第9話
十人目が入ってドアが閉まったとき、電子ブザーの音が聞こえた。
その後、声が聞こえ始める。声は電子的な人口音声だった。
『最後の試験です。これに生き残った一人が合格。戦いなさい』
それだけ聞こえて部屋の中は静まり返った。
二人も、その他の八人も呆然として何も行動できずにいた。
「たった一人が合格だって? 俺たちに殺しあえって言うのか? 冗談じゃない」
ジュンも彼の言葉に同調する。
「まったくだ、やつらの言いなりになんかなるもんか」
他の男たちもとりあえず二人に賛成のようだ。
いきなりナイフを抜く者はいなかった。
しかしこのままだと、どうなるだろう。
十人の男がひとつの部屋に閉じ込められている。
そしてそこには食料も飲み物もない。
やがては飢え、乾き始めるだろう。
そうなると、最後の一人になるためにここにいる男たちは殺しあうことになるのだろうか。
まだ体力のあるうちに他のものを始末した方がいいと思う男も出てくるだろう。
しかし、行動に移せば、逆に他の者たちによってたかって始末されることになるかもしれない。
動かないのは、他の全員を敵に回したくないと思ってる気持ちもあるだろう。
何分が過ぎただろうか。
行動を起こさない男たちに苛立ちを感じたのか、部屋自体がきしみ音を上げた。
周囲の壁が動いていた。
一部がずり上がって、中からダークグリーンの巨体が見えてくる。
円形のホールの周りの壁から、十体のロボットが現れた。
十人の男たちと十体のロボット、これからその乱戦が始まるのだ。
そしてその中でただ一人残った男が合格者ということなのだろう。
「ジュン。俺から離れるな」
彼はジュンを壁際にやると、身構えた。
他の八人は襲いかかるロボットから逃げ惑っている。
阿鼻叫喚とはこのことだった。
悲鳴に怒号がホールの中に響く。
一人の男がロボットに捕まるのが見えた。
誰も助けようとはしない。皆、自分が逃げるので精一杯だった。
それに、他の男が捕まるのは、自分が一人残るためには有益なことなのだ。
「ジュン、こっちだ」
彼は向かってくるロボットから身を避け、ジュンの腕を取ってホールの中を駆け巡る。
そうこうしているうちに中の人間は徐々に減っていく。
見ていると、ロボットから逃げるのを邪魔する男もいた。
ロボットの方に男を突き飛ばす男。
足の引っ張り合いを演じていた男たちは結局皆捕まり、部屋の外に連れて行かれてしまった。
そしてホールに残った人間は、ジュンと彼だけになった。
彼ら以外には四体のロボットが前後左右から挟み込むように迫ってくる。
いくら鈍重なロボットが相手とはいえ、四方を囲まれては逃げようがなかった。
「どうやら、ここまでみたいだね」
ジュンが彼のそばからすっと離れた。
手には拳銃が握られている。
ジュンの笑顔の意味が最初彼にはわからなかった。
しかし次の瞬間、頭を殴られたような気がした。
勝者の笑みなのか?
裏切りなのか?
信じられない気持ちが起きるが、信じたくないだけなのだと思った。
「わかった。お前の勝ちだ。お前が合格だよ」
苦々しい気持ちに舌がしびれるようだった。
「何言ってるの?」
ジュンが泣き笑いのような顔になる。
「僕が君を撃つと思ったわけ? ひどいな、それ」
周囲のロボットは二人の成り行きを見守ってるのか、襲い掛かってはこなかった。
少なくとも一人は残さなければならないのだ。
全滅させては元も子もない。
「なんだよ。じゃあどういうつもりなんだ?」彼が訊く。
「合格は君さ。僕はここで降りるということ。だいたい君に出会って助けられなかったら僕はあの時死んでいたんだからね、つまりこういうこと」
ジュンの手の中の拳銃の銃口が、ジュン自身のこめかみに当てられた。
自殺するつもりなのだ。
「止めろ。そんなの意味ないだろ、俺を撃てばいいじゃないか」
「解答を知ることができなかったのは心残りだけど、他には特に未練もないよ」ジュンが彼から後ずさるように離れていく。
「撃つなよ。とにかく考えよう」彼は今までで一番焦りを覚えた。
「考えるのはもう疲れたよ。やつらの言いなりになるのも嫌なんだ」
近寄る彼から、ジュンはじりじりと距離をとる。
「俺だってやつらの言いなりにはなりたかないさ」
彼はそう言って手に持っていたナイフを自分の首筋に当てた。
「お前が死ねば、俺も死ぬ」
彼の行動を見て、今度うろたえたのはジュンの方だった。
「なにしてるの。そっちこそ馬鹿な真似は止めろよ。それこそ意味ないじゃないか」
「意味はあるさ。反逆って意味だ」
「どうしようもない馬鹿だな」
ジュンが声を上げて笑った。
彼も無性におかしくなってきた。
そして、彼は顔を上げてこの成り行きを見守っているだろう者に向かって叫んだ。
「どうだ? 一人を選ぶのは不可能だぞ。どうしても一人というのなら俺たちはここで死ぬ。ロボットに何かさせようとしたり、部屋の温度をいじったりしても死んでやるからな」
ジュンの顔が一瞬あっけにとられた後、二度うなずいた。
その手があったか、と声を出さずに口だけ動かした。
『待ちなさい。わかりました。二人来ていいでしょう。白い扉を抜けてきなさい』
意外にあっけなく待ち望んだ言葉が降ってきた。
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