エピローグ
僕たちはその後も幾度となく身体を合わせた。真夏の熱気が残る僕の部屋で、僕たちは僕が家庭教師の時間を終えた後も密やかに、そして情熱的に体を重ねた。僕の童貞を奪い、僕の男としての始まりを告げた彼女は、僕にとって特別な唯一無二の存在となっていた。
僕がコンドームを使用したのは、あの初めての夜だけだった。それ以降、僕たちは常に、裸の肌を直接ぶつけ合う行為を繰り返した。そのたびに僕は、彼女の体内に僕の熱い精液を、何度も何度も注ぎ込み、僕たちの繋がりを、より深くより確かなものにしていったのだ。その行為は、僕の支配欲と、彼女を独占したいという欲望を際限なく膨れ上がらせていった。
夏休みが終わり、千聖お姉ちゃんとの家庭教師契約は、僕の成績が大幅に向上したことを理由に、母さんによってあっけなく終了させられた。それは僕にとって、唐突な、そして残酷な宣告だった。
それと同時に、二学期が始まった頃から千聖お姉ちゃんからの音信は途絶えた。僕が送るメッセージに返信はなく、電話も繋がらない。最初は忙しいのだろうと楽観的に考えていたが、日が経つにつれて僕の心は徐々に、しかし確実に冷えていった。千聖お姉ちゃんは、僕ではなく、やはり彼氏の竜也を選んだのだと結論付けた僕は、深海に沈むように消沈した。あの燃えるような闘争心も、どこか遠い場所へと消え去ってしまった。
そんな僕の日常に、新たな光が差し込んだのは10月に入ってからのことだった。文化祭の準備で意気投合した同級生と、ごく自然な流れで交際を開始したのだ。彼女の明るく朗らかな笑顔は、冷え切っていた僕の心を少しずつ温めてくれた。僕は千聖お姉ちゃんへの諦めと、新しい恋への期待の間で揺れ動いていた。僕の心はまだ完全に癒えてはいなかったが、それでもこの新しい関係が、僕を千聖お姉ちゃんの影から救い出してくれるかもしれないと、淡い希望を抱いていた。
そんなある日の夕食時、母さんが「そういえば」と何気ない口調で僕に話しかけてきた。
「千聖ちゃんね、妊娠して、それで婚約したんですって」
その言葉が、僕の脳髄を直接揺さぶった。頭の中のすべての思考が音を立てて停止する。妊娠、そして婚約。あまりにも突然で、あまりにも残酷な現実が僕の目の前に突きつけられた。母さんは嬉しそうに「よかったねえ」と話している。僕の耳にはその言葉が、まるで遠い場所から聞こえてくる、他人事のように響いた。
その夜、僕のスマートフォンに、千聖お姉ちゃんから、一通だけ、メッセージが届いた。それは僕が何度送っても返信のなかった、あの夏以来、初めての連絡だった。
> `夏休みのことは二人だけの秘密にして。これから責任ある男なら避妊だけはしっかりやりなさい。`
その短い、そして冷たいメッセージを読んだ瞬間、僕の体は、強い電流に貫かれたかのように硬直した。彼女の、その言葉の裏に隠された意味。避妊。彼女は、あの夏、僕の精液を何度もその体内に受け入れた。そして、もしかしたら僕の子かもしれない命が、僕の知らない場所で、育っているのかもしれない。
その可能性が、僕の心を激しく揺さぶった。同時に、僕の全身を、冷たい罪悪感が襲った。僕は、千聖に彼氏がいることを知っていながら彼女と避妊せずに性行為を重ねた。その結果、僕の子かもしれない命が育っているかもしれないのだ。それなのに、千聖は竜也と婚約し、僕は新しい彼女との関係を続けている。僕は、あの夏の日、少年から男へと変わった。しかし、今、僕が直面しているのは、そんな甘美な幻想とはかけ離れた、あまりにも重く、そして残酷な、現実という名の試練だった。
僕が大人になった、あの夏の日 舞夢宜人 @MyTime1969
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