第3話 お団子、おいしい……?

 あたしと彼氏、お茶系の好みはだいたい一緒。なんだか嬉しい。

 コーヒー、ココア、緑茶とかのお茶、紅茶なんかはだいたいみんな好き。

 ハーブティーだけは香りによってはちょっと、があるくらいで。


 だから、同じで大丈夫。

 暑い熱いあつーい夏がやっと閉店したとはいっても、まだ汗をかく秋の今日この頃。

 だから、冷茶ポットからグラスに緑茶をなみなみと入れて彼氏に渡す。


「はいどうぞ、冷茶の緑茶です。おいしい? でしょ、氷出し緑茶。水出しよりも、さらにやわらかい味になるんだよ。そう、今日は、ちゃんと作ってるの。手作りなの、分かったの? 嬉しい!」


 えへへ。

 お客様、水出し冷茶、またはお時間がございましたら氷出し冷茶にされますとですね、なんと! 緑茶のカフェインの抽出量が、控えめになるそうですよ。

 これは、カフェインが気になる方にも朗報でありますね!


 なんで、敬語? なんとなく、解説風? かな。雰囲気で。


 え? ふだんはもちろんペットボトルだよ。それはそうでしょ、あたしだもん。

 いいの、今日は彼氏がお客様だからね、特別だよ、ってこと。

 心配ご無用。いつもは市販品なことは、彼氏にも、ちゃんとばれてるから! 正しくは、自分からばらしていくスタイル!


 ただ、これねえ、水出し緑茶と、氷出し緑茶。おいしいんだよ、びっくり。

 実は、この一週間、毎日、水出し緑茶にチャレンジしてて。水出しがおいしく、うまくいったので。

 昨晩からは、より時間のかかる氷出しにも挑戦してみました!

 だから、冷蔵庫には冷茶ポットが二つ。そのうち一つが、ここにあるのですよ。


 どっちも、作ったら一日で飲みきらないとだけど。また、気が向いたらたまに作るかも。

 カフェインのこともそうだけど、おいしさのわりには作り方、簡単だし。

 体を冷やしてくれるから、冷やしすぎには注意しないとなんだけどね。


 お出迎えに口頭の下着プレゼンに、で。

 いろいろあったけど、ハンサム彼氏。

 やっと、落ち着いて座ってもらえた。


 一人暮らしの、あたしのおうち。

 台所、それからちょっとだけ広めのリビングダイニング。ここに、食べたり飲んだりパソコンしたり、のテーブルとチェアがあるんだ。

 二人なら余裕なテーブルが置けて、窓もあるから日ざしの入りもわりと調節できて、いい感じ。

 その分、和室な寝室が狭いけどね。

 いいんだ、フローリングと畳、どっちの部屋も、お気に入りだから。


 そうだ、彼氏が持ってきてくれたおみやげ。

「ねえ、お団子、出してもいいかな?」

 もちろん? 

 わあい、ありがとう。


「おもたせで恐縮ですが、だよね。使い方合ってる? よかったあ」

 おもたせ、お待たせ。おやつの好みも合うの、嬉しいなあ。

 それでは、二人で、いただきます。


「どれにする? お先にどうぞ。おもたせだからね。お客様から、だよ! それ? じゃあ、食べましょ食べましょ!」

 お団子お団子。

 彼氏は……あんこ、こしあんのほうね。

 ほかには、つぶあん、ごま、きなこ、ずんだ、みたらし、おいも……。おいしいのが、たくさん。


 では。

 あたしはみたらし、食べまーす。

 おいしそう。地元商店街だから知ってるけどね、いつもよりも、さらにつやつやな感じ。


 あむ。

 うーん、やっぱり、おいしい!

 おいしさが、増してる!


 ここのみたらしのお団子は甘じょっぱ系なんだけど、お砂糖の甘さのなかに、きりりとした醤油の味が引き締まっていて、それでいて、お互いに存在を主張し過ぎない、ほどよい甘じょっぱさという風味を醸し出してくれていて、もちろん、お団子じたいのもちもち感も……。

 なんて、あたしがうっとりとしていたら。


「あ、たれ、たれたよ」

 彼氏の声。

 ……え。

 たれ、たれた?


 ああ……みたらしのたれ。おいしい、たれ。

 たれた……。

 どこに、って。胸ですよ。

 うわ、けっこうたれてる。

 とりあえず、指ですくって……。


 え、おいしそう? たれ? ちがうか。お団子?

 うん、おいしいよ! 食べる?


 彼氏のこしあんのお団子。もう、串だけになってた。

 買ってきてくれたやつ、まだ何本もあるけどね。

 隣でちがう味を食べてるの見てると、そっちの味も、食べたくなるよね。


 分かる分かる。

 で、あたしは、まだ残ってるみたらしのお団子の串を、危なくないように横にして、彼氏に向けようと……。


 したら。


 ぺろり。

 あれ、指、指……?

 なめた?


「あ、ごめ、ごめ……ん」

 彼氏、おろおろ。


「や、ゆ、指はびっくりしたけど……ごめん、じゃないよ、うん、びっくりしただけ」


 あたしは、あわあわ。


「あ、そうだ、しみ抜き……!」

 うん、とりあえず、しみ抜きだよね!


 ええと、みたらしのたれは意外に落ちやすいんだった!

 だから、服に、水! 

 すぐに水道水で流したら。

 間に合ったよ! キッチンが近くて、よかったあ。


「よかった、落ちたね。あ、みたらしのたれ。意外に落ちやすく、水でもほぼOK。それでも、のときには、台所洗剤を少し落としてみると、いいそうですよ」

 彼氏。また、途中から敬語? 

 でも、みたらしのたれ、台所用洗剤でも落ちるんだ……へえ、ありがとう、覚えとくね。

 おばあちゃんじゃなくて、ハンサム彼氏の知恵袋かな?


 あ。

 とりあえず、残ったみたらしのお団子。

 それは食べました、ぱくりと。


 うん。

 やっぱり、おいしい。すごく。

 で、がんばって作った冷茶も、ごくごく。


 ふー、ぷはー。


「あ、そうだ。濡れてるから着替えてくるね」


「着替え。急がなくていいからね……」

「ありがとう!」

 あたしは、襖を開けて和室に入る。


「着替え……いや、深い意味はないから……そうだ、すい……」


 あれ。なんだか、彼氏の声。

 すいせい、水性? とか聞こえてきた気がするんだけど。台所用洗剤って中性だよね。

 気のせいかな?


 それよりも。着替え、着替え……。


 今着てるのは、七分袖のTシャツ。

 着やすいけど首もとだるん、なTシャツとかじゃなくて、部屋着のなかでは一軍のなかから選んだやつなんだけど。


 次は、ど、おれ、に、しよう、かな。


 あ。そうだ。

 お客様、彼氏様をお待たせしてて、の着替えなんだから、ね。


 着替えるなら、あれに……。


 し・よ・う・か・な、と!

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