ミステリー大得意の天野純一さんの最新作です。いやー、これは面白い!
冒頭からカップルのラブラブぶりが展開されます。
だけど、やたら完璧な彼ピで、高校生なのに一人暮らしで、何か怪しいな。。このあたりからフラグはまるで林のごとく立ちまくっているのですが、全てを予想して読むのは不可能でしょう。
楽しいデートの3日後、ヒロインの元に訪ねてきた刑事が言ったことは。。
なーんだ、そんなセコい話だったのか。あはは、ケチな野郎だな。その彼ピ!
なんてはずないでしょうが!
これは驚きました。コミカルながら、本格推理。やや強引ながらも、イクラ丼も絡めてお題も完璧!
付近の配置図なんかも用意されていましたので、島田荘司氏の「火刑都市」みたいな話かと思って、じっと見てしまいましたが、そんなことはありませんでしたw
ミステリーに習熟した、手練れの一作。
これはお勧めです。
本作の魅力については、すでに読み巧者の諸氏が的確なレビューを書かれておりますので、自分は本格ミステリという観点に絞って。
常々、思っていることなのですが、本格ミステリにおいては、謎が不可思議であればあるほど、いうなれば謎が大きければ大きいほど良しとされる傾向があるように思うのですが、実際の作品の多くは、謎の大きさに対して解決が小さい、つまりは解決が謎の魅力に負けてしまっている、ということが結構見受けられるように感じています。
それよりは、戦略的に、あえて謎を小さくして解決を大きくした方が、結果的にミステリとしての衝撃度が増すのになあと思うのです。
ただ、その分、解決編に至るまでのリーダビリティが弱いという面があるのは否めないかもしれません。
とすると、謎>解決か、謎<解決か、これは結局は読者の好みによるということかもしれませんが…
しかしながら、本作に限っていえば、作者の力量はすでに諸作で実証済なので、謎が小さいのは好みではないと思う読者の方も、安心して読み進めていただきたいと思います。
ほのぼのとした何気ない日常の描写が続きますが、解決編に至って、物語の様相ががらりと変貌し、紛うことなき本格ミステリとしての姿が全貌を現します。
まさに、謎<解決、の理想形だと思います。
何気ない日常の描写の中に隠された矛盾から、堅牢なロジックが紡ぎ出される過程は、お見事としか言いようがありません。
とある風景描写や、地図の一部分の記載に隠された真の意味に気づく読者はおそらく皆無でしょう。
繰り返しますが、謎の不可思議さ大きさだけが本格ミステリの魅力ではなく、謎が解決に至って大きな広がりを見せる。
そのような作品も本格ミステリの理想形の一つであり、本作はそのことを実践していると断言します。
ミステリに少しでも興味のある方なら、ご一読をおススメいたします。
「イクラ」をテーマにした本格推理がとても楽しかったです。
主人公の亜希には、将平という『完全無欠』な彼氏がいた。運まで良いらしく、ニンテンドーswitch2すら最初の抽選で当たるという強運の持ち主だという。
そんな将平から「サプライズ」として目隠しをされ、亜希は「うま寿司」というお寿司屋さんへ連れて行ってもらうことに。
初めて入る店に歓喜するも、どうも将平の行動にはおかしな点が。
なぜか、「イクラ」しか食べようとしない。それも、どうも皿を取る時の行動も妙にアクションが大きい。
彼のこの行動、妙な違和感が。果たしてこれは気のせいか。それとも何かそうせざるを得ないような「何かの理由」があるのか。
いわゆる「日常の謎」のカテゴリーから始まって、思わぬ方向へと読者を連れて行ってくれる構成が素晴らしい。
「イクラ」というネタ。他の寿司ネタとは一線を画する「とある特徴」。それが生かされているのがまずとても面白いし、そこからの「WHY」に対する答えが二段階で描かれていくことで、ミステリーとしての高い満足感を読者に与えてくれます。
「ちょっとした不思議」が紐解かれていく中で、思わぬ広がりが見えてくる。これぞ「推理」の楽しさだ、とミステリー好きとしてはニヤリとさせられっぱなしでした。
回転寿司のほのぼのとした雰囲気と、思わぬ形で張り巡らされた推理の伏線。最後まで読者をおもてなししてくれる、とても素敵な作品でした。
彼氏を彼ピとか言っちゃう女の子――小林亜希。
彼女はこの日、彼氏である将平の家を訪れる。
将平が作ってくれた朝御飯を食べた後、亜希は彼と一緒にゲームをするんだけど、彼女はその最中に眠気がきて、一端寝ることになった。
亜希が目覚めた後、将平がサプライズをしたいから目隠しをしてほしいと言われ、了承した彼女は、その状態であるところへ連れていかれる。
そこはチェーンの回転寿司店だったんだけど、どうやら回転寿司を食べたことない亜希をそこへ連れていきたかったらしい。
そんな将平に、亜希は嬉しさのあまり抱きついた……。
とこのように幸せなカップルが序盤で描かれています。
その後、二人はお寿司を食べることになるんですが、ところどころ「ん?」と首を傾げたくなるようなシーンが何度も挟まれています。
違和感を抱くものの、基本的にはただカップルが家でいちゃいちゃした後、回転寿司を食べるだけの、なんか普通の物語だなあと思っていたら、後半は驚きの展開の連続でした。
前半部分を注意深く読んでいただきたいです。いろいろ仕込まれているので。
大雑把に言えば、回転寿司を食べにいく、ただそれだけの物語で、ここまで衝撃をたくさん受けさせることができるということに、感服いたしました。
是非ご一読を。あなたもきっと驚嘆することになります。