フレックス制度

フレックス出社の会社に入って半年。

最初は自由で快適だった。

満員電車を避けられ、オンライン会議だけで一日が済む。

合理的で効率的、そう思っていた。


だが、妙なことに気づいた。

誰とも顔を合わせない。

朝に行けば退社した後、昼に行けばもう誰もいない。

机には新しい書類があり、メールは深夜や早朝に飛んでくる。

働いた痕跡はあるのに、働く人間の姿がない。


ある日、同僚のSNSを見た。

旅行先から写真を投稿しているのに、

同時刻に会社から定期的なメールが届いていた。

矛盾に驚いたが、誰も不思議に思わない。


むしろ業務は滞りなく進む。


必要なのは「結果」だけだからだ。

ログ、履歴、ファイル更新。

それさえあれば、本人が働いていようがいまいが関係ない。


その瞬間、理解してしまった。

在宅ワークは本人が仕事をする必要はない。

本人でなくてもいい。

いや──そもそも“誰も”仕事をしていなくてもいい。


ただ「やったことにする記録」だけが積み重なれば、それで会社は回っていく。


画面に並ぶ同僚たちのアイコンを見つめる。

本当に人間がそこにいるのか?

俺が見ているのは、ただの名前と記録だけではないのか?


そう考えた途端、心臓が凍りついた。

もしそうなら──


俺自身も、もう“必要ない”のではないか。

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