絶対に泣かない女

 田中は絶対に泣かない女だった。


 仕事のミスを指摘されても泣かないし、

 ブスって言われても泣かない。

 足の小指を家具にぶつけても泣かないし、怖い先輩にいじめられても泣かない。連休が仕事で潰れても泣かないし、スマホを地面に落として液晶を割っても泣かない。


 あと男に振られても泣かなかったって話ほんと?



 田中は一体いつから泣かない女になったのか?


 本人は、「そんなの覚えてるわけないでしょ」って言った。


「小学生のころから泣かない女子だったとか? それとも、もっと前から?」

「わからないけど、とにかく昔から泣かない子だった」

 田中はちょっと複雑そうな顔をしていた。だから、何か言ってあげたい気持ちになった。



「田中って、そんな小さいころから頑張ってきたんだな。そのおかげでますます強くなったんだな。強い女、田中。かっこいいじゃん。

 でも、それだけじゃないんだよな、きっと。

 田中はさ、泣いていいよって言ってくれる人と出会えるのを待ってるんじゃないのかな。たとえば俺とか?」


 その日、田中が泣くところを初めて見た。涙をぽろぽろこぼして、子供みたいに泣くから、ハグして慰めた。



 それ以来、田中はなんかめっちゃ泣く女になった。むしろ普通以上に泣く。なんかもうしょうもないことでも泣く。知らない子供が転んで、でも泣かずに立ち上がっただけで泣く。なんでだ!? 子供は泣いてないのに、なんで田中が泣くんだ!? とにかく泣く。


「あんたのせいよ、責任とってよね」って言われても。


 まあ、いいんじゃないの。これからも泣きなよ、泣きたいときにはさ。泣いたって、田中の芯の強さは変わらないだろうし。むしろ泣ける強さを身につけて、さらにパワーアップしたんだよな。


 でもさ、一応言っとくけど、ほかのやつの前では泣くなよ!


<了>

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