罪の告白

 鍵を閉めて、教室を出ると、階段のところで見回りの先生とすれ違った。


「君、何してるの?」

「ちょっと忘れ物しちゃって、すみません。失礼します」


 僕は堂々とした態度で、嘘を放ち、先生の横をすり抜けていく。

「もう遅いから、寄り道しないで帰るんだぞ」

「はーい、さようなら」

 幸いな事に僕とは面識がない先生だったので、僕が誰かはわからないだろう。僕が誰かがわからければ、問題になることは無い。僕は安心して、校舎をでた。


 最寄り駅の中に入ると、見慣れた人物が改札の前で、スマホを見ながら立っていた。真っすぐな長く美しい黒髪は、意識をしていなくても目を引く。


 きっと誰かを待っているのだろう。男だろうか、いや、僕には関係のないことだ。

 定期をかざし、ピッという音共に、彼女の横を通る。


「あ、やっと来ましたね」

 僕はその声に思わず振り向く。すると彼女は眉をひそめて僕の方を見つめていた。

「川井さん?」

 僕は自信のない声で名前を呼んだ。彼女は僕の方に近づいてくる。すこしうつむきながら近づいてくる彼女に僕は恐怖を覚えた。


「私ずっと待ってたんですけど! なんでこんな時間まで駅に来ないんですか⁈」

「いや、その、ごめん」


 僕は川井の勢いに負けて、思わず謝る。しかし、不思議だった。なぜ彼女は僕のことを待っていたのだろうか。


「えっと……どうして、僕を?」


 僕が聞くと、川井はため込んでいたものを吐き出すように深呼吸をした。

「その、ごめんなさい」

 深呼吸が済むと、川井はそう言って頭を下げた。


 僕は、何について謝られているのかわからなかった。駅のなかに居る人がみな僕たちの方を見ている。何も知らない人が見れば、僕が川井に振られたように見えているのだろう。僕はその視線が刺さってくるような感じがして、焦った。


「頭を上げてよ。それに僕が川井さんから謝ってもらうことなんてないよ」

「いえ、私には、二つほど謝らなければならないことがあります」


 川井は頭を上げて、さらに説明を続ける。


「一つ目は、私の友達が公共の場にふさわしくない内容を話したことです。いくら坂本君への批判の気持ちがあったからと言って、当人やその関係者のプライバシーを勝手に話していいものではありません。そして、その内容がきっと後藤君を傷つけてしまうことに繋がってしまいました。本当に申し訳ありません」


 確かに僕はあの時絶望した。しかし今となっては、もはやどうでもいい。坂本の嘘だということもわかったし、僕はその絶望のおかげで、自分の新たな可能性を開いた気さえする。


「二つ目は、私は石川さんから、坂本君の脅しについての相談を受けていたことです。しかし、私は自分の身を優先して、彼女を助けませんでした。ですから、彼女を殺してしまったのは私です」


「は?」


 僕は自分の耳を疑った。駅の中の視線が僕から川井に移ったのを感じた。僕はそれが自分に刺さる視線より嫌に感じて、川井の話を手で制止させた。


「詳しい話を聞きたいから、ファミレスに行かない?」

「……わかりました」


 川井は迷った様子を浮かべたが、周りを一瞥して、自分が見られていることを自覚したようだった。


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