連れ去られた朱音
辺りを見渡すともう暗く、向かい岸に見える門司港のビル屋上に設置された航空障害灯が赤く、そしてポツポツと点滅していた。
「とりあえず、固まったホログラミウムを再び分解して解くとするか……」
俺は前原からホログラミウムを取り除いた。
「君は一体何者なんだ、千早君」
「お、俺?うーん、なんというか……」
しばらく目を瞑って考えた。
駐機中であるファンペルネの下で座っている弱ったアミュが俺に向かって叫ぶ。
「逃げられてますよーっ!げほっげほっ」
少し遠くを見ると、走り去っていく前原が見える。
言えることは一つ、卑怯だ。
「好きに逃げてろよ……ん?……はぁっ?!」
前原は女の子を片腕で抱えており、その人のスカートから見えるパンツの柄はデフォルメの可愛いクマだ。
その連れ去られる女の子を見て知奈が大泣きしている。
おそらく、抱えられているのは朱音。
「朱音……さん……アミュ!いや、その仲間でもいい!俺と一緒にあの男を追いかけてくれ!」
日本語で叫んでしまったが、同年代のロシア人と思われる隊員が所属不明機を操っていた少年への尋問をやめ、こちらへ走ってきた。
「畜生!今度は何だよッ!」
彼の軍服には『イグナート・ヴォルコフスキー』と小さく書かれている。
「俺の友達が連れ去られたんだ。奴は下関駅の方向へ向かってる」
「だったら早く行くぞ!ボーっとすんなよォ!!」
イグナートは前原が逃げた方向へ走り出した。
◇◇◇
やっとの思いで下関駅に着いた。
全速力で前原を追いかけたので、脇腹が痛い。
「おい、あいつ小倉行に乗るつもりだぞ」
そう言ってイグナートは交通系ICカードを改札に翳し、ホームへと駆け上がっていった。
「福岡市地下鉄のICでもいけるかー?」
「翳してみろ、このドアホが!」
小さくイグナートの声が聞こえる。
それで、俺は恐る恐るカードを改札に当てた。
「ピッ!」
……いけた。
小倉行の電車が既に停車していたようなので、俺は急いで階段を駆け上がる。
なんという苦痛。
日々運動をしておけば良かったのに。
颯太の言っていたことが、ふっと脳裏をよぎった。
才能は努力に勝てない、だとか。
「こっちだ!」
ホームに上がると、イグナートが俺の手を引っ張り電車の中へ連れて行く。
「はぁ……なんとか奴と同じ電車に乗れたな。そういや、えっと、お前の名前イグナートで合ってるか?」
「そうだ、イグナート・ヴォルコフスキー中尉だ。お前は?」
「千早涼亮だ。よろしく」
自己紹介をしている間に電車は下関を発車した。
前原と朱音とは隣の車両に乗車している。
予想される行き先は、門司港。
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