最年少の最強忍者と猫!? ロボで世界を救っちゃう話

ねこぶし

序ノ巻 ―忍猫の日常―

 吾輩わがはいは猫である。名前はモンまる


 ――やはり猫たるもの、この冒頭で始めるのが様式美であろう。


 ……とはいえ、一人称は「吾輩」ではないのだが。


 七年前に――この異世界ジアースに飛ばされてきた。


 けれど、今はとても充実している。


  と出会えたからだ。


 それまでは、日本という国で気ままに生きていた。


 人と暮らすこともあれば、一匹で野良として過ごすこともあった。


 人の文化に触れるのが好きで、読み聞かせだけでなく、自分で書籍を開いて読むこともできたから、様々な文章を読んできた。


 今は、の成長を見届けること――それが、残りの猫生をかけて生きる目的だ。


 ……もっとも、に寿命があるのかどうかは、定かではないのだが。


 ―――――――


 猫の朝は早い。


 一緒に寝ている家族を起こさぬよう、そっと布団を抜け出し、朝の散歩に出かける。


 時計を見てはいないが、おそらく今は朝の四時頃だろう。少し早いかもしれない。


 まだ日が昇りきらない薄明の中、里を歩くのが日課である。


 豆腐屋の前を通ると、仕込み中のオヤジさんが顔を出す。


「おはようにゃー」


「お、モン丸。おはようさん、今日も早いねぇ」


「もう少し待っとくれ、今仕込み中さ」


「にゃー、またあとでくるにゃ」


 モン丸は尻尾をゆらゆらと揺らしながら歩き去る。


 その尻尾は、二つに分かれている――猫又ねこまたである。


 かれこれ二百年近くは生きている。


 毛並みは黒をベースに茶が混ざり、たてがみのような毛が入り、顔と腹の下は白い。


 首には宝玉が飾られた首輪。だが、鈴はない。音を立てぬためだ。


 そう、モン丸は猫の忍者――忍猫にんねこ


 主な任務は情報収集、潜伏先での聞き込み、影に潜んでの護衛。


 猫としての身軽さと、二百年の経験がそれを可能にしている。


 新聞屋の前に着くと、配達前の若い男性と目が合う。


「やあ、モン丸、おはよう」


「おはようにゃー」


「女将さーん、モン丸きたよー!」


 店の奥から「あいよー」と返事が返る。男性は自転車に跨がった。


「それじゃあ行ってくるね」


「いってらっしゃい、きをつけてにゃー」


 モン丸が見送ると、奥から女将さんが顔を出す。


「モンちゃん、おはよう」


「おかみさん、おはようにゃー」


 いつものやり取りだ。女将さんは新聞を一部取り出し、モン丸に渡す。


「はい、今日の朝刊ね。いつもご苦労さん。紫絃しづるくんは元気?」


「しづるはいつもげんきにゃ」


 モン丸は器用に背中の鞄へ新聞を押し込み、ぺこりと頭を下げる。


「ありがとにゃ。それじゃあ、バイバイにゃ」


 豆腐屋と雑貨屋にも寄り、豆腐と牛乳を受け取ると帰路につく。


 ―――――――


 家に戻ったモン丸は、荷物を台所におろし、寝室へ向かう。


 ――そろそろ家族を起こす時間だ。


 布団の中、すやすやと眠る小さな寝顔。


 年よりも幼く見える。


 可愛らしい寝顔。これでも十二歳。


 五歳の頃から一緒だから、もう七年の付き合いになる。


 頬をぺろりと舐めてみる。猫の舌は少しざらついている。


 むにゃむにゃと目を開けた少年が、眠たげに笑う。


「おはよう、モン丸」


「しづる、おはようにゃ」


 紫絃しづるとモン丸。ふたりの朝が始まる。


 紫絃はせっせと布団をたたむが、モン丸が布団に挟まるように邪魔をする。


「もー、モン丸ー」


「にゃにゃにゃ」


 そんな何気ないやり取りが、二人の日常。


 紫絃は台所で朝食の準備を始め、モン丸は新聞を読みはじめる。


「『ていこく』が『おうこく』にせんそうをしかけるかもしれないがでてるにゃ」


 『帝国』とはノイエスヴァルト帝国、『王国』シルヴァン王国とは隣国だが、どうにも馬が合わずしばしば対立している。


 紫絃とモン丸は、シルヴァン王国の領地はずれ南東の森の中、忍びの隠れ里で暮らしている。


「ちょっと情報が古い気もするけど……ボクらの調査とも一致しているね。前『帝国』に潜った時、すでに噂になっていたし」


「しんぶんは『おうこく』のだからしかたにゃいにゃ」


 豆腐の味噌汁、目玉焼き、ご飯、漬物。それに牛乳。


 モン丸には、猫用のご飯が用意される。


 いつも通りの朝食が整う。


「「いただきます」」


 朝食を食べるのはとても大事なことだ。


 体調を整え、一日の活力の基となる。


 紫絃は成長期、たくさん食べて大きくなろうとしている。


 食後、紫絃はモン丸の毛すきを始める。


「しづるー、くすぐったいにゃー」


「ダメだよモン丸、生えかわりの時期なんだから。ほら、この前も毛玉吐いてたでしょ」


「うっ……にゃー」


 観念したモン丸はおとなしく梳かされる。


「はい、できた。モン丸玉!」


 毛を丸めて作ったふわふわの玉を手渡され、モン丸は目を輝かせて、玉と戯れる。


 これが、忍猫と少年の朝の日常だった。


 ―――――――


 その後、ふたりは修行、鍛錬を始める。


 そう――紫絃も忍者なのだ。


 幼くとも厳しい修行を積み、今や魂機兵アニマ・ソキウスの乗り手。


 しかも色持ちカラーズの一人に選ばれた。


 彼の愛機は、三百年のあいだ誰の手にも渡らなかった気難しい機体。


 それが、紫絃には心を開いたのだ。



 鍛錬の内容は、座禅、柔軟、筋トレに始まり、水中訓練、森の木々を活用したパルクール訓練、最後に戦闘訓練。


 紫絃が忍刀を逆手で構え前に突き出し、モン丸は口に苦無を咥え対峙する。


 一瞬の静寂の後、風が木々をゆらすのと同時に両者が地面を蹴り、刃が激突する。


 金属がぶつかり合う甲高い音が生じながら影が交差する。


 何度目かの交錯で紫絃とモン丸の間に距離が生まれたその刹那、モン丸がポシェットから無数の苦無を宙に浮かせる。


 猫又の妖術である。


 そのおびただしい苦無の群れが、空中に浮かぶ紫絃を四方八方から囲い込む。


 一つの苦無が紫絃に向かって飛び掛かるのと同時に、他の苦無もまるでジェットエンジンを積んでいるかのような速度で、紫絃目掛けて飛び込んでいく。


 紫絃は懐から苦無を左手で取り出し、右手に忍刀左手に苦無を構え、迎撃の態勢を取る。


 怒涛の苦無群が迫り、紫絃を貫こうとした瞬間、紫絃が右足で空を蹴り身体を横に高速で回転させる。


 それと同時に迫りくる苦無を左右の刃で一つ一つ丁寧に弾き落としていく。


 身体を一周させた後、今度は左足で空を蹴り、身体を縦に回転させ苦無を迎撃していく。


 最後に正面の苦無群に向き直ると、それらは弾く方向を下ではなく実行者へと変え、反撃に出る。


 弾き返された苦無たちがモン丸を襲う。


 一本の苦無がモン丸を突き刺し、また一本また一本とモン丸を土台に苦無の森が出来上がる。


 紫絃が地面に着地し、モン丸を見やるとそこにはモン丸と同じくらいの大きさの丸太が苦無まみれで転がっていた。


 紫絃がモン丸の気配を探ろうとしたその時、頭の上に乗っかるようにモン丸が現れる。


「まだまだにゃ」


 こうして戦闘訓練はモン丸に軍配が上がり、終了を迎える。


 ―――――――


 午前の鍛錬を終えた後――


 昼食を食べつつ談笑していると、空から爆ぜるような衝撃音が響いた。


 紫絃とモン丸は庭に飛び出す。


 空を見上げると天蓋護結界プロテクション・フィールドに無数の光。


 天蓋護結界は、この惑星ジアースを覆う防御結界である。


「隕石……?」


 目を凝らすと、三十ほどの光が結界に衝突し、二つが結界を突き抜け地表へと落下を始めた。


 凶星のような軌跡を描き、シルヴァン王国の森北東部に墜ちていく――。


「モン丸、一大事だよ! きっと招集が掛かる。準備しよう!」


「りょうかいにゃ!」


 紫絃は、紫色を基調とした忍装束しのびしょうぞくを身につけ、その上に手甲や脛当て、胸当てを装備し、各収納先に丸薬類や武具類を納め、懐に宝玉がはめ込まれた苦無をしまう。


 長めに伸びた紫色が少し混じった白髪を総髪オールバックにまとめ、顔の半分が隠れるほどの大きな紫色のマフラーを巻き、準備を終える。


 普段はニコニコした顔つきだが、装束を纏うことで、少年の顔が一瞬で“忍び”のものになる。


 短距離通信機が鳴る。


「招集が掛かった。ボクは棟梁のもとへ行く。モン丸は待機だって」


「りょうかいにゃ」


「それじゃあ、行ってきます!」


「いってらっしゃいにゃー」


 モン丸は右前脚を上げ左右に振り、玄関で紫絃を見送った。


 去っていく背中を見つめながら――


 彼の無事を、ただ静かに祈っていた。


◇◇◇

あとがき


ここまで読んで下さり、まことにありがとうございます

著者はむせび泣いております;;


日常パートは一旦ここで終わり、次回からロボットバトルパートへ突入します

モン丸ちゃんの出番はしばらくお休みです


少しでも面白いと思っていただけましたら、作品のフォローをお願いいたします


応援するの横の♡を押していただけますと、著者のやる気がグングン上がります


何卒、よろしくお願いいたします

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