見られてる

dede

見てるよ


 そうして君はスマホに視線を落とした。


 私もそこでようやく顔を上げて君にちゃんと目を向ける。


 君はスマホに夢中で私が見ている事に気づかない。

 頻繁に画面の上を君の指がなぞっていくね。

 今回は動画じゃなくて文章を読んでいるのかな? そういえばイアホンもしてないや。ネット記事かな? 小説かな? やらしい内容なんかじゃ、ないよね?

 あ、頬が緩んだ。ちょっと面白い事が書かれてたみたい。


 私は君がスマホを観てる時にだけ、じっくりと君の顔を見る事ができるんだ。

 君と話してる時は、君が私を見ているのかと思うとすくんでまともに見れなくて。

 ただただ下を向いてばかりだよ。変な子だなんて、思われてないかな?

 私が君の顔を見れるのは、君が何かを観てる時だけ……。


 と、思ったら君が突然顔を上げた。私は慌てて顔を下げて目を逸らす。

 君はしばらく周囲をキョロキョロ見回していたけど、やがて首を捻ってまたスマホに目線を戻した。

 あー、ビックリした。いきなりどうしたんだろ?

 気になる事があったのかな? でも音とかは聞こえなかったし。

 もしかして……匂い? 変な匂いでもしたのかな? あれ、まさか私じゃないよね?

 そんな事を思っていたら、君は手で口を押えて笑うのを堪えている。とても面白い事が書かれてたみたい。なんだろ? 私もソレ、読んでみたいな。

 「何読んでるの?」って聞いたら教えてくれるかな? でも、いきなり聞いたら変、だよね? でも君がどんな事で面白がったのか、とても知りたい。


 君がまたバッと顔を上げた。今度は私の事を真っすぐ見ている。突然の出来事に顔を逸らす事も出来ず、目がバッチリと合った。


 硬直が解けると、私は茹で上がった顔を努めて冷静に逸らした。でも今絶対に私真っ赤だよね!?

 そんな私の心境を、知ってから知らずか君は声を掛けてきた。


「今、見てた?」


「う、うん。なんか、面白そうだったから……何、観てたの?」


 すると君は、しばらく考えると微笑みながら


「ナイショ」


 と、答えた。教えて貰えなかった。そこまでまだ仲良しじゃないって事かな? でももしかしたら、私に話せないようなエッチな内容だった可能性も……。


 君は一瞬、スマホをチラ見した。


「別にエッチだったりする訳じゃないけど、個人的な内容だから」


 個人的な内容かー。もしかして好きな人からのメッセージとかなのかな? だったら悲しいなぁ。


 するとまた君はスマホをチラ見すると、答えた。


「別に友達や彼女とかとのメッセージとかでもないんだけどね。ゴメンね?」


 あ、そうなんだ。だったら良かっ……あれ、なんかさっきから会話が成立してるような?

 そんな私の混乱なんて知る由もない君は話を続けた。


「でも、いつも僕が見てる配信や小説ならいいよ。できれば感想聞きたいな。ね、君のお勧めもあったら教えてよ? 君がどんなものが好きなのか、知りたいんだ」


 と、君は笑顔で私の顔を覗き込んだ。

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