第28話 三人の行き先
まさかあの時の少女が同じ高校の後輩として身近にいたとは……。
年齢も尋ねなかったため、完全に意識外に行ってしまっていた。
「思い出してくれて嬉しいです、センパイ」
「すまない。本当は最初会った時に気づけていたら良かったんだが」
仙谷 陽向、一生の不覚。
ただ、言い訳をしておくと、俺がかつての彩芽だと認知できないほどに彼女は変わっている。
それがとても嬉しかった。
これが親心というものなのか……?
「にしても、近所とはいえ、偶然同じ高校だなんてすごいな」
「偶然じゃないですよ?」
「…………ん?」
「センパイの着てた制服から高校が分かったので、普通に志望校を変えました」
別になんでもないことかのように、彩芽はそう告げる。
志望校って「普通に」変えるものなのだろうか、しかも当時の彼女は中三の秋だ。
受験本番まで三、四ヶ月しかないから、簡単なことではないはず。
「ちなみに、元々の志望校ってどこだったんだ?」
「日比山高校です」
「嘘だろ……」
ちなみに、日比山高校と言えば、都内でも一二を争う進学校である。
俺たちの通っている高校とは天と地ほどの差があるわけで、つまり、彩芽は――――。
「彩芽ってめっちゃ賢いじゃん」
「えへ……そんなことないですよ―。日比山高校は結局受けていませんし――――」
「ちょっと待ちなさい!」
彩芽の謙遜に、蚊帳の外になりかけていた和奏が割って入る。
和奏の影が薄くなってしまうことがかつてあっただろか、いやない。
しかし、それほどまでに俺としては彩芽との再会が嬉しかったのだ。
「貴女は陽向目当てでこの学校に進学してということなの……?」
「はい、そうですよ」
「狂っているわ。貴女は狂ったストーカーよ」
「それは三室戸センパイも同じじゃないですか?」
「何を言っているの?」
「だって、陽向センパイからずっと離れないじゃないですか。それは、立派な依存とストーカーではないですか?」
「笑わせてくれるわね。陽向の隣には私がふさわしいのよ。だから、私はここにいるの」
「陽向センパイからそう言われたんですか? 違いますよね? 三室戸センパイのその行動が、陽向センパイの行動の幅を狭めているんですよ」
「貴女いい加減にしなさいよ…………!」
和奏と彩芽の二人による激しい舌戦が繰り広げられる。
その形勢は彩芽有利に進んでいるようだ。
攻める彩芽に対して、和奏は防戦一方になってしまっている。
そんなことを高みの見物の姿勢で考えていたところ、彩芽が唐突に振り向いてきた。
「話は戻りますが、センパイっ! ワタシと付き合ってくれますか?」
「ちょっと貴女!」
「え、えっと……」
そう、今はこの話で揉めているのである。
わかってはいたが、高見なんていう場所には立っていなかった。
受け身な姿勢で彩芽には申し訳ないが、俺がこの告白を断る理由はない。
彩芽は俺のためにこの高校を選んでくれたわけだし、彩芽本人はとても聡明で優しい女の子だ。
こんな女の子に「好き」だと言われて、それを振ることはできない。
「…………わかった。よろしくな、彩芽」
「やっ、やったぁ!」
「陽向……嘘よね? こんなの…………」
泣きそうな顔で俺に抱きついてくる彩芽とは対照的に、和奏は肩や声を震わせながら、すがるように俺の名前を呼んでいる。
「和奏、ごめん。でも、これからも――――」
「…………っ!」
俺が言い終わる前に和奏は走り去ってしまった。
決して彼女を傷つけたかったわけではないのだが、これは仕方のないことだったのだろうか。
いや、俺が倫理観や道徳を持った人間として生きていく限り、二兎を追って得ることはできないのだろう。
そして、俺と和奏は一度別の道を歩むことに相成った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます