第5話 吉か否か

「陽向、今日は約束の日よ」


「ああ、わかってる。ちゃんと行けるから安心しろって」


「そう……ならいいのよ」



  そう、本当は昨日和奏に「カフェへ行こう」と誘われていたのだが、莉子とのラーメンデート(ただの夕飯)があったので、行けなかったのだ。


 そして、満を持して、今日二人でカフェに行こうという話になっている。



「おい、陽向。お前と三室戸さんって互いに呼び捨てだったか?」


「そういえばそうだよな。陽向は三室戸さんのことを呼び捨てしている稀有な奴だったけど、三室戸さんは――――」


「だあぁぁぁ! うるっせぇなお前ら! いろいろあったんだよ!」



 高校生はバカな生き物だ。


 特に男子高校生にもなると、そのバカさ加減はとどまるところを知らず、野次馬根性を発揮して、心底どうでもいい話に食いついてくる奴らがわんさかといる。



「よし、そのいろいろとやらをじっくり聞かせてもらおうじゃないか」


「さぁさぁ、俺たちと一緒にトイレにでも行こう」


「ちょ……っ! さっき俺トイレに行ったばっかなんだけど…………おい制服を引っ張るな! 伸びる伸びる!」


 

 その後、俺を引きずるようにトイレへと向かった男子高校生一行は、トイレの洗面器の前で質問大会を開いたとさ。


 …………わざわざ椅子まで持ってきて座りながら話を聞いていた奴は何だったんだろう。



――――放課後。



「やっとで来れたわね」


「そんなに来たかったなら、一人でも来れただろ?」


「はい? 私は貴方と来たかったのよ、陽向」


「俺……か」



 机を挟んで相向かいに座っているため、和奏からの真っすぐな視線をダイレクトに受ける。


 それが何だか痒くて、視線から逃げるようにあたりを見渡す。


 そして、俺は一つの事実に気が付いた。



「なんかカップル多くない?」


「そうかしら? 気のせいよ」


「いやでも、全客が男女のコンビで来ている――」


「気のせいよ」


「あはい」



 どうやら俺の気のせいらしい。


 それはそうと、俺たちが着席してからしばらくして、店員さんが水とメニュー表を持ってきてくれた。



「陽向、貴方は何にするの?」


「うーん。俺はこの『チョコレートティラミスパフェ』にでもしようかな」


「さすが陽向ね、センスがある。それじゃあ、私はこの『メニ―マッチモアストロベリーパフェ』に決めたわ」


「おぉ、それも美味しそうだな」


「安心して、陽向。ちゃんと陽向にも食べさせてあげるから」


「じゃあ、互いに交換とかしような」



 店員さんを呼んで二人分の注文を済ませると、出来上がるまでに時間がかかるらしいので、他愛のない話でもすることに。


 こうして改めて向き合うと、和奏が美人であることを見せつけられているような気持ちになる。


 それに、なんだか気分が良さそうだ。


 そんなことを思っていると、不意に和奏が意外なことを口にする。



「陽向、なんだか気分が良さそうね?」


「え、俺?」



 ちょうど俺も和奏の気分について同じことを思っていただけに、和奏から出てきたその言葉に少し面を食らってしまった。


 が、実際に俺も少し気分が良くなっているのかもしれない。



「んーまぁ、和奏が気分良さそうだし、楽しそうな様子を見てれば、自然と俺の気分も上がるよ」


「あら、それは嬉しいわね。でも、本当にそれだけ? 近いうちに楽しい予定が入ってたりはしないのかしら?」


「は? いや、え?」



 ニコニコ顔の和奏からとんでもなく大きく強い圧を感じる。


 思わず背筋を伸ばしてしまうほどに。


 にしても、近いうちに入っている予定か……あるにはあるんだが、なぜそんなピンポイントで和奏は当てることができたんだ?


 通常ならば、気分がいい理由を考察する場合、これからのことを聞くのではなく、これまでのことを聞く。


 要は、「何かあるの?」ではなく、「何かあったの?」ということだ。



「陽向?」


「んーいやぁ…………うん。来週末に莉子と遊園地に行くんだ。それでちょっと気分が上がってるのかもしれないな」


「へぇ、そうなんだ」



 なぜ、妹と遊びに行くということを告白するだけなのに後ろめたい気持ちになってしまっているのだろう。


 家族で出かけるのは至って普通のことなはずだよな?



「ふふ……嬉しいわ。正直に話してくれて」


「そうだな。お前に隠し事をする必要なんて――今なんて?」



 それじゃあまるで、すでに和奏が俺と莉子が出かけることを知っていたかのようではないか。



「大丈夫よ、安心して。貴方のためだから……ほら、もうそろそろパフェが来るわよ?」


 

 和奏はいつもの軽やかな微笑みで俺に向かってそう告げる。


 もう彼女が何を言っているのか分からない。


 ただ、この微笑みが不気味に思えて仕方がなかった。

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