第5話


「試験だとしたら、何のための試験だろう」

 通路を歩きながら、彼はつぶやいた。

「頭脳、体力などが一定のレベル以上にあるかを試してるわけだよね」

 横を歩くジュンが指を空間に泳がせる。

そこに頭脳と体力が存在するように。


「ひょっとしたら製品テストかもしれない」

 いきなりジュンが意味不明の事を言い出す。

「なんだって? 製品?」

「僕らは記憶がない。ひょっとしたら人間じゃないのかもしれない。人間そっくりに作られたロボットなのかも、そしてこれはその製品テスト」

 やっと意味が通じた。


 しかし、それは本人すら冗談で言ってるというのがわかった。

 自分自身が人間で無いとはとても思えないからだ。

 呼吸しているし、空腹感も感じる。

 つねると痛みさえ感じる。


「でも、そういう風に作られているのかもしれない。人間とまったく同じように」

 ジュンの言葉は次第に彼を苛立たせた。

「なんのためにそんなロボットを作る必要があるんだ? 人間みたいに弱いロボットを作っても意味無いだろ」

「弱いかな? 現に僕たちは数々の難関を切り抜けてきたよ」

「ちぇ、ああ言えばこう言うってやつだな、お前は。自分がロボットかどうか判断する方法はないのか?」

「無いね。金属製かどうかは簡単にわかるけど、ロボットかどうかというのはその頭脳が生物か、非生物かでしか判断できない。頭を叩き割ってみることができない以上、判断しようがないよ」

 ジュンの話し方は面白がってる人間のもののように思えた。

 同じ状況におかれても、悲嘆にくれる人間もいれば面白がる人間もいるということだろうか。


 人間性という言葉が不思議なニュアンスで思い起こされてきた。

 そのとき、遠くから悲鳴が聞こえた。

「どうやら、新製品は俺たちだけではなさそうだぞ」

 彼は、ジュンを従えて悲鳴のした方向に走り出した。


 先ほど自分たちが登ってきたのと同じような部屋だった。


 崖っぷちに立って見下ろしてみる。

 そこでは一人の男がロボットから逃れて壁を登ろうとしているところだった。

「早くしろ、急いで」

 彼の叫びに、その男が顔を上げる。

 髭の生えた男だった。悲しげな目をしていた。

 その男にロボットが迫る。

「早く壁に上って」

 ジュンが金切り声で叫ぶが、男はもたもたしてなかなか上ってこれずにいる。

 ロボットが近寄ってきた。


「だめだ、逃げろ」

 彼も叫ぶが遅かった。

 壁の下の男はロボットに押しつぶされるように見えなくなった。

 ロボットが起き上がる。

 ぐったりした男を担ぎあげて、こちらには目もくれないで部屋から出て行った。

「この罠を仕掛けた奴は、本気なんだな」

 へたり込んだジュンがぽつりとこぼした。


 元の通路に戻り、方向を確かめて二人は歩き出した。

 通路には時おりドアが出てくるが、ほとんどのドアは開かない。

 開くドアと開かないドアがあるということは、自分たちは奴らの進ませたい方向に進んでいるということだ。

 敷かれたレールに沿って進んでいる。


「ということは、奴らを出し抜くのは簡単じゃないか」

 彼はジュンにひらめいた考えを披露した。

「まあそうだけど、どうやって開かないドアを開けるかだね」

 どうしようもないという風にジュンが手を広げた。

「鍵を壊せばいい」

「どうやって?」

「何か……大きなハンマーでぶち破る」

 答えが見えてるような気がして、頭の中を探るようにつぶやいた。

「でもその大きなハンマーが無い」

「丈夫で重々しいハンマー……」

 ジュンも思いついたのだろう、その先は二人同時に同じ言葉を叫んだ。


「あのロボットだ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る