流行カノジョ
蔦永良
流行カノジョ
【春】
鼻を抜ける春の匂い。彼女と同じだ。
某女優が広告塔になり、爆発的な人気を博した香水だから、付けている人は多いのだろう。
桜のノートが特徴的なそれは、強い香りではないものの、近寄る者に品良く春を届ける。抱き合う度、彼女からはこの香りがした。
別れた時は彼女は春を纏っていなくて、終わりを暗に示していた。
【夏】
肩の上で切り揃えられたボブヘア。彼女と同じだ。
『今年の夏はボブがトレンド!』とポップな字体で書かれた雑誌を見せてきた彼女を思い出す。
街にはボブヘアの女性が溢れていて、後ろ姿だけでは彼女を見分けられないこともあった。他の人と間違えて声をかけた時は、彼女は拗ねて一日口をきいてくれなかった。
別れた時は彼女の髪が伸びていて、時間の流れを感じさせられた。
【秋】
某インフルエンサーがSNSで宣伝してから、一日足らずで売り切れた品だ。
秋色のそれを揺らした彼女と紅葉狩りに行った。彼女は秋の妖精みたいに綺麗で、写真に収めた。撮られたことに気づき、恥ずかしがる表情は鮮明に思い出せる。
別れた時は彼女の耳にシルバーのピアスが陣取っていて、冷たさを突きつけてきた。
【冬】
キャメル色の暖かそうなロングコート。彼女と同じだ。
ドラマの主人公が着ていたことがきっかけで、店頭から消えたとネットニュースになっていた。
手触りがとても良くて、しつこく触っていたら怒られた。代わりに手を握ると、顔を真っ赤にしてしおしおと勢いがなくなっていったな。
別れた時は彼女はコートを着ていなくて、手を握る口実もなくなってしまった。
【春】
脚は、自ずと彼女との思い出の場所に向かっていた。
彼女に告白をした××海浜公園。当時は人で賑わっていたが、ちらほらと人の姿が見えるのみだ。
二人でよく行ったカフェ。SNS映えするらしく、前は一時間並んでも入れなかった。あの頃の長蛇の列は幻のように消えている。
彼女がはしゃいでいた水族館。右を見ても左を見てもカップルだらけだったのに、海の底の如くしんと静まりかえっている。
「
「
春の香りがする。彼女と何の隔たりもなく抱き合っていた頃が呼び起こされる――
「あっ、四季だ」
「
「
「
「あら、四季じゃない」
「
「当たり前じゃない。だって私達、一ヶ月前に別れたばかりでしょう」
流行カノジョ 蔦永良 @r_tsutanaga
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