【中編】軽さの限界と「本物」への道
【第二章】軽さの限界
「要するにWebは“回転寿司”かよ……」
そううそぶいたあと、ふと立ち止まった。
まだ、俺の作品たちが敗北したとは思いたくはなかったからだ。
◇
回転寿司は、確かに手軽でうまい。
けど、そんな手軽なものが好きな人ばかりじゃない。
たまには、じっくり煮込んだビーフシチューや、重厚なフルコースを味わいたい人だっている。
そこで、またAIにぶつけてみた。
――俺の魂の叫び(=屁理屈。いや、屁理屈こそ魂か?)。
私:「それって……臨場感とか深みとか、大きな感動とか、いらないってこと?
軽いノリで“ちょっとした面白さ”さえあればいい、みたいに聞こえるんだけど」
アシスタント:
『その通りです。Webのランキングは“ジャンクフード的快感”を優先します』
……いや、ジャンクフードって。
(確かにハンバーガーもうまいけど、俺だってたまに赤ワイン片手にステーキ食いたくなるんだぞ!?)
だがAIはすぐに補足した。
アシスタント:
『ただし――臨場感や深みは“不要”ではありません。
むしろ、長期的評価や映像化を狙うなら必須です』
なるほど。
つまりこういうことだ。
・短期的にランキングを狙うなら、「軽さ」と「テンポ」がすべて。
・けれど、少ないコア読者の“記憶に残る作品”になるには、「深み」と「厚み」が欠かせない。
俺は思わず苦笑した。
「結局、“軽さ”は寿司の一皿。“厚み”はフルコース。
……で、俺は厨房に立って、ひとりで煮込み料理を仕込んでたシェフだったってことか。――いや、客ゼロのシェフだけどなw」
◇
それでも、まだ腑に落ちなかった。
――じゃあ、どちらを選べばいいのか?
・ランキングに消費される寿司を握るか?
・読者が0でも、記憶に残るフルコースを創るか?
答えはまだ言葉にならない。
だが、胸の奥では確かにひとつの輪郭を描き始めていた。
【第三章】「自分の本物」を目指す道
俺は思った。
じゃあ、回転寿司じゃなくて、フルコースで勝負した作品はあるのか?
――ある。しかも、誰もが知っている、俺の好きな人気アニメたちだ。
どれも、ちっとも軽くなんてない。
(まだ俺は、こいつ〔AI〕の言葉なんか、信じたくなかった)
■ 鬼滅の刃
最初から「家族の死」という強烈すぎる痛みで幕を開ける。
しかも毎回の戦いで、炭治郎の身体はズタボロ。勝利しても代償が必ず残る。
“軽さ”どころか、読者も視聴者も「痛み」を共有させられる物語だ。
■ 呪術廻戦
見た目はポップな濃厚バトル漫画に見えて、その実は「呪い=負の感情」という重苦しいテーマが土台にある。
キャラクターは明るく振る舞っても、戦えば腕が飛ぶし、心が壊れる。
一瞬のギャグで救いを与えた直後に、奈落に突き落とす落差。
あれこそ“厚み”を前提にした構造だ。
■ 進撃の巨人
第1話でいきなり母親が食われる衝撃。
途中でヒロインが死んでしまうどころの話じゃない。
そこから10年以上をかけて積み上げた巨大な伏線と、壮大な戦争劇。
寿司一皿どころか、読者はフルコースを何十回も味わわされたような作品だ。
■ マッシュル
一見すると「筋肉で全部解決!」のギャグアニメのように映る。
しかし物語が進むほど、差別や格差、友情や信念といった深い人間的テーマが浮かび上がっていく。
マッシュの“バカみたいな力技”は、実は理不尽な社会をひっくり返すアンチテーゼとして輝く。
ただの筋肉芸で終わらず、最終的には「仲間のために戦う重さ」へと収束していくのだ。
――つまり『マッシュル』は、“軽さ”で掴み、“厚み”で刻まれる。
読後に忘れられない作品となった代表例である。
◇
――俺が、自分の作品で一番重視していることは、「絵的に映えるか?」だ。
そしてそれを書いている時が、一番楽しい。時間を忘れて没頭できる瞬間だ。
そこで再びAIに尋ねてみた。
私:「でも、こういう厚みのあるアニメ作品って、Webの人気小説から生まれるの?
あなたのいう“軽さ”一直線の鉄則と、どう考えても両立しないんだけど」
アシスタント:
『“Webで気軽に読めるもの”と“映像化で映える厚み”は、根本的に相いれません』
――俺の望む二つは、両立しないのか。
キッパリと、絶望的なことを言いやがる。
アシスタント:
『……例えば、鬼滅級の厚みを最初からWebで狙うと、ほぼ確実に離脱されます』
私:「なるほど……。でも俺は、書くときにまず考えることは“映像的に映えるか”なんだけど」
するとAIは、ちょっと嬉しそうにこう言った。
アシスタント:
『それは、大きな強みです。
入口は軽くてもいい。けれど奥には厚みを仕込む――“二段構え”が可能です』
俺は思わず吹き出した。
「なんだよ……それ、まるで『お子様ランチの卵の下に、黒毛和牛のステーキが隠れてる』みたいな話じゃん」
――まあ俺の場合、卵の下にあるのは、ステーキじゃなくて、“たこ焼きがゴロゴロ入っている”みたいになってるけどな!(泣)
◇
……とはいえ、ここでちょっと脱線。
私:「俺のような無風作家が、手っ取り早くテンプレ書いて、人気作家になるには?」と、つい欲を出して聞いてみた。
アシスタント:
『まず大事なのは、今のランキング上位にあるテンプレ作品を読んで、
心底“面白い”と思えることです』
なるほど、理には適っている。だが、そこで確信した。
テンプレを心底楽しむには、自分の中の勝手な【美学】が邪魔をする。
バトルに臨場感も痛みもなく、血の匂いすらしない。
薄味で、浅くて、あっけない。
読み終えた瞬間――『で、なに?』としか思えない。
――まあ、俺がひねくれてるだけかもしれないけど!(泣)
◇
そしてはっきりした。
――Webで人気を取ることと、俺が目指すアニメ化の道は、必ずしも重ならない。
だって「軽い回転寿司のアニメ」なんて、俺は見たくもない。
俺が見たいのは――**『鬼滅』であり、『呪術』であり、『進撃』であり、『マッシュル』**だ。
Web小説で求められている“軽さ”とは、明らかに違う。
◇
この続きは【後編】へ。
三つの選択肢と、100万人が抱えるジレンマについて語ります。
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