twinkling 2|わかな★
*
『まっかに染まったママの顔。
あたしは、それを、夕日みたいだなーとおもった。怖いとか嫌だとかそういうのよりも、きれーな色だなーって見てたんだ。でも、あれって、血の色だったんだよね、あたしの記憶が確かなら。てかさ、あたしって、わすれんぼーなんだよ。ニワトリとおんなじ。さんぽ歩いたら忘れちゃうシステム。あれ、猫だっけ?まあ、どっちでもいいや。あたしは、それを、さんぽマスターと呼んでる。呼んでるのは、あたしだけなんだけど。ちょっとかっこいい。いつからだっけ、あたしのなかにある感情から色という色がなくなったのは。どれも、これも、透明になっちゃったんだよねー。あと、かたちも。もう、忘れちゃったよ、むかしのこと過ぎて。つーか、あんた幾つよって話なんだけどね。あたしにとって時間は伸びたり縮んだりするものなんだ。ときどき、それは、止まったり、消えたり、ごっそりとなくなったりする。いまもね。変かな、変だよね、変なんだよ、あたしってやつは。むかしっから。あははー。
あたしのママは夜の仕事をしていた。
毎日、酔っぱらって明け方に帰って来て、夕方まで寝てた。で、夜になるとまた仕事に出掛けてった。
「わーちゃん、いいこでまっててねーっ」て言って。
だから、あたしは、「いいこ」してた。いつもひとりで、ママの帰りを待ってた。だいたいは途中で寝ちゃってたけどね。で、ママの匂いで起きるんだわ。お酒とか香水とか煙草とかの混じった匂い。それがママの匂いだった。それがまたさー、あたしは安心するんだよねー、きょうも「いいこ」出来たんだって。げって、おもうよね、たぶん、きっと、みんな、そういうのはふつうじゃないって。けど、あたしには、それがふつうだったんだよ。てか、ふつうってなんだよ。ふつうの家庭、ふつうの家族、ふつうの生活、ふつうの性格、ふつう、ふつう、ふつう、うるさいわ、あたま痛くなるわ。
あたしには天国があった。
天国っていっても、あれだ、カミサマとかがいるやつじゃない。あたしの天国は、ファミレスという名前だ。だって、そこでは、ふわっふわのオムライスが食べられたから。それに、それにだよ、食べきれないおおきなイチゴのパフェも食べられたんだ。いや、もう、天国確定でしょ。ママが連れてってくれたんだ。そんときのママは、すごくやさしいわけ。「わーちゃんの好きなの、なんでも食べわていいわよ〜」って。だから、あたしは、そんときのままが好きだった。大好きかと言われたら、よく分かんない。だって、その後にはかならず、長く「いいこ」しなきゃいけなかったから。どれくらいだろ?うーん、あんまり数とか数えられなかったから分かんないけど、テレビでプリキュアをみて、つぎの回のプリキュアをみるくらい。だから、一週間か。まあ、それくらいだよ。
保育園?
通ってなかったよ。あたしの世界は、あの部屋と、ファミレスで全部。小さな世界だったんだ。でも、小さなあたしにはそれで十分だった。ママがいて、オムライスがあって、いちごのパフェがあったから。プリキュアもみれたしね。そうそう、友達もいたんだよ! クマのぬいぐるみのね。名前は「モフルン」。でさー、わるい魔法つかいのドクロクシーが、ときどき、あたしの胸のなかにやってくるんだ。そうすると、あたしは「いいこ」でいられなくなんの。だからね、そんときはね、「モフルン」と手を繋いで魔法の言葉をとなえるんだよー。 「キュアップ・ラパパ!」って。そうするとさー、リコのペンダントみたいにあたしの胸も光るんだ。ぴかーって。手強いときは何回もとなえないとダメだったけどね。でも、ほら、あたし、あの頃から、わすれんぼーだったから、あんまり覚えてないんだよねー。だから、あたしの話、ぜんぶ信じなくていいから。
でも、あたしの小さな世界は、とつぜん、壊れた。
よくさ、アニメとかで砂の塔が崩れ落ちるシーンとかあるけどさ、あんなじゃないんだよ。あたしの場合はさ、なんてゆうのかなー、あー、あれだ、ほら、SF映画だ。宇宙船に穴が開くやつ。宇宙って空気ないんでしょ?だから宇宙船に穴が空いたら中のものが外に放り出されるじゃん、ぶぁーーーーって。まさに、あれ、だよ、あれ。ある日さ、知らない人が、あたしの世界に穴を開けたんだ。で、あたしはあたしの小さな世界から、外の世界に放り出されたわけ。空気はあったからよかったけどね。あははー。でさ、その知らない人は、いろいろと質問するわけよ。お名前はーとか、いくつーとか、ご飯食べたーとかね。あたしは「いいこ」だから答えたよ。答えられないことのほうが多かったけどね。だって、とっても小さな世界に住んでたんだからね、小さな世界なんだから、答えだってそんなにたくさんないんだよ。で、気づいたときには、あたしの小さな世界はなくなって、大きな世界の大きな部屋で生きることになったんだよね。新しい世界は、シセツって名前だった。その知らない人はさ、あたしみたいな子どもがたくさんいて、ご飯とおやつがあって、遊べるところだって、言ってた。まあ、たしかに、そうだったんだけど、そこにはママがいなかったし、イチゴのパフェもなかった。オムライスはあったにはあったけど、天国のオムライスとは、ぜんっぜんっ違った。ね、それって、けっこう最悪だよね。そうやって、あたしの新しい世界が始まったんだよ。
ねえ、こんな話、おもしろい?』
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