last twinkling|ひかりがひかる★



 GHへと延びる道を歩きながら、ひかりは神崎に言われたことを反芻していた。厖大な情報量に、ひかりの脳細胞はショートしかけていた。おそらく、いくらかの脳細胞は死滅しただろう。すまない、わたしの脳細胞たち。


 おそるべし神社男子。


 いや、彼が特殊なだけかもしれない。試しに神社男子と神社女子の会話を想像しようとしたが、そもそも神社知識ゼロのわたしが想像できるはずがないのでやめた。たぶん、その間にも、いくらかの脳細胞が死滅しただろう。すまない、わたしの脳細胞たちよ。


 収穫はあった。ありすぎた。アリとキリギリスだ。ん、なんか、すこし、脳細胞が活性化した気がする。くだらない大事だなぁ、と悟りを開く。観音開きで。ぱかぁん。


 脳細胞が活性化しているうちに、分かったことをあらためてまとめておこう。


 まず、きらきら星は金星だということ。

 金星は、神話的に邪神とされていたが、その稀有な存在感から、だんだんと願いごとを叶えてくれる対象へと変わっていったこと。お兄ちゃんが亡くなった日は長い月の日で、つぎに起こるのは今年の十二月十五日、わたしの誕生日だということ。



 わたしの誕生日、なにが起きるの?



 少数精鋭が売りのわたしの脳細胞部隊では、問いに答えを出せそうもない。ならば、取るべき手段はひとつ、他力本願だ。ふっふっふっふ。待ぁーっておれ、頼られる者どもー!



 ふたたび脳細胞が活性化する。





「というわけなんですよ〜」

 頼られる者候補第一号に告げる。


「はぁ????」

 頼られる者候補第一号は最大限の警戒心で防御する。


「いやぁ、そんなにもあからさまな防御姿勢とらないでくださいよー」

 頼りたい者一号は下手に出る、これは、世の常だ。


「手をすりすりしたって効果ないよ。というか、あなた、それを信じてるわけ?」

 頼られる者候補第一号は容赦ない。


「信じる、信じないじゃなくてですね、わたしひとりだとキャパオーバー過ぎてですね、もしよければ、すこしでもシェアできたらとおおもいまして、はいー」

 下手第一号は必死だ。


「なに、おおもいましてって、日本語変」

「あ、すみません」

「しかし、あの神崎さんがねぇ」

「ええ、あの、神崎さんが、です」

「うーん」

「どうでしょーう?」


 森下さんは腕組みしたまま目を閉じる。ひかりは、手をすりすりしながら待つ。


「…筋は通ってる、ね」

「おおー、やはりですかー!」

「だけど、それは神話とか天文学とか物理学とかを混ぜ合わせた神崎さんの仮定の話でしょう?」

「そうなんですけど、あの、神崎さんですよ?」

「うーん、そうなのよねえ」

「最初は、たとえばの話って感じだったんですけど、お兄ちゃんのこととか、わたしの誕生日とか、ぜんぶがぜんぶ偶然にしては、ちょっと出来過ぎですよね?」

「出来過ぎだねえ」

「それに、ほら、案件続いてたじゃないですか?あれって、何もなかったから良かったですけど、不思議なことばかりでしたよね?」

「そうね、こっち来て二十年になるけど、こんな年は初めてよ」

「ですよね、ですよね」

「じゃあさ、」

「はい」

「もう、いっそ、確かめちゃえば?」

「確かめる?」

「あなたの誕生日に何かが起こるかどうか」

「え、でも、それって、どうやれば確かめられるんですかね?」

「ほら、金星でも眺めてたら?」

「えー、どこでですかー?」

「それは神社男子に聞きなさいよ」

「ですよねー」

「そのことは何も言ってなかったわけ?」

「あー、言ってないというか、おのずとわかる的なことでした」

「おのずと分かる?あなた、分かってないじゃない」

「はははー」

「だめだ、こりゃ」

「えー、そんなこと言わないでくださいよ。わたし、明日、何かが変わる予感だけは、毎日してるんですから」

「はいはい」



 こつ、こつ、こつ。



 控えめにドアをノックする音が聞こえる。

 応答すると、ジンジャーを抱えたゆきこが入ってきた。両脇を抱えられたジンジャーのからだは、びよーんと伸びきっている。正確には、びよーーーーーんだ。おなか丸出し。なんともだらしがない。くっくっく。


「どうしたの、ゆきこ」

 ひかりは笑いを堪えながらゆきこに問う。


「ジンジャーが行くと言います」

 いつもの調子でゆきこが言う。


「ジンジャーが行く?どこへ?」

「森の中へ行きます」

「あー、あの森のなかの鳥居のこと?」

「はい」

「いまから??」

「違います。十二月、十五日の、夕方と言います」

「!?」


 おもわず、ひかりと頼られる者候補第一号は顔を見合わせる。


「え?!ちょっと待って、ジンジャーがそう言っているの?それとも、だれかに言われたの?」

「ジンジャーが言います」


 再び、ひかりと頼られる者候補第一号は顔を見合わせる。


「森下さん、どういうことでしょう?」

「それを聞きたいのはこっちの方」


 頼られる者第一号もとい森下さんは、ゆきこの方へ顔を向ける。


「ねえ、ゆきこ、それは、ジンジャーがあなたに伝えていること?」

「はい、ジンジャーがわたしに伝えます」

「ねえ、ゆきこ、確認するけど、十二月十五日の夕方に森の中の鳥居のところへジンジャーが行きたい、と言っているの?」

「はい、ジンジャーは言いました」


「森下さん」

「う〜ん」


「森下さん」

「う〜ん」


「森下さん!」

「う〜ん」


「え、まさか、わたしタイムリープしてます?!」

「してるわけないでしょう!考えているのよ!」


「あ、ごめんなさい」

「あ、は、いらない」


「あ、ごめんなさい」

「あんた、ケンカ売ってる?」


「ううう、売る、売るわけ、ないじゃない、です、かーっ!」

「逆に、買うわよ」


「ケンカは良くありません」

 ゆきこの言葉にふたりは、はたと言葉を止める。


「いや、ゆきこ、ごめんね、これはケンカしてる訳じゃないの、話し合ってるのよ」

 森下さんがゆきこを諭すように説明する。


「話し合っている。何を、ですか?」

 ゆきこが首を傾げて尋ねる。


「うーんと、その十二月十五日にどうしたらいいかなーって」

 ひかりは我が事ながら、自分の計り知れない出来事にどうすべきか決めかねている。心の内で呟く。


(お兄ちゃん、わたし、どうしてらいいの?)

(お兄ちゃん、わたし、何もわからないよ)


 ぶら下げられた体勢のジンジャーが、腰を左右に激しくふりふりしながら、鳴き続ける。明らかに様子が変だ。何かを訴えようとしている。


「ねえ、ゆきこ、いま、ジンジャーは何か伝えようとしているの?」

 ひかりはジンジャーを見つめながら、ゆきこに確かめる。ゆきこは、しばらく、ジンジャーの鳴き声を聴いたあと、答える。


「はい、言っています」

「何て言ってるの?」

「ひかりさんの誕生日の十二月十五日の夕方に、ジンジャーとひかりさんとわたしは、森の中の鳥居のところへ行くと言います。時間がありません。次は、十八年後です。ジンジャーは言います」



「十八年後…」



 北風が窓を揺らす。


「森下さん!」

「行くしかないわ、こりゃ」

「はい!」

「さて、どう説得するかね」

「はい、そこは、お知恵を拝借したいです!」


 ひかりは、頼られる者(当確)第一号に向けて、これでもかというくらいの想いを乗せた眼光ビームを発射する。




 ぴーかー。

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