星の欠片

凰 百花

流れ星


 まだ幼かった頃。流れ星を見た晩、私は美しいかけらを見つけた。きらめく虹色のガラスのかけら。


 それを手にとって、日にかざして眺めている。悲しい事があっても、苦しい事があっても、カケラを眺めていると心が落ち着く。


 そうやって、今まで生きてきた。


「すみません。大変申し訳ないのですが、そちらのカケラを譲っていただけませんか」


 いつの間にか目の前には一人の男性が立っている。彼は眉を八の字に下げて本当に申し訳なさそうにそう言った。


「そのカケラを譲っていただけるのでしたら、何でも貴方の望みを一つ叶えます」


 私の望み。思い浮かぶことは一つだけ。でも、それが叶わないのは自分自身が一番よく知っている。


「これは、何なの?」

 別に話をそらそうと思ったわけではないけれど、口から出たのはそんな言葉。


「星のカケラです」

 彼は真顔でそう答えた。あらまあ、随分とロマンチックなものなのね。


「そのカケラがないと、星が再生できなくなるので困るのです」

 彼は哀しそうにそう言った。その姿が、あまりにも哀れに思えて。


「いいわ。あなたに譲りましょう」

 もう十分にこのカケラに支えてもらえた。このカケラが次に行くべき場所に行くべきだ、そんな風に思えたから。


 カケラを渡すと、彼はまるで飛び跳ねんばかりに喜んだ。


「では、あなたの望みをかなえましょう」


「いいえ、もう望みなぞ、ないわ。欲しいものは自分で手に入れるものでしょう」


 彼は微笑む。

「いえ、カケラは貴方の望みを知っています」


 その時、懐かしい声に名前を呼ばれ思わず振り返る。


 懐かしいあなた。立ちつくす私に歩み寄り、そっと抱きしめてくれた。


 懐かしいあなた。私を捨てたあなた。それでも、もう一度だけ会いたかった。抱きしめてほしかった。

「よくやった」

 そう言ってほしかった。




 訃報が届いた。


 その人は女傑だと畏れられた人物で、小さな会社を一流企業にまでのし上げた。

 会社が大きくなるにつれ、夫婦はすれ違ったのだという。

結果、夫は会社の秘書と駆け落ちをしたのだとも言われていて、現在でも行方知れずのまま。真偽の程は分からない。

はっきりしている事は失踪宣告を受け、正式に彼女は会社を受け継いだ事ぐらいだろう。


「私はこの会社と婚姻したのよ」

 そう嘯いていたとも言われている。

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