第35話 終わりの始まり

 今日も今日とて、本日の学校生活の終了を告げるチャイムが鳴って、俺たちは解放された。


 机の中につくねていた教科書やノートをカバンの中にしまい、チャックを閉める。


 すぐ横の席にチラリと目を向けると、和奏の姿はとっくになくなっていた。


 結局今日も言葉どころか挨拶も交わさなかった。



 そして、こちらもいつも通り。


 元気よく俺の元へと駆け寄ってくる少女が一人。


 

「センパイ! さぁさぁ帰りましょ!」


「そうだな。特にすることもないし、帰るか」


「まだワタシとの会話が残っていますけどね」


「それは帰りながらでもできるし」


「ついでにする、みたいなのやめてください! むしろそれがメインですよね⁉」


「そうかな……? そうかも」


「なんか返事が適当で嫌です」



 ついにふくれっ面になってしまった彩芽。


 少し調子に乗ってからかいすぎてしまった。


 だが、その拗ねている様子すらあざとかわいいので、うちの彼女は反則レベルだと再確認することができた。


 彼氏としての色眼鏡が多少入っているとはいえ、これには多くの人が賛同してくれると思っている。


 

 その後、しばらくして機嫌を直した彩芽が突然、いつもの帰り道とは違う道を進み始めた。



「おい、どこに行くんだよ」


「ちょっと公園に寄っていきたいんですけど、ダメですか?」


「別にいいけど……」



 そして、二人で近所の公園と向かう。


 ここはかつて彩芽と出会った場所だ。



「センパイ、率直に言いますね」


「な、なんすか」



 彩芽が改まるもんだから、俺まで中途半端な敬語になってしまった。


 先輩として一生の不覚。



「ワタシとキスをしてください」


「キスか……」



 そういえば、まだ彩芽とキスをしていなかった気がする。


 彩芽どころか他の人とも…………。


 少し記憶を遡れば、カフェで和奏としたことがあるのだが、あれは俺も正気ではなかったので、実質ノーカンだ。


 つまり、初キス。



「というか、もうしちゃってもいいですよね?」


「えっ――――」



 俺がその発言に反応する間もなく、視界を埋め尽くす彩芽の綺麗な肌と、唇に触れる柔らかな感触。


 それが何を意味するのかは、説明するまでもないだろう。



 しかし、彩芽はそれだけにはとどまらなかった。


 俺の唇の隙間から何かが口腔内に入り込んでくる感覚を覚える。


 それが彼女の舌であることに気が付くまでにしばしのラグが生じ、その間にも俺の舌と彩芽の舌が絡み合って、そこで二人の唾液が混ざり合うのが分かった。



 呼吸が苦しくなる頃になって、ようやく彩芽が俺から身体を少し離す。


 彩芽の顔は恥ずかしさからなのか、酸欠からなのか、赤くなっていた。


 きっと俺の顔も同じくらい赤くなっているんだろうな。


 もちろん二つの理由で。



 にしても、ここからなんて声を掛ければいいんだ?

 

 それとも俺からもキスをした方がいいのかな。

 

 けど、それならすぐにやった方が良かったよな。


 少し時間を空けすぎた気がする。


 じゃあ、結局どうするのが正解か分からない。



 こんな感じで俺が一人悩んでいると、彩芽がまた口を開く。


 

「…………センパイ。今日うちに親いないんですけど、来ませんか?」


「……………………」



 しばらく逡巡した後に、俺は莉子にメールを送ることにした。

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