1分で読める創作小説2025
草乃
朝はまだ
ふと目を開けると、辺りはまだ暗かった。
ぼんやりとした視界に何が映っているのか判別つかない。ついさっきみていた夢の延長のような、浮遊感。
ただ、少し暑いくらいの温度にくるまれていることは分かる。眠りにつく前はなかったもの。もちろん、パジャマ越し。
もぞり体を捩るも、抱き締めるように腕が回されていて抜け出せそうにもない。寝ているくせにどうして。
まただな、と特に文句は浮かばないが呆れかささやかな嬉しさなのかどちらともつかない感情が沸き起こってなんだかひとり、恥ずかしくなる。
一緒に寝るのが好きなのは、抱き締めている彼の方である。私は単にそんな彼に慣れたというか慣らされといたうべきか。慣れとは怖いものだな、うんうん。
はてさてそれにしても、布団は別々に用意したはずだし、眠る前はお互いに布団に入ったし、いつものように寝る前から入り込んでくるようなことはなかったと思うのだが、現にこうして抱きしめられている事実は変わらない。
寝る前の会話を思い出してみる。
「今日は、抱き枕なしでいいんですか?」
「いつもいつもだと迷惑ということは理解していますのでね」
「理解しているのに自制できないんですか?」
「優先順位の問題で手薄になるんですよ、気を付けて」
「泊まらなければいいのでは」
「今から帰れというの……なんて子に育ったんだ」
よよよ、と嘘泣きをして布団を頭までかぶっていた。にも関わらずこうなったわけか。優先順位とはなんなのだろう。
ぼんやりと考えながらゆっくりと瞬きを二回して、どうでもいいか、と目の前にあるらしい彼の胸に額を刷り寄せた。わりと強めにぐいぐいと擦り付けてみたが彼が目覚める気配はない。
起きているときもあるが、こうしてちゃんと寝ていることもあると、抱き枕としては鼻高々ではある。
そのままくっつけていると、彼の体温と、心臓がとくとく鳴っているのが額越しに伝わり知らず、ふっと笑ったときのように吐息がこぼれた。
口ではあれこれ抗議地味たことはするけれど、案外私も嫌ではないらしい。嫌なら呼ばないし泊まりなんて以ての外だろう。そこまでお人好しではない。
彼が起きていれば心音も多少変化はあったやもしれないが、今のところ乱れもなく彼はよほどしっかりとした眠りのなかなのだろうと分かりちょっと安心した。
こうしてお互いに意識がとろりとしていれば、何も恥じることはない。
とくんとくんと感じる振動が、温かさにくるまれた体が、心地よくてすぐにまた夢の世界へと落ちていく。
朝はまだ来ない。もう少し、このまま眠ろう。
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