蒼海の覚醒
クマガラス
第1話 開戦
2062年 未明
北極の氷原が果てしなく広がる深夜、アメリカ軍の情報網が微細な異常を捉えた。
「未確認の電波信号をキャッチ……発信源は北極大陸内部」
監視基地のスクリーンに奇妙な波形が浮かび上がる。既存のどの通信規格にも一致しない、不吉な信号。司令部は即座に戦闘機の発進を決定した。最新鋭のステルス戦闘機が夜空へと舞い上がり、冷たく静謐な極地へと向かう。
しかし、そのまま消息を絶った。
交信が途絶えた機体は戻らず、パイロットの安否も知れない。
何かが、始まろうとしていた——。
数日後、突如として世界中の電子機器が制御を奪われた。テレビ、スマートフォン、ラジオ、ビルの巨大スクリーンに至るまで、あらゆる映像媒体が一斉に同じ映像を映し出す。
そこに映るのは、一人の男。
黒い軍服に身を包み、端正な顔立ちの中に鋭い目つきを宿している。短く整えられた金髪、白磁のような肌、そしてどこか見覚えのある顔。男は壇上に立ち、静かにマイクを握った。
「同志諸君——!」
彼の声は低く、よく通る。まるで人の心を揺さぶるような重厚な響きを持っていた。
「人類は変わらなかった。二度の世界大戦を経てもなお、己の力を過信し、自然を破壊し、同じ過ちを繰り返している。この世界を救うために必要なものは何か、諸君はもう知っているはずだ!」
彼はゆっくりと手を掲げる。
「アドルフ・ヒトラーの血を継ぐ者——アウグスト・ヒトラーがここに宣言する」
一瞬の静寂の後、映像の奥から無数の声が轟いた。
「ハイル・ヒトラー!!」
画面に映る軍服姿の兵士たちは、一斉に右手を掲げる。その動作はあまりに整然とし、まるで一つの巨大な生き物のようだった。彼らの背後にはホログラムが投影され、そこには過去の独裁者——アドルフ・ヒトラーの姿が映し出されていた。
まるで歴史が甦ったかのように。
アウグストは微笑み、確信に満ちた声で続ける。
「”ノクティス”は今、世界に宣戦布告をする!」
その瞬間、世界は新たな悪夢に包まれた。
ノクティスの軍事行動は迅速だった。組織はドイツに侵攻を開始し、国内に潜伏していた旧ナチ残党を吸収。瞬く間にポーランド、オーストリアへと戦火を広げ、かつての惨劇をなぞるように占領地域を増やしていった。
世界各国は危機感を共有し、即座に国際連合軍を結成。アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアといった大国が動き、日本もまた後方支援という形で協力を決定した。
だが、ノクティスはその一歩先を行っていた。
世界が反撃の準備を整える間もなく、ノクティスは核兵器による無差別攻撃を開始。
ニューヨーク、ロンドン、モスクワ、北京——世界の中心都市が次々と閃光に包まれた。
戦況は一変した。
このままでは、世界が滅びる。
そして、日本は、ついに決断を迫られる。
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