天才外科医の異世界観察ライフ=ほぼほぼ5歳児物語=

咲谷 まき

第1話 プロローグ : 俺は一体何者なんだ?

ここは異世界…地球ではない最果ての星。

…の更に果て。


そこの大陸に、一際目立つ岩だらけの不毛な山がある。

そして、その一角に孵化していない真っ黒な卵が一つ。


この卵から生まれるのが、この物語の主人公である。

非常識且つ人間ではない人外の主人公だ。


だが、その事を本人はもちろん、周囲の者はまだ知らない。

なんせ、まだ孵化してないのだから…。


その卵の周りに、何故か意味なく待機する4人の女性。

周囲の者とはこれらの人物を指す。


のちに、主人公の従者になる4人である。


この4人は、元々仕えていた主人から許可なく逃げるように卵についてきた。


別に、卵に愛情が湧いたわけではない。

育成係でもない…いや、ある意味、育成係になるだろうか…。


逃げてきた理由は、ただひとつ。

もうついていけない!

これである。


名前、扱い、すべてにおいて従者の意味を見出せなかった4人は、卵から生まれる子供になら、最初から常識を教えこみ、自分達も真っ当な人生を送れると判断して、今ここにいる。


「でも、こうして逃げてきたのも把握されてるような気がするんすよねぇー」

うんうん。


1人がつぶやき、他が無言で同意する。


「……」

そんな会話を聞いている主人公…。


そう、主人公は孵化してなくても、卵の中ですでに意識を取り戻していたのだ。


だが、周りは真っ暗、卵からも出られない。


だから、意識が戻っていても、周りの様子はまったくわからない。

外界の声や音も、卵から発せられる振動から読み取ったものなのだ。

卵を割る工夫もしてみた、外に人の気配があるので、叫んでみたがダメだった。


結果、ただただ黙って卵が割れるのを待つしかない…という状況のまま時を過ごす事になっているのである。


「暇だ…だけど、なんで腹が減らない?何故俺は服を着ている?何故ヘソがある??」


卵の中にいるのだ。

ヘソがあるわけがない。

ましてや、卵の中で服を着てるはずはないのである。

常識的に考えて…。


「ところであんた…こんなとこにいていいの?あたしはいいけど…」

「それは僕のセリフでもあるんだけど?まぁ、僕はいいけど…」

「わっちのセリフでもありんすな」

「妾のセリフでもあるのじゃが?」


と、それぞれに自己主張をする4人。


(なんの話をしてるんだ?)


当然、外から聞こえてくる言い争い(?)に疑問を持つ主人公。


だが、「何の話をしてんの?」とは聞けない。

なんせ、外の音は聞こえていても、中からの声や音は聞こえないのだから。


☆☆☆


パキッ…。


意識を取り戻してから何年が経ったのだろう。

突然、卵にヒビが入った。


「あれ?何もしてないのに卵にヒビが…」


と思っているのは本人だけ。


実は、しっかりとをやっていたのだ…無自覚に。


では、何をやっていたのか。


『魔力供給が完了しました!これより封印を解きます!』


よくある脳内に響くナビだ…。


そう、主人公は無自覚に卵からの魔力を吸収して育っていたのだ。


「「「「きゃー!封印が解けるんですってぇー!!長い間待ったかいがあったよねー!」」」」


「ん?んん??」

(ちょっとまて!何故周りにも聞こえている??)


『へ?あなたに念話能力がないからですよ?』

「何それ?もしや、俺が念話を習得するまで、オープン回線で、俺のこれから習得するあれやこれやが垂れ流される…と?」

『まぁ、そうなりますかね?』


「ナビさん、お坊ちゃんのステータスは、今、どんな感じなんですか?」

(おい!俺のナビに何を聞いている?これはおそらく俺のスキルだ!他人に情報をもらすわけないだろうがっ!)


『そうですねー、今の魔鬼王様のステータスは…』


(躊躇なく暴露するんかいっ!)


『お坊ちゃんが念話を習得すれば、解決する話ですけど何か?』

(いやいや、それ以前の問題だと思うんだが?)


お坊ちゃんと呼ばれ、魔鬼王と呼ばれた生まれたての主人公は絶句した。


とりあえず、このサポートナビの性能がクズすぎる。


なんとかならねーのかっ!


『今のところ、何ともならないですね…生まれたてのあなたが、さまざまな能力を取得するまでは…』


「あっそ…」

俺はそうそうに諦めた。


問題はナビだけではないのだ。


そう、それは卵から出たくない一因でもある。

卵の側にいる、およそ4人の女性。


ナビがだ。

4人の女性がまともなはずがない。


しかし、そんな気持ちとは裏腹に、卵の魔力はドンドンと吸われ、殻が薄くなっている。


俺の孵化はすでに止める事ができない段階にきている。


あー!

憂鬱だ…。

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