その、
@Qtaro0127
第1話
「夜勤明けのビール最高よね、ヒト(他人)がこれから仕事に行くとき飲むお酒美味しすぎる」
ニコッと笑う彼女の顔にクシャっとしわが寄る。
若く見えても40代だなと思う瞬間でもある。
八王子市若葉特別養護老人ホームの夜勤明け後の朝食は、酒好きなら仕事終わりの飲み会と同じ意味だろう。
先輩の坂下さんと駅の途中のファミレスでお疲れ様会をするのは、気の合うシングル同志という縁で、シフトが重なると恒例になった。
特別美人というわけではないが坂下さんは愛嬌のある顔立ちと愛想の良さで、ご利用者様やその家族、同僚からの人気が高い。
介護スタッフは異業種からの転職が多いものだが、やや珍しい金融業経験者ということで自分と坂下さんは徐々に仲良くなった。
「鳥飼君は飲まないの?」
これもいつも聞かれるが、体質的に受け付けないと常に返しているのだがその都度つまらなそうな顔をされる・・
「お酒はね、楽しく飲むなら百薬の長なのよ」
にこっと笑って、あとは仕事の話
「~号室の〇〇さんの家族、元気な時はまめに家族全員きてたけど、看取り介護に入ったら誰も来なくなって、遺言書狙いなのバレバレよね」
「看護師の~さん本当に使えない、バイタルとるだけだったら介護士でもできるのに、上から目線超むかつく」
「今どきの若い子、注意するとハラスメント、何それ」
などなどいつもの坂下節炸裂
うんうんうなずきながら聞いていると
「鳥飼君は大卒新卒で大手銀行でしょ、どうしていま介護の仕事してるの?」
これもいつもの質問
「お金を扱う責任感に耐えられなくなったのと、仕事が楽しくなくなったからですよ」
「そう~」
美味しそうにビールをなめる坂下さんを眺めながら
いつか、本当の理由を伝える事ができるのか、できないのか
答えの出ない問いを考えるのです。
その、 @Qtaro0127
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