狼と二足歩行
狼
「魔女、手を離したら噛むからな」
魔女
「もー。この前立ててたんだから大丈夫だって。初日の勇ましさを思い出して。ほら、体重移動するよ。右、左、右〜、あ、腰引かない。しっぽでバランス取ろうとしないよ」
狼
「っ、わかっている」
魔女
「いいじゃん。上手いよ。ほら1、2、1、2……」
狼
「……歩いていいか」
魔女
「お、いいね。やってみよう。小さくていいからね、右足からいくよ」
狼
「手は離すなよ」
魔女
「わかってるって。ほら、1歩」
狼
「……。」
魔女
「いい感じ。次、もう一歩。筋力は有り余ってるから、重心移動さえ覚えたら歩けるようになるはず。時間かかって筋力が落ちるほど歩くの難しくなるからスパルタで行くよ」
狼
「わかっている……だが、10年狼の体躯で生きてきたんだ。尾があった頃の感覚は中々抜けない。足の重さにも慣れん」
魔女
「まだ1週間だからね、仕方ないよ。徐々に慣れるさ。……とは言いつつ良い調子じゃん。ね、手離してみよっか」
狼
「噛むぞ……また足を捻って、歩行の練習が遠のいたら敵わん」
魔女
「なんか、昔、弟が箒の補助翼を取るの嫌がったったの思い出すな」
狼
「 よく分からんがよせ……子供と並べてくれるな」
魔女
「ん、ごめんね」
狼
「……いい日和だな。間もなく北の森も雪が溶けるだろう」
魔女
「ね、暖かくなったね。君が歩くようになったらピクニックしようよ」
狼
「なんだそれは」
魔女
「天気のいい日にお弁当持って、みんなでお外へ出かけて原っぱとか気持ちいい景色の場所でご飯食べるんだ」
狼
「……それは。面白いのか?」
魔女
「面白い……んー。楽しい? お家で落ち着着いてダラっと食べるご飯も美味しいけれど。風に当たりながら、お弁当を持ち寄ってみんなで食べるのもまた美味しいんだよ」
狼
「味が変わるのか……」
魔女
「うーん。情操教育難し〜っ! あ、そうだ、ヘンゼルとグレーテルも呼ぼうよ」
狼
「誰だそれは」
魔女
「最近(10年前)できた妹弟子と弟弟子。私だいぶ歳取ってるから、今どきの恋愛観とかもうわかんないんだよね。あ。私人間じゃないから、そもそもの価値観が多分ズレてる。だから私は君の恋路にいいアドバイスが出来ない」
狼
「何を言っている。元よりお前に助言を乞う気はない。期待もしていない。自分の狙った雌くらい、自分で認めさせる」
魔女
「エッ。……こほん。でもさ、狼の異性の好みやアプローチ法と人間のソレは全く違うよ。これだけは断言する」
狼
「……人間だろうと動物である以上、良い巣と肉を用意して見せれば認めるだろ。生き物とはそういうものだ。」
魔女
「人間はそれだけじゃないんだ。お家とご飯さえ出せば良しだと思ったら大間違いだよ。他にもたくさん生活に必要なんだから。そもそも人間の住む巣は
狼
「それはここで、お前と暮らしているから分かっている。お前の住んでいるような家と飯を作ればいいんだろう。肉の解体はまだだが、調理に関しては既に覚えてきている。今朝は俺が
魔女
「うーん。人間になったって言ってもなぁ。どうやって作れるようになるつもりなのさ」
狼
「歩けるようになったらお前に教えを乞う」
魔女
「そう来たか。あー、あのね私はどっちもできないよ。魚類と両生類と虫は捌けるけど、魚くらいしか女の子には需要ないと思う」
狼
「……そういえば、お前も雌か。すまない、雌の匂いがしないから忘れていた。そうか……ならば他の雄を当たろう、恥だが雄を紹介してほしい」
魔女
「えっと、あのね、男の人だって全部できる人はほとんど居ないよ。人間は家を建てる時、それを立てるのが得意な人に対価を払って建てて貰うんだよ。家を建てるために10年以上修行してる人が居るの。そういうひとつの事を時間をかけてできるようになった人を職人というんだけど。肉の加工もそう、生活に必要な一つ一つの物をみんなで分担して作って、対価を払いあって揃えるんだ」
狼
「そう、なのか……」
魔女
「そうだよ。君が言っている巣と肉にあたるのは、その交換に使う対価をどれだけ持っているか、財力だね。あとそれだけじゃない、相手を理解しようと歩み寄る姿勢だったり、性格、気質の合う合わないもある。……世代によって求めるものも違ったりするからさ、君の想い人と同じ年頃の子と話したら、良いアピール方法知れるかもよ」
狼
「……行く。会わせろ」
魔女
「そういう素直なところも君のいい所だよね。じゃあ、さっそくピクニックの予定を立てようか」
狼
「? 魔女、それは気が早いと言うやつだ。まだ、俺は満足に歩くことが出来ない。そんな姿を他の者に知られたくない。弱ってると思われるのは我慢ならない、解っているだろ」
魔女
「んーあのさ、狼くん、手元よく見てご覧」
狼
「……? お前が手袋から手を抜いたことには気付いている。この浮いた手袋が支えているだろ?」
魔女
「膨らみはあるだろうけど、今はもうただ君の手に貼り付けてるだけだよ。君、随分前から1人で歩いていたの気付いてなかったでしょ」
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