『俺達のグレートなキャンプ129 なぜ川で秋刀魚が釣れる!まいいや、食べよう』

海山純平

第129話 なぜ川で秋刀魚が釣れる!まいいや、食べよう

俺達のグレートなキャンプ129 なぜ川で秋刀魚が釣れる!まいいや、食べよう


秋の午前、澄み切った青空の下、山間のキャンプ場に響く石川の異常にテンション高い声。

「今日のグレートなキャンプは釣りだぁぁぁぁ!」

石川は両手を空に向かって大きく広げながら、キャンプ場の中央でくるくる回転している。周りの家族連れキャンパーたちがちらちらと視線を向け、子供たちは「あの人何してるの?」と親に聞いている。

「また始まった...今日は普通の釣りよね?普通の?」

富山は重いため息をつきながら、テントの設営道具を地面にドスンと置く。その表情は既に疲労の色が濃く、まるで戦場に赴く兵士のような覚悟が見える。

一方、千葉は目をキラキラと輝かせて石川の周りを子犬のようにうろうろしている。

「石川!今日は何釣るんだ?何釣るんだ?ブラックバス?ニジマス?それともまさかの...」

「普通の川釣りだ!普通の!今回は本当に普通だからな!」

石川は胸を張って宣言する。富山の顔に安堵の表情が浮かぶ。

「本当?本当に普通?変なことしない?」

「もちろん!今日はイワナとかヤマメとか、普通に美味しい川魚を釣って、普通に塩焼きにして食べるんだ!」

石川の言葉に、富山はほっと胸をなでおろす。千葉は少し拍子抜けしたような表情を見せるが、すぐに笑顔になる。

「普通の釣りも楽しそうだ!俺、川釣りって初めてなんだ!」

「よし!それじゃあ釣り具の準備だ!」

石川は車のトランクから釣り具を取り出し始める。今回は確かに普通の川釣り用具が並んでいる。渓流竿、小型のリール、川虫の餌...

「おお、本当に普通の道具ね」

富山も安心したように道具を見回す。

三人は川辺に向かって歩き始める。澄んだ水の流れる川は、岩と緑に囲まれて美しい景色を作り出している。鳥のさえずりが響き、まさに理想的な釣り環境だった。

「いいところね、ここ」

富山も素直に景色を褒める。

「だろう?下調べは完璧だからな!このあたりはイワナとヤマメが豊富で...」

石川が説明している時、千葉が川の中を指差す。

「あ!魚が泳いでる!結構大きいぞ!」

三人は川を覗き込む。確かに30センチほどの魚影が泳いでいる。

「おお、いるいる!これはいい釣り日和だな!」

石川は竿を組み立て始める。三人はそれぞれポイントを決めて、糸を川に垂らした。

最初の30分は平穏だった。川のせせらぎと鳥のさえずりだけが響く中、三人は静かに釣り糸を垂らしている。

「あー、たまにはこういう静かな釣りもいいわね」

富山がほっとしたようにつぶやく。

「うん、心が洗われる感じ」

千葉も川の流れを見つめながら答える。

石川も珍しく静かに釣りに集中している。こんなに平和なキャンプは久しぶりだった。

すると突然、千葉の竿がぐいっと引かれる。

「お!きた!」

千葉は慎重にリールを巻き始める。

「落ち着いて、ゆっくりと」

石川がアドバイスをする。

水面で魚が跳ねる。銀色に光る魚体が見える。

「おお、いい型だ!」

魚は上がってきた。そして...

「あれ?これ...」

千葉の竿の先にぶら下がっているのは、確かに銀色の細長い魚だった。しかしそれは...

「秋刀魚よね?」

富山が呆然と呟く。

「さ、さんま...?川に?」

千葉も困惑している。

「いやいやいや、まさか...川に秋刀魚がいるわけ...」

石川が否定しようとした時、富山の竿もぐいっと引かれる。

「え?私も?」

富山が慌ててリールを巻く。上がってきたのは...やはり秋刀魚だった。

「な、何これ...」

三人は釣り上げた秋刀魚を見つめて固まっている。確かに秋刀魚だ。細長い体に、特徴的な下顎の突出。間違いない。

「川に...秋刀魚...」

石川がぽつりと呟く。

「どういうこと?秋刀魚って海の魚でしょ?」

富山は混乱している。

「でも確かに秋刀魚だよね、これ」

千葉が魚をつまんで観察する。

「ま、まあ...理由はよくわからないが...釣れたものは仕方ない!食べよう!」

石川は現実逃避するように明るく言う。

「そうね...せっかく釣れたんだし...」

富山も困惑しながらも同意する。

三人は釣りを続けることにした。そして次々と秋刀魚が釣れ始める。

「また秋刀魚だ」

「私もまた秋刀魚」

「俺も秋刀魚」

あまりにも秋刀魚ばかり釣れるので、三人はもう驚かなくなっていた。

「なんか慣れてきたね」

千葉がのんきに言う。

すると突然、水面から何かが勢いよく飛び出してきた。

「うおああああああ!」

石川が慌てて身をかわす。銀色の物体が石川の頭上を通り過ぎ、後ろの木にブスッと突き刺さる。

「さ、秋刀魚が飛んでる!?」

富山が指を指して叫ぶ。木に刺さった秋刀魚がぴくぴくと動いている。

「ダツみたいに飛び出してきた!危険だ!」

石川は頭を抱える。ダツは興奮すると水面から飛び出してくる習性がある海魚だが、まさか秋刀魚も...

「あ、また飛んでくる!」

千葉が指差すと、水面から次々と秋刀魚が飛び出してくる。まるで銀色の矢のように宙を舞っている。

「うわああああ!逃げろ!」

三人は竿を持ったまま慌てて逃げ回る。秋刀魚が頭上を飛び交う中、まるで戦場のような状況になっている。

「これはヤバい!普通じゃない!絶対普通じゃない!」

富山が叫びながら木陰に隠れる。

「でも面白い!」

千葉は興奮している。飛び交う秋刀魚を見上げながら手を叩いている。

「よし!飛んでくる秋刀魚も釣るぞ!」

石川は突然やる気を出す。

「は?どうやって?」

富山が呆れる。

「空中キャッチだ!」

石川は網を取り出し、飛んでくる秋刀魚を狙い始める。

「うおりゃあああ!」

石川はジャンプして網を振る。しかし秋刀魚は素早くかわしていく。

「当たらない!素早いぞ、この秋刀魚!」

「当然でしょ!魚なんだから!」

富山がツッコむ。

千葉も網を持って石川に加勢する。

「俺も手伝う!せーの!」

二人は息を合わせて秋刀魚を追いかけ回す。その様子はもはやコントのようだった。

「取ったあああ!」

ついに千葉が一匹の秋刀魚を網でキャッチする。

「やったな千葉!」

石川も続けて一匹捕まえる。

「もう十分でしょ...」

富山は疲れ切った表情で座り込んでいる。

気がつくと、三人は合計で秋刀魚を20匹ほど釣り上げていた。川釣りとは思えない大漁だった。

「すごい釣果だな!」

石川は満足そうに秋刀魚を眺める。

「でも本当に不思議...なんで川に秋刀魚が...」

富山がつぶやく。

「まあ、細かいことは気にするな!釣れたんだから食べよう!」

石川はコンロの準備を始める。

三人はキャンプサイトに戻り、秋刀魚を焼く準備を始めた。石川が炭をおこし、富山が秋刀魚をさばき、千葉が野菜の準備をする。

「秋刀魚の塩焼きなんて、久しぶりね」

富山が包丁を動かしながら言う。

「川で釣った秋刀魚なんて、世界初じゃないか?」

千葉が興奮気味に言う。

「そうかもな!これは歴史的快挙だ!」

石川は胸を張る。

炭火で秋刀魚を焼き始めると、香ばしい匂いが立ち込める。周りのキャンパーたちも興味深そうに近づいてくる。

「いい匂いですね。何を焼いてるんですか?」

隣のサイトの家族連れのお父さんが声をかけてくる。

「秋刀魚です!」

石川が元気よく答える。

「秋刀魚?でもここ山の中ですよね?」

お父さんが不思議そうに聞く。

三人は一瞬凍りつく。確かに山の中で秋刀魚を焼いているのは不自然だ。

「あー...これは...」

石川が言い淀む。

その時、千葉が咄嗟に答える。

「秋刀魚に似た鮎です!」

「は?」

富山と石川が千葉を見る。

「秋刀魚に似た鮎なんです!最近品種改良で開発された新しい鮎で、秋刀魚そっくりなんです!」

千葉は必死に説明する。

「へー、そんな鮎があるんですね」

お父さんは納得したような顔をする。

「はい!サンマ鮎っていうんです!」

千葉はさらに話を膨らませる。

「へー、面白い名前ですね」

お父さんが感心している間に、三人はほっと胸をなでおろす。

「サンマ鮎って...」

富山が小声でツッコむ。

「咄嗟に思いついたんだ!」

千葉が小声で答える。

「まあ、うまく誤魔化せたな」

石川も小声で言う。

秋刀魚が焼き上がると、三人は美味しそうに食べ始める。川で釣った秋刀魚とは思えない美味しさだった。

「うまい!普通に秋刀魚の味だ!」

石川が満足そうに言う。

「当たり前でしょ、秋刀魚なんだから」

富山がツッコむ。

「でも本当に美味しいね。川魚特有の泥臭さも全然ない」

千葉も感動している。

三人が食事を楽しんでいると、突然一人の男性がやってきた。白衣を着て、慌てた様子で三人に近づいてくる。

「あの!すみません!」

男性は息を切らしながら声をかける。

「はい?」

石川が振り返る。

「私、県の水産研究所の者です。もしかして、この川で秋刀魚を釣りませんでしたか?」

三人は再び凍りつく。

「え?あー...その...」

石川が言い淀む。

研究員は三人の周りを見回し、焼かれた秋刀魚を見つける。

「やはり!間違いない、これは私たちが研究していた秋刀魚です!」

研究員は興奮している。

「研究していた?」

富山が聞き返す。

「はい!実は私たち、新種の淡水適応秋刀魚の研究をしていたんです。海水魚である秋刀魚を淡水でも生育できるように品種改良を重ねて...」

研究員は熱心に説明し始める。

「それで?」

千葉が興味深そうに聞く。

「昨日の夜、研究所の生簀から実験体の秋刀魚が全て逃げ出してしまったんです!おそらく台風の影響で生簀が破損して...」

研究員は頭を抱える。

「それで川に逃げた秋刀魚が...」

石川が理解する。

「そうです!まさか釣り上げられるとは...しかも空中に飛び出す習性まで...」

研究員は驚いている。

「あー、確かに飛び出してましたね」

千葉が思い出す。

「実はこの秋刀魚、興奮すると水面から飛び出す習性があるんです。元々の秋刀魚にはない特徴で、私たちも予想外でした」

研究員が説明する。

「だから危険だったのね...」

富山が納得する。

「ところで...」

研究員は三人を見回す。

「お願いがあります。この秋刀魚のことは、できるだけ口外しないでいただけませんか?まだ研究段階で、一般には公表していない品種なんです」

研究員は深々と頭を下げる。

「あー...はい...」

三人は戸惑いながらも頷く。

「ありがとうございます!それと、もし他の方に聞かれたら...」

研究員が心配そうに言う。

「秋刀魚に似た鮎だと言ってあります」

千葉が答える。

「素晴らしい!完璧な説明です!」

研究員は感激している。

「サンマ鮎という名前にしました」

千葉が得意げに言う。

「サンマ鮎...いいネーミングですね!今度使わせていただきます!」

研究員はメモを取り始める。

「えー...」

富山が呆れる。

その時、先ほどの家族連れのお父さんが再びやってくる。

「すみません、さっきのサンマ鮎、うちの子供たちがすごく興味を持っちゃって...少し分けていただけませんか?」

お父さんが頼み込む。

三人と研究員は慌てる。

「あー...その...」

石川が言い淀む。

「大丈夫です!」

研究員が突然立ち上がる。

「私、この新種の鮎の研究者です!喜んでお分けしますよ!」

研究員は白衣のポケットから名刺を取り出す。

「県立水産研究所の田中と申します」

「おお、研究者の方が!」

お父さんは感激している。

「サンマ鮎は私たちが開発した新品種で、今回初めて野外放流試験を行ったんです」

田中研究員は堂々と説明する。

「へー!それで川にいたんですね!」

お父さんが納得する。

「そうです!この方々には試験的に釣りをお願いしていたんです」

田中研究員は三人を指差す。

「そうだったんですか!」

お父さんは感心している。

「ぜひうちの子供たちにも見せてやってください!」

お父さんの頼みで、気がつくとキャンプ場の子供たちが大勢集まってきた。

「これがサンマ鮎ですか?」

「秋刀魚みたい!」

「本当に川にいたの?」

子供たちは興味深そうに秋刀魚を観察している。

田中研究員は即席の説明会を始める。

「この魚は淡水でも生育できるように品種改良した秋刀魚、もといサンマ鮎です」

田中研究員は完全にサンマ鮎という設定に乗っかっている。

「興奮すると水面から飛び出す面白い習性があります」

「えー!見てみたい!」

子供たちは大興奮している。

「今度、研究所で見学会を開きますので、ぜひいらしてください」

田中研究員は子供たちに約束する。

「やったー!」

子供たちは大喜びしている。

説明会が終わると、田中研究員は三人に近づいてくる。

「すみません、つい調子に乗ってしまって...」

田中研究員は苦笑いを浮かべる。

「いえいえ、上手く誤魔化してくれてありがとうございました」

石川が感謝する。

「それにしても、本当によく釣れましたね。予想以上に川に適応していたようです」

田中研究員は感心している。

「20匹も釣れちゃいました」

千葉が報告する。

「20匹も!素晴らしいデータです!」

田中研究員は興奮している。

「飛び出してくるのは予想外でしたが」

富山が言う。

「そうなんです。興奮度と飛翔行動の相関関係は今後の研究課題ですね」

田中研究員は真面目に答える。

「あの、この秋刀魚...サンマ鮎は食べても大丈夫なんですか?」

石川が心配そうに聞く。

「もちろん!安全性は確認済みです。味も通常の秋刀魚と変わりません」

田中研究員が保証する。

「良かった...もう食べちゃいましたから」

千葉がほっとする。

「それと、もしよろしければ...」

田中研究員が遠慮がちに言う。

「今後も釣り協力をお願いできませんか?研究データが必要なんです」

田中研究員は三人に頭を下げる。

「つまり、また川で秋刀魚釣りができるってことですか?」

石川の目が輝く。

「はい!正式に委託研究として」

田中研究員が答える。

「やったああああああ!」

石川は飛び上がって喜ぶ。

「また変なことになりそう...」

富山はため息をつく。

「でも面白そうだ!」

千葉も興奮している。

夕方になり、田中研究員は研究所に戻っていった。残った秋刀魚も回収され、三人は片付けを始める。

「今日は本当に不思議な一日だったわね」

富山がしみじみと言う。

「でも楽しかった!川で秋刀魚が釣れるなんて、夢みたいだ!」

千葉が満足そうに言う。

「これで正式に川秋刀魚釣り師になったな、俺たち!」

石川は胸を張る。

「川秋刀魚釣り師って何よ...」

富山が呆れる。

その時、隣のサイトから声がかかる。

「お疲れ様でした!サンマ鮎、美味しそうでしたね!」

お父さんが手を振っている。

「ありがとうございました!」

三人は手を振り返す。

「今度の見学会、楽しみにしてます!」

お父さんの言葉に、三人は苦笑いを浮かべる。

「田中さん、本当に見学会やるのかな...」

千葉が心配そうに言う。

「やるでしょうね...あの人、ノリノリだったし」

富山が答える。

「まあ、それはそれで面白そうじゃないか」

石川は楽観的だ。

車に荷物を積み込みながら、三人は今日の出来事を振り返る。

「それにしても、普通の釣りって言ったのに...」

富山が石川を見る。

「俺だって予想外だったんだ!まさか本当に川に秋刀魚がいるとは思わなかった!」

石川は両手を上げて弁解する。

「でも結果的にグレートなキャンプになったな」

千葉がまとめる。

「確かに...忘れられない思い出になったわね」

富山も認める。

車がキャンプ場を出発する時、三人は川を振り返る。

「また来ようね、この川に」

千葉が言う。

「今度は何匹釣れるかな」

石川も楽しみそうだ。

「また20匹も釣ったらどうするのよ...」

富山が心配する。

「大丈夫!今度は田中さんが回収してくれるよ」

石川が答える。

車が山道を下りながら、三人は次回の釣行について話し続ける。

「田中さん、他にも面白い魚を研究してるかもしれないな」

千葉が期待を込めて言う。

「淡水マグロとか?」

石川が冗談で言う。

「そんなの開発したら大変なことになるわよ...」

富山が想像して青ざめる。

「でも面白そうじゃないか!川でマグロ釣り!」

石川の目がまた怪しく光る。

「やめてよ!」

富山の声が車内に響く。

こうして、石川たちの第129回グレートなキャンプは、予想もしない秋刀魚釣りで幕を閉じた。普通の釣りのはずが、新種の淡水秋刀魚との出会いという奇跡的な体験となり、さらには研究協力という新たな使命まで背負うことになったのである。

そして石川の頭の中では、既に次なる川秋刀魚釣行の計画が練られ始めていた。今度はもっと大きな秋刀魚を狙うのだ...

「第130回は『川秋刀魚の王様を釣れ!』だな」

石川の呟きを聞いて、富山は再び深いため息をつく。しかし、その心の奥底では、次回のサンマ鮎釣りへの期待も少しだけ膨らんでいるのだった。

翌週、三人の元に田中研究員からの連絡が入った。正式な研究協力の依頼と共に、見学会の開催が決定したという報告だった。そして、新たに開発中の「淡水カツオ」の試験放流も予定されているという、恐ろしい情報も含まれていた...

終わり。

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