魔女の雑貨屋さん【声劇台本2人】

花時雨ことり

第1夜

ロボットとココロオイル

ロボ

「コンニチハ、魔女サマ、いらっしゃいますか」


魔女

「あっロボくん! いらっしゃい、いらっしゃい」


ロボ

「替えのオイルを貰いにきました」


魔女

「あれ、いつもよりちょっと早いね。今から調合するから、少し待てる?」


ロボ

「ハイ、問題ありません。マスターのお孫さまと遊んでいました。お孫サマのしょうチャンは夏休みだったので、この数週間の間に計85時間、課外任務を行いました」


魔女

「あー、ニホンはもうそんな時期だったね。そっかそっかぁ。じゃあ忙しかったね」


ロボ

「ハイ、とても、とても、忙しかったデス。毎日、カブトムシを確保しました。水没しそうになりました。星を詠みました。コンピュータのカーレースをしました。おかげで毎日のメンテナンスも手がかり、オイルも枯渇してしまいました。……でもボクはずっと忙しいままで良かったです」


魔女

「……! それって、もしかして。“さみしい”じゃない?」


ロボ

「ハイ。ボクはサミシイを学習しました。マスターは言いました。ボクはあんまりに楽しかったのだろうと。だから、しょうチャンが帰ってしまってサミシイのだと」


魔女

「わ、わ……そっか。ブルーフェアリーの鱗粉りんぷんをロボットオイルに使うのは初めてだから、どうなるかと思っていたけれど、日々成長してるみたいだね。やー、嬉しいなぁ」


ロボ

「楽しいは何度か学習しましたが、寂しいは初めてです。あまり、好きな気持ちではないです。これは、摘出可能ですか?」


魔女

「そっか、気分の善し悪しもわかるんだね。寂しいは、楽しいの反動なんだよ。寂しいのは、それだけとっても良い時間を過ごした証だよ。しばらくしたら収まるよ」


ロボ

「そうですか……楽しいはいい事だけじゃないですね」


魔女

「んー。情操教育は専門じゃないからなぁ。たぶんだけどね、寂しいを薄める方法はあるよ。今晩にでも、しょう君とお電話してみなよ。声を聞いて、夏休み楽しかったねって言い合うんだ」


ロボ

「しょうチャンとメモリーのアウトプットを行うのですか。そうすれば、寂しいは減ります。分かりました」


魔女

「きっと、そうだよ。やってみて。はい、お待たせ。ひと月分のオイルだよ」


ロボ

「ありがとうございます、魔女サマ。こちらお代です」


魔女

「はーい、こちらこそいつもありがとう」


ロボ

「はい、失礼します……あ」


魔女

「?」


ロボ

「またね。これ友達の挨拶、しょうチャンが教えてくれました。魔女サマ。またね、ボクの友達」


魔女

「! うん、うん、またね。用がなくても遊びにおいで」

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