第5話 コガネムシ

ボクの家の外には、小さな庭がある。


今日は学校の日だったけど、ボクはお休みして庭にいた。

だって、昨日は漢字テストが全滅で、隣の席の子に笑われたから嫌になっちゃったんだ。


お兄ちゃんは、この前中学校のテストで満点をとって帰った。

すごいなぁ、お兄ちゃん。

なのにボクは……。


ボクは、ダメな子なのかな。




「きゃーっ! ゆうくん、助けてー!」

「ママ!?」


二階のベランダからママが呼ぶので、ボクは急いで家に入って階段を駆け上がる。

ベランダに出ると、ママが干してある白いバスタオルを指差した。


「カナブンが付いてるの! ゆうくん、お願い、取って!」


なんだ、そういうこと。

ママは虫が苦手だもんね。

カナブンも、洗いたてのふかふかタオルが気持ちよかったのかな。


ボクはタオルを取って、そこに止まっている緑色のカナブンをそっと指で摘んだ。


……あれ?

この子、カナブンじゃなくてコガネムシだ。


カナブンよりも丸っこいコガネムシ。

ボクはベランダの手摺にそっと降ろした。

ツヤツヤぴかぴかのコガネムシは、硬いはねをパカリと左右に開き、その下の薄い翅を広げて飛び立った。

一瞬落ちそうに高度を落とすのは、カナブンよりも飛ぶのが下手だからなのかな。



ベランダの入り口まで避難していたママは、ホッとした顔になった。


「ゆうくんがいる時で助かったわ。カナブン付けたまま取り込んだら、家の中で飛ばれるところだった」

「ママ、さっきの子、カナブンじゃなくてコガネムシだったよ」

「そっくりだったけど?」

「よく似てるけど、違うんだよ」

「そうなの? なんだか、ゆうくんとお兄ちゃんみたいね」


ママが笑う。



そういえば、お兄ちゃんが小学生の頃の写真を見ると、ボクとそっくりなんだって、パパとママが言ってた。


「……じゃあ、お兄ちゃんがカナブンで、ボクがコガネムシだ」

「どうして?」

「カナブンは益虫良い虫だけど、コガネムシは作物を食べちゃう害虫悪い虫なんだって。お兄ちゃんは勉強出来るけど、ボク出来ないもん……」


ママは不思議そうにした。


「あら、ゆうくんはコガネムシは嫌いなんだっけ?」

「大好きだよ!」

「じゃあゆうくんにとっては、コガネムシは良い虫でいいんじゃない? うちは農家さんじゃないし、食べられて困る木もないわ。ママにとっては、カナブンもコガネムシも一緒ね」


ボクがポカンとしたら、ママはまた笑った。


「勉強出来ても出来なくても、お兄ちゃんもゆうくんも、ママにとっては自慢の息子だわ。助けてくれて、ありがと、ゆうくん」


ママにギュッてされて、照れ臭いけど嬉しくなった。



そっか、みんなが害虫悪い虫だって言っても、ボクにとっては益虫良い虫でもいいんだ。


みんな、それぞれ違う。

お兄ちゃんと、ボクも。


感じ方も、分け方も、皆それぞれ。

それで、いいんだ。




ベランダから見下ろした庭は、とっても小さかった。

ボク、いつもあそこにいるんだな。


ママが洗濯物が入ったカゴを持ち上げた。


「ねえ、ゆうくん。コガネムシって、漢字でどう書くか分かる?」

「ううん」

「調べてみるといいわ。きっと、嬉しくなるわよ、コガネムシくん」


ママがボクの頭を撫でる。

ボクは急いでタブレットで調べてみた。


“黄金虫”


わ! 一等賞の色だ!


ボクは、絵と一緒に漢字をノートに書き写す。

そして気付いた。

三つの漢字は、全部習ったことがある漢字だった。


……ボク、もう少し漢字の勉強頑張ってみようかな。



「ブンブン、カナブン、コガネムシ。メダカも毛虫もトンボも、ボクはみんなみ〜んな大好きだよ」




《 おしまい 》

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ブンブン カナブン 幸まる @karamitu

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