第16話

「所有物って……」


 俺は突然の申し出に混乱していた。


 だけどリズは冗談を言っているようには見えない。


 むしろ真剣だった。


「本気です。それがアメリアを助けるための唯一の方法ですから」


「アメリア?」


 聞いたことのない名前が出てきた。


 リズは寂しそうに頷いた。


「はい。アメリアはわたしの親友で里の姫なんです。ですが里の近くで人間に捕まってしまい、この街に売られたと聞いています」


「それってつまり……」


 奴隷。


 でも嘘には聞こえなかった。


 あの街の連中は獣人を人扱いしない。


 どこから捕まえてくるんだろうと思ったけど、獣人が住んでいる場所まで行っていたとは。


 そこまでするなんて。ひどいな。


 リズは頷いた。


「そうです。奴隷として売られました。おそらくまだあの街のどこかにいるはずなんです。わたしはアメリアを助けたい。どうか力を貸してくれませんか?」


「それで所有物か……」


「はい。あの街で獣人が行動するには誰かの奴隷になるしかありませんから」


 奴隷でもない獣人が歩いていたらすぐさま捕まるだろう。


 あるいは殺されるかもしれない。


 逆に言えば誰かの奴隷であれば守られる。


 他人の奴隷を盗んだり殺したりするのは重罪だからだ。


「だけどそのためにリズを奴隷にするなんて……」


 リズは優しく微笑んだ。


「気にしないでください。これもアメリアの為ですから。それにソーコさんなら信用できると判断しました。こう見えて人を見る目はあるんですよ」


 そう言われると悪い気はしない。


「褒めてくれるのは嬉しいけど、俺なんてポンコツだよ。カネもコネもないしさ。一人で生きていくのが精一杯だ」


 リズはかぶりを振った。


「そんなことありません。ソーコさんはきっとすごい人になります。あの魔犬を倒したんですから」


「いや、あれはただラッキーだっただけだよ。正直どうなったか分からないし」


「意識しないで倒しちゃうなんて。やっぱりすごいです!」


 リズは尊敬の眼差しを向けるけど、俺は苦笑するしかできなかった。


 こんなに褒められたのは生まれて初めてだ。


 いつだって馬鹿にされたり、鬱陶しがられてきた。


 こんな経験ないからどうしたらいいか分からない。


 だけど誰かから頼られるのは俺にも価値があるみたいで嬉しかった。


 それに俺も獣人のことはどうにかしたいとずっと思っていた。


 あの子達を奴隷として扱うなんて馬鹿げている。


 それもこれをどうにかすれば、俺が変われるきっかけになるかもしれない。


「……分かったよ。君の所有者になる」


 俺が手を差しのばすとリズは嬉しそうに両手で掴んだ。


「本当ですか? ありがとうございます!」


 喜ぶリズの顔を見るとこっちまで笑顔になる。


 こうして俺達は主従の誓いを結び、その証拠として首輪をリズに買い与えた。

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