。憲兵隊としても、協力しても良いと思ったんだ」


 なるほど。

 治安維持に繋がる政治活動なので、あくまで組織としてじゃなく、責任ある身分の、個人の立場として支援してくれるつもりなんだね。


「それでしたら、断る理由はありませんわ。よろしくお願いいたします、ノア様、アイルマン様」


「交渉成立ね。憲兵たちは動員できるわけじゃないから、あくまで個人で、だけどね」


 警察業務の、要人護衛。みたいな感覚で護衛してくれるんだな。

 それでもありがたいことだ。


「本来は、騎士団内部にも協力者が欲しいところなんだけどね……」


「難しいだろう、統括長。騎士団にも地下賭博に入り浸ってる者がいる現状だよ。それに、こっちの事情としてもシルヴァ嬢の支援には『同性愛』に対する抵抗感が壁になる」


 ノアさんとアイルマンさんは冷静だ。

 権威ある騎士ほど、清廉潔白であればあるほど、世間の常識として禁忌である同性愛に賛同はできないだろう。


「わたくしの建前としては、同性愛の許容はあくまで名目には入っておりませんからね。王権復帰の名目で協力して、同性愛のことが知られれば、拒否感を示されて王権復帰の目的まで疑われてしまうでしょう」


 本音と建前が分かれていると、こういうところで問題になるね。


「オタク先生としては、なにか良い案はございませんか?」


「ステラさんを呼んだらどうですか? 王都の観光もありますし、早めに来てもらって、本人が交渉の席に同行してもらえると、話が早いと思うんですけど」


 そう考えて、エカナさんの方を見る。

 エカナさんは、おっけー、と軽く答えた。


 間を置かずに、ステラさんが瞬間転移してきた。


「来たぞ、オタク」


「話が早いですね、ステラさん」


 いきなりの登場だ。

 精霊女王の妹分、王妹のステラさんの登場に、ノアさんたちは慌てた。


「エカナから念話で連絡を受けたので、精霊の里から飛んできた。知らない顔もいるが、みんな、久しぶりだな」


「来てくださってありがとうございます、ステラ様。……ノア様、アイルマン様。こちらが精霊郷の女王様の妹、ステラ様ですわ」


 ロングドレス姿でいきなり登場したステラさんを、シルヴァさんが紹介する。

 王妹というその正体にノアさんたちは驚きながらも、一礼した。


「うん? そっちの女は……珍しいな半精霊の生まれか。オタクの仲間なんだろう? そう萎縮しなくて良い、気楽にしろ」


「あ、ああ……この身だから感じるよ。とんでもない存在と知り合いだね、オタクくん」


 半分精霊のアイルマンさんとしては、ステラさんの威光が直接伝わるらしい。

 きっと、精霊同士にしか感じられない何かがあるんだろう。

 それを考えると、ステラさんを呼び捨てにして平然としてるエカナさんもすごいけど。


「それにしても、ここが現代の王都か。観光が楽しみだな。連れ回してくれるんだろう、シルヴァ?」


「ええ。ステラ様のお姿でしたら、貴族としても通用いたしますので、一緒に貴族街の店を回りましょう。護衛にはみなさまと、このお二方が就いてくださいます」


 そうしてシルヴァさんが、ノアさんとアイルマンさんを紹介すると、ステラさんは満面の笑顔を浮かべた。


「ふむ。二人とも、オタクたちと関係を持っているようだな? ならば、私とも……」


 おっと。ステラさんまで狙いを定めたか。

 でも、一応、注意しておかなきゃいけないことがある。


「ステラさん。エイジャさんとリーシャさんは、アイルマンさんより先に気絶してましたよ」


「やめておこう」


 戦う前から撤退したようだ。

 くっころされるのが目に見えてるからね。


 精霊の王妹にベッドに誘われた、ということで、ノアさんとアイルマンさんはお互いに顔を見合わせていた。


「女王の妹……って、伝説の存在に連なる王族よね? 同性なのに、ベッドに誘われた?」


「精霊に性別はない、とは言うけど……明らかに女性の姿だ。精霊が同性愛を認めている、というのは本当のようだね。少なくとも、高い身分の精霊まで認めている」


 事実を確認して、二人はいっそうのこと、シルヴァさんの話を信じる気になったようだ。

 精霊信仰の復権も現実的だと言えるし、教会から婚姻権を奪い返すことも可能だろう。


「別に、愛に性別は関係ない。子孫を作らなければいけない、という命題が生物にはあるが、それはそれとして人間が感情を持つのはそれぞれ別の話だ。子孫を作る、同性の伴侶を作る、各人の同意のもとに、できることを両方やれば良い」


 ステラさんの結論に、ノアさんとアイルマンさんにはもう疑う余地はなかったみたいだ。

 愛に子孫が必要なら、子どもが作れない事情の人は愛情を抱いてはいけないのか、という話にもなるしね。


「貴族とは会うのか、シルヴァ?」


「それはこれから先の話ですわ。もしかしたら、お父様が集めた貴族の方とも話していただくかも知れませんが」


 そこまで話すと、ステラさんは当然のように請け負った。

 任せろ、という言葉が頼もしい。


「待った。私の相談もして良いだろうか。王都でたまに起こる精霊犯罪……『精霊のイタズラ』をなくすには、どうすれば良いとお考えか?」


 アイルマンさんが乗り出してきた。

 その問題は、最初からアイルマンさんが口にしていた目的だ。


 といっても、精霊信仰が軽んじられている王都では、精霊が怒ってイタズラをする必然性は高いと思うけど。

 仕方ないことなんだろうか?


 そう思っていると、ステラさんはあっさり答えた。


「なんだ。困っているのか? なら、里から精霊を派遣させよう。女王様の魔法の影響下にある精霊だから、なにか重大な問題があれば、女王様か私が転移してくるだろう」


 あっさり解決した。

 光の玉のような精霊を呼び出すステラさんに、あんぐりと口を開けるアイルマンさん。


 その光の玉がアイルマンさんに取りつき、そして消えた。

 消えはしたけど、存在はしているようだ。アイルマンさんは何もない空間に触れるように手を伸ばし、その存在を感知している。


「精霊……しかも、かなり強い。……オタクくんたちと同行している精霊ほどではないけど、こんな精霊の、助力が?」


「足りないか? まぁ、オタクたちの仲間なら特別だ。そいつだけでも、里に寄らない野良の精霊くらいなら言うことを聞かせられるだろう。聞かなかったら、私たちに言え」


 アイルマンさんは自分も半精霊であると同時に、精霊の相棒もできたみたいだ。

 その様子を見ていて、ノアさんは言葉を失っていた。


「統括長……この方は本物だ。頭を下げた方が良い」


「そ、そうね……」


 居住まいを正す二人。

 その姿に向けて、ステラさんは笑顔を向けた。


「なに、我ら精霊の正しい役目を現代に伝えてくれるというのだ。このくらいの礼は何でもない。オタクたちの紹介でもあるしな。気にするな」


 ステラさんの言葉を受けて、アイルマンさんとノアさんは苦笑した。


「これは……放り投げられなくなったね、統括長……」


「逃げたらどうなるか、わかったもんじゃないわね……」



 すみません、二人とも。これからもお付き合い願います。



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