twinkling 5|ひかる★★★
*
止まっていた大地が回り始める。
秒速465メートル。黒色の記憶に新しい光が射す。陰を越える光は恐れを知らぬ子のように真っ直ぐに走り、そこかしこへ届く。静寂のなか、夜の境目が幕を引く。光は手を繋ぎ、干渉し合い、波紋となり世界へ伝わりゆく。ひと連なりの世界へ。
*
声が聴こえる。
聴き覚えのある声。
忘れることのない声。大事な声。ひかりの声。
……ひかりの声?
……ひかりの声!
声のする方へと目をやる。
そこに、ひかりがいる。でも、おれの知ってるひかりじゃない。ひかりは、おれよりもちびっこい。目の前にいるひかりは、ちびっこいひかりよりも、ずっと、ずっと、大きい。これじゃあ、まるで、オトナだ。
そうか、オトナのひかりなのか、
と悟る。
なんでわかるか?
そりゃあ、わかるよ。おれはひかりのお兄ちゃんで、ひかりはおれの妹だもん。大事な妹。守る存在。逆にわからない人、いる?
驚いたのは、オトナのひかりが突き出した両手から数え切れないほどの星があらわれたことだ。数えきれない星は、きらきら煌めきながらおれのまわりを包んで、ぼんっと膨らんだ。星たちは、ネコさんマークのラスボスに触れると、ぱちぱちぱちぱちぱちと弾けて、粒々になって消えた。
え、じゃあ、いまって未来??
ふと思い当たる。正解な気がする。それは半分当たっていて、半分は間違っていたんだけど、その日から、おれは、また、ひかりと一緒に暮らせるようになったんだ。猫として。言ってる意味、わかる?おれ自身、ちょっと何言ってるかわからなくなる。にゃ(笑)。
ジンジャー。
これ、猫になったおれの名前……
内心、それはナインジャーとつっこんだ。にゃ(笑)。ともやがいたら、あるある探検隊が始まるパターン。だけど陽気なステップは始まらず。もしもテンセーした猫のともやがいたらなぁ。テンセーした猫のおれとともやのあるある探検隊、これ、絶対、クラスのみんな爆笑するって。にゃ(笑)。
ジンジャーとして暮らしている内に、おれは少しずつ、少しずつ、おもいだした。ジンジャーになる前の自分に起こったことをだ。途切れてバラバラだった記憶が繋がり始めた。しゅるしゅるしゅるしゅるって。つまりさ、どうしておれが猫になってここにいるのか、てこと。説明するのが難しい。ほら、おれって、足は速かったけど、勉強は得意じゃなかったから。生活の授業でさ、自分の得意なことや自慢できることを発表するときになんて言ったとおもう?
「おれは勉強ができないのが自慢です!」
ニャッニャッニャッ
(くっくっくっ)
ともやなんてさ、げらげら笑いすぎて椅子から転げ落ちてたよね。でも、モッチー先生はさ、「ひかる、おれに界王拳を使わせたいのか?」て。あれ、怒る風にして、心の中では爆笑してたよ、先生ってやつも大変だよね。あ、それでね、おれ的なまとめなんだけど、こういうこと。
おれは死んだ。たぶん。
アイツに蹴られまくって、HPがゼロになったんだ。回復の魔法も、復活の魔法も使えなかった。そんな余裕もなかった。でも、最後の最後に、おれは見つけた。願いを叶えてくれるきらきら星を。それは、本当のきらきら星だったから、願いを叶えてくれた。それで、おれは猫になったって訳だ。間違ってたら、ごめん。でも、なんで猫?!っておもったけど、それは、あとでわかったよ。
*
猫生活が始まってわかったんだけど、猫としての暮らし、悪くない。てか、むしろ、快適。毎日、好きだなだけ遊んで、好きなだけ眠って、お腹空いたら、「ふにゃ〜」(めし〜)て言えば、ご飯食べられるんだから。ひかりのそばに居られるしね、これ、重要。あとは、やわらかいお姉さんたちに優しくしてもらえるしね。どう?なかなか良いもんでしょ、猫生活も。
ひとつ困ったことがある。
言葉が通じないこと。
おれがどれだけ、ひかり!ひかり!って呼んでも口から出るのは「にゃ〜!にゃ〜」なんだから、参っちゃうよ。これ、悲惨。ま、そりゃそうだよ、おれだって、人間だったころ、猫の言葉なんてわかんなかったもんな。仕方ない。だけど、それじゃ、困る。おれ、伝えなきゃいけない。猫にテンセーして戻ってきた理由があるんだ。この問題を解かないと。どうしたらいい?
解決の糸口は、ひとりの女の子だった。
ゆきこさんだ。
どうやら、ゆきこさんにはおれの声が聞こえているっぽい。鳴き声じゃない方の声。いや、猫なんだけどね。そういえば、猫になる前、テレビで動物と話ができる人を見たとき「マジ?」ておもってたんだけど、マジだった。ゆきこさん、まじな人だった。きっかけは、なんかヤケになって、叫んだ、「おれの、はなしを、きけーっ!」て。そしたらね、
「はい、聞きます」て、ゆきこさんが、ゆーじゃなーい?
おれ、びっくりし過ぎてさ、「残念っ!」て間違えそうになったもん。
まさに猫に小判だ!
あってる?
ゆきこさん、すごいよね、ふしぎな人なんだけど、神さまは、ちゃんとその人に必要なものをくれるのかもしれない。その人が生きていくために必要な力を。だから、ゆきこさんには、おれの声が聴こえるし、ゆきこさんにしか視えない世界があるんだ。
だれにだってある。
ひとりひとりが、その人が生きていくために必要な力を持っている。ゆきこさんのように。たとえ、どんな姿であってもだ。猫になって気づいた。いや、気づかされた。ふだんは見えなくなってる。学校や、会社や、町や、国は、そういう風にできている。そこで要らないものは見えなくされる。消しゴムで消されるようにね。でも、ぜんぶが消されるわけじゃない。うっすらと跡が残ってる。だって、おれたちはゲームのデータじゃないから。からだを持った命だから。消すことはできないんだ。生きるって、自分だけの跡を残すことなんだ。ぐるぐるしてても、ふらふらしてても、かくかくしてても、ぺらぺらしてても、くねくねしてても。ふにゃふにゃしてても、なんでも!
テンセー猫になったおれにしか、できないことがある。やらなきゃ。そのためにここにいるんだ。
生きることは命の役割だ。
おれはゆきこさんの前に立つ。まっすぐに見あげる。そして言う。
「ふにゃっにゃ、にゃにゃーっ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます