第8話

母上のいた頃は武器の修行もよくやっていた。

「セリオ、今日は刀の使い方を学びましょう、自分を守れるようにするのは大切です」

「……はいっ!」

 他にも数や語、乗馬や蹴鞠、いろんな遊びや一流の貴族になるための事をたくさん教えてくれた。優しく華やかでありながら、バラに棘があるように、母上は力が強い。

 そんな母が1つだけ禁止する物があった。

 僕はそれが触りたくてたまらなかった、何故かは知らないけれど。幼き子供の直観というのだろうか、その武器に誘われている気がして。

「…………むうっ!」

 言葉もうまく喋れないが視界が見えないわけではない、いつもそのカッコイイ武器を手に取ろうとした。

「あっ……それじゃなくて、今日はこちらにしましょうね!」

 不思議と母上は焦っているような気がした、だってその時は子供が持つには厳しいどでかいハンマーを無理やり持たされたから、そのあと転倒しかけた僕にさらに焦っていたのを、なんとなく覚えている。

 僕を一番大切に扱ってくれた人。どれだけ才能がなくても、どれだけ物覚えが悪くても、優しく明るく接してくれた、僕が唯一信頼していた人。でも、幸せはすぐに去ってしまう物だ。

「おかーさま?」

 幼さは時に愚かである。

「大丈夫よセリオ、私は強いからこんな病、敵じゃないわ」

 簡単な嘘にさえ気づかない、気づけない。

 母上は不治の病に侵されていた、前例がなく、オマケに身体の至る所を診療しても異常が見られない。なのに身体は蝕まれ細くなりやつれて醜く豹変してしまう。

 過ぎる度に訪れ行く死に僕は気づかず母を待った。母が治ると嘘でしかない言葉を僕は鵜吞みにして信じて待った。母上は強いから、母上はいつも約束を守ってくれたから。治れば僕は一人じゃなくなるから。

 けど、母上は一年もすれば動かなくなっていた。あるのは肉体だけ、魂だけが綺麗に刈り取られたかのように、やせ細っていたものの美しさだけが残っていた。

 僕はこの時、頭の隅にチャンスという言葉もあった。今まで触らせてくれなかったあの武器、今なら触れるのでは、と。

「ない……どこにも……」

 城内をこれでもかと散策した、三周くらい、日が暮れるまで探し続けた。でもなかった、まるで最初からなかったかのように武器庫は埋まっていた。母と同時にこの世を去ったというのか、しかし武器に意思はない、まず魂が存在できない。結局、わからず終いでそれ以降考えることは止めていた。

 あぁ……どうして、僕はいつも失ってばかりなのだろう。他者ばかりが何かを得て、僕は何かを失っていく。

 魔力、運動神経、人間関係。何ひとつ、うまくいかない、何もできなくて……本当に……嫌いだ。



「起きなさい」

 …………………………………

 声が聞こえる。

 …………………………………

「一度決めた道なら、諦めてはいけません、倒れることは許しません」

 ………………………………………………………………………

 懐かしい、美しい響きに、どこか強さを感じる女性の声。

 ……………………………………………………………………

「セリオ」

「はは……うえ……?」

 視界の前に、死んだはずの母がいた。ここは天国か?

 母の声は厳しい、怒っているわけでもなく、叱っているわけでもない、ただ冷たい。

「立ちなさい」

「………………」

 無理だ、限界を強引に超えて動かし続けた身体はもう立つ力すら残っていない。上半身を起こして、見上げることしか今の自分にはできない。

「例え、身体が動かなくなろうと、胴体が切り裂かれようと……心臓が貫かれようと、一度決めたというのなら倒れることは許しません」

「………………」

 なんで、と聞きたい。でも口が開かない、筋肉が動こうとしてくれない、無理に動かせば痙攣して苦しくなる。

「……大丈夫……」

 その時、母は一瞬、昔のような優しい表情に戻った。ゆっくり近寄り、僕の前でしゃがむ。

「貴方は、私の子……できるわよ」

 僕は魔法も、武器も使えないそれでどうやって「できる」と思うの?

 優しい表情はすぐになくなり、また厳しい顔つきに戻る。

「本当は……これを貴方に、いえ貴方たちには使わせないつもりでした……」

「…………!」

 母が取り出したのは、何度も僕が触ろうと探していた武器。やはり母が持っていたのだ。しかしなぜ?

「なぜなら、この、死神の鎌を持ってしまえば、大いなる責任が貴方たちに降り注ぐから」

「…………?」

 確かに、この武器の形状は鎌である。しかし死神、とはどういうことか、回らない頭で考えていた。

「でもね……貴方の方が適任みたい……」

 そして、一歩近づいて、僕の手を取る。

「貴方が五大元素の魔法を使えない理由、それは必要がなかったから、さぁ持ちなさい、貴方にこのを与えます」

 必要がない?母の言っていることがわからない、それでも母は淡々と言葉を続ける。

「貴方は一人だと思っているでしょう?」

 いきなり何の問いかけだろう?

「これを見なさい」

「……………………!」

 空間に映像が投影された、そこに映っていたのはガイア、ブラッド、エリシアなどの僕についてきてくれた人たちがエリオと戦っている姿。

 あれだけの数がありながらエリオは、苦戦などしていなさそうに見える、むしろ笑って楽しんでいる。

 苦戦をしいられているのはブラッドたちだった、どう間合いをとってもすぐに詰められる、後ろから行こうと、すぐに気づかれ防がれる。まるで先が読まれていた、これが神の力だというのか。

「彼、彼女らは、貴方のために戦っている、それは貴方がかけがえのない仲間だから、大切な人だから」

「………………!」

 僕の心は熱い物に包まれた、胸がじんわりと暖かい。

「もう兄に固執しなくてよいのです、貴方は生きられる、彼、彼女らがいるのですから……行きなさい、これを持って。この武器も、貴方を求めているのよ」

「……………………っ!?」

 手渡された武器を僕は握る、やけにしっくりとするその感覚と共に僕の中に何かが流れ込んできた。その感触へと浸る前に、母の姿は透けていく、それに気づき僕はワレに返った。

「行きなさい、この先の、貴方の進む道を見ています」

「…………母、上!」

 意識が朦朧とする中、全力で叫んだ。

「行って参ります……!」

 その声に母は満面の笑みを浮かべた。

「えぇ……いってらっしゃい」

 僕は忘れていた、いや見ていなかった、意識していなかった。エリオだけに固執して、周りの存在を見ず勝手に敵として考えていた。

 あぁ……なぜ……こんなに近くにいた存在を忘れていたのか。僕は一人じゃない、ガイアが、エリシアが、そしてブラッドが。

 次は僕が応えないと、助けられてばかりだったから、次は僕が助ける番。

『行こう、俺が助けてやる』

 光に包まれ、僕は彼らのもとへと向かう。




「クッソ……!こんだけやってるってのに!底無しかよ!?」

 神相手に人間が勝てるはずない。ブラッドたちが攻撃しても『嫉妬の神』はビクともしなかった。

「威勢ノイイダケノ雑魚はトットトキエロォ!」

「……やらせないっ!」

 神になったことにより魔力が使用できるようになったガイアが炎の纏った剣を一振り、ギリギリで剣先が当たりブラッドへの攻撃を防ぐ。

「炎……俺魔力ないはずなんだけどなぁ……」

「我の力を継いだのだから、当然のことだ、誇ってよいぞ!」

「お相手さん、全然倒れてくれないですぅ!僕の矢跳ね返されちゃうし……」

 ジルはもう神を降りた、そのため全盛期の力を出すことはできない。ガイアも、まだ完全な神ではない、ジルのように力を使うことはできない。

 神に匹敵できるのは神だけ。唯一の神はもう神ではない。勝利など絶望的だった、それでも戦おうとする。

「オラァ!全身全霊!『力似變換フォルシヴェン』!」

 ブラッドの魂機装は特定のエネルギーを全て他のエネルギーに変換させるという物。位置エネルギーが下降すれば運動エネルギーが上昇するように、何かのエネルギーを下降させ一番欲しいエネルギーへと全て上昇させる。しかし、力学的エネルギー保存則により限度がある、例えば体内に耐えられないほどのエネルギーを蓄えることはできない。溜まれば溜めただけ変換することができるが、変換する前と後でエネルギー量が変わることはない、増やすことができないと言った方がよいだろう。

「ット!イマノハ当タッテタラアブナカッタカモナァ!?」

 音や熱、光などといったエネルギー全てを運動エネルギーに変換させ、背後から高く、位置エネルギーをさらに足して斬りかかろうとした。が、その斬撃は当たらなかった。

「オラオラァ!死ンジマエヨォ!」

「…………!ウォルフ!」

 エリシアは叫んだ。いつの間にか背後を取られていたことにいち早く気づいた。

 背後から来る魔法に気づくのが遅かった、振り向いたころには防げないほどの至近距離。ウォルフは死を悟った、もう動かなかった、エネルギー変換の反動で動くことができなかった。身体は意思と反して死を受け入れようとした、あいつと同じ場所に行けるのならと。

 その刹那、魔法が降り注がれることはなく、カキンッ!という金属音と共に弾かれたのだ。

「ナンダトォ!?キ、キサマァ!」

「………………セリオ、お前」

 そこにいたのは他でもないセリオだった。しかし姿が変わっている、角膜は黒く染まり、瞳孔は細く赤い。セリオではない誰かがセリオの身体に憑りついて操っているようだった。

 そしてゆっくりとこちらを振り向いた。

が殺る、下がれ」

「ふむ……久しいな……死神」

 ジルが口を開いた、それを聞いた死神はジルの方に向く。

「…………久しいというレベルではない程だな」

「えっ……?どういうこと?」

 ジルとセリオの姿をした死神は周りには理解できない会話をしていた。

「ナ、ナンダテメェ!?キメタ!テメェカラ殺シテヤルヨォ!」

 会話をする暇はない、『嫉妬の神』は壊れたかのように死神へと襲い掛かる、だが。

「会話中だ、邪魔するな」

「グヌゥ!?グァァ!?」

 鎌の一太刀は突風を纏うほどだった、あれほど強かった『嫉妬の神』を簡単に薙ぎ払ったのだ。

「お前は……誰なんだ」

 ブラッドの問いかけに答えるつもりはない、死神は無視して嫉妬神のもとに一歩ずつ歩き始める。

「セリオと言ったか?あいつの『素質』は『生』だ」

「『生』?おい創世神、何を言ってるんだ?」

 レオンの質問にジルは冷静に話し始めた。

「人間には必ず魂の『素質』という物が存在する、それによりその者の生き方が運命づけられている、その中に『生』という稀な素質が存在するのだ」

「つまり俺らにもあるのか」

「あぁ教えてほしいなら、特別に教えてやってもいいぞ、まぁそんなことはいい、その『生』についてだ」

 咳ばらいをひとつ、落ち着いて再度話し始める。

「『生』という素質を持つ者が現れた時、必ず『死』を持つ存在が顕現する、しかしその『死』を持つ存在は一人しかいない……それが死神だ。貴様らもイメージがあるだろう?死神は死んだときに現れる者、『生』と『死』を選別し1つの理を保つ存在。その『生』と『死』を選択する上でがあってはならない、そして他の何かは必要がない、あ奴が魔法の使用ができなかったのもそこにある」

「う~ん……つまり?」

「しかしながら、死神は単体で存在できない、なぜなら『生』という素質が追放されたから、だから『器』としてひとつになろうとするときのみ死神は存在できる。まぁ嚙み砕いて言えば『生』と『死』の2つを持ったあいつは殺すか生かすかを選択できるということだ」

「追放……?」

『生』という素質が追放されたとはどういうことだろうか。いやそんなことはいいか、とにかく今のセリオがとんでもなく強いということはわかる。

「さぁて……『嫉妬の神』お前は罪を犯した、だから選別しよう、この鎌でな」

 鎌を突き出し宣言する、その挑発に乗った嫉妬の神は先制攻撃をする。しかしその攻撃が死神に届くことはない、弄んでいたはずの嫉妬神は弄ばれる立場になってしまっていた。

「ナゼダ!ナゼ攻撃ガ当タラナイ!フザケンナ!フザケンナァァァァァ!」

「負け犬の遠吠えも滑稽だがうるさいもんだな、少しは静かに戦ってはくれないか?」

 全ての攻撃が避けられて弾かれる、嫉妬の神は納得できずただでさえ壊れている性格が更に壊れてしまっていた、もうその姿にエリオはなかった。その様子を死神は笑って楽しんでいた、神はみな嘲笑うのが好きなのだろうか。

「あぁ、『生』に言われているんだ、苦しめず殺せとな、そろそろ終わらせてやろう」

「ヤメロォ!俺ハ神二ナッテ……!」

 鎌を肩にかけて力を溜め始め、放たれた黒いオーラに攻撃は弾かれる、やがて準備が完了した死神はニヤッと笑い、消えたいや高速移動し背後に回った。

「お前が死ぬかは俺が決める、……判決を下せ!『歿猞僎擇ゼロの映し世』!」

「ナ、ナンダコレハ!?」

 ガイアたちには何も見えなかった、ただ死神が鎌を持って歩いただけ。けれど嫉妬神は違った。

「カ、カガミ?マサカ、コレハ!?」

 浄玻璃鏡。とある宗教における神話上の鏡、本来の使用用途は閻魔大王が審判の道具として扱う物。生前を映し嘘を見破る優れ物、この鏡はそれを死神用に改造した武器。

「この鏡はお前の犯した罪を映す、それが多ければ多い程、死ぬ確立が高くなるぜ、まぁ1個につき50パーセントくらい上がるがな」

 だいたいの宗教において1つでも罪を犯せば地獄に行く、それを考えたら50パーセントなど優しい物だ。

「ギャゥァァァァ!?ヤメ、ヤメロォォォォ!?タマシイガァァァ!」

「な、何が起きてるの?」

 ガイアたちの眼には、何もない空間でただもがき苦しむ嫉妬神の姿しか見えない。

「…………審判は下された、死ね」

「クソガァァ!オマエナンカ二ィィィ!」

 そう冷たく言い放った瞬間、肉体は崩れ滅びてゆく。いや神は肉体を保持していない、厳密に言えば『器』の人間が滅び一体化していた状態が保てなくなったということだろう。『器』を失くした神は同時に神力も失う、それは具現化させていた肉体を保持できなくなるほど。

「俺の仕事は終わった、後は『生』お前の好きにしろ」

 鎌は砂のようにサァッ、という音を立てて消えた。

「……よっと、あぶねぇ……」

 宙に浮いていた死神はセリオに戻ったため、地面に落ちる、だがウォルフがしっかりと受け止めた。

「も、もう動けない……」

 身体は不思議と痛くない、がもうビクともしてくれない、恐らく死神が痛みだけ引き継いでくれたのだろう。一体化しているセリオは何となく、そう理解した。

「無様な姿だな」

「見るんじゃねぇよォ…………」

 ジルは変わり果てた嫉妬の神を持ち上げて嘲笑する。

 小さくねばねばとした、まるでスライム。もともとこの嫉妬神は粘液体だ、手足を保たなくとも液体なのだからぬるぬると動くことができる。

 弱った嫉妬神にもう戦う意思はなく、もうされるがままであった。姿を笑われ、ぶにぶにとした感覚が面白く触られまくる。先ほどまでの熱気は消え失せ嫉妬神をからかう賑やかな雰囲気へ変わっていた、後ろから迫る闇にすら気づかずに。

「グワッ……!?」

 手のひらにあったはずのスライムは瞬きの間にどこかへ行っていた、ほんわかしていた空気はすぐに消え不穏さが辺りを覆う。奪った正体がゆっくりと空中から降り姿を現す、その姿は神々しかった。純白の世界に光る金色の髪は陽光を編み込んだかのように眩く揺れ、ひと振りで世界の色を変えるほどの輝きを放っていた。

 透き通る肌は雪よりも白く、しかしその瞳は深い湖の底を思わせる静けさと力を湛えている。彼女がゆるやかに腕を広げると、空気が震えた。ただの風ではない、見えぬ威圧が、あらゆるものにひれ伏せと告げる。それでも不思議と恐怖はなかった、胸を満たしたのは畏れよりも、崇高な美に触れたときの静かな敬意、彼女は一言も発さぬまま、こちらのことは完全無視。ただ嫉妬の神を見つめていた。

「所詮は人間ね、期待外れだった……まぁいいわ、最も弱いとはいえ『七欲の神』の1つの力を得るとしましょうか」

「貴様は……!一体何の用だ?」

 ジルは彼女と面識があるようだ、偉大な神、平凡な神でも神という種族の中ではある程度名前や地位が共有されている。

「お前はあの全知ゼウスの奴隷として、天界での仕事だろう」

 その地位の中で彼女は格下レベルであるはずだ、どれほど低いかというと天使に近いレベルだ。共有された序列にはそうであったはずとジルは確認する。

 ゆっくり、美しい顔をこちらに向けて、ルミナスは指をさした。

「私はもう天使じゃぁないの、あまり下に見ないでくれる?ましてや神を降りた貴方に言われたくないわ元創世神」

 皮肉を足されたその言葉に反論ができなかった。同時、彼女の指が光り、放たれた光線がジルを襲う。

「ふんっ」とジルはあっさり弾いてみせた、しかしその弾いた手は確実に痛みを覚えていた。神という座を降りたから、肉体が老いたというのか。ありえなかった、ジルは朽ちたとしても元は創世神、天使レベルの神の攻撃など虫が止まったと感じる程度であるはずなのに。ジルの手には軽い痣があった。

「お前…………どこでこのような力を……」

 そう問うのも束の間。

「ウ、ウワァァ!?やめろ!くうな!」

 甲高い声が響いていた、周囲はそれをただ見ていた。嫉妬の神は抵抗ができない、されるがままに彼女の口へと入っていく。

 美女の口に触れられる、などという変態的煩悩が一瞬脳を襲ったが今はどうでもいい。

「魂ガ……!ウワァァァ!?」

 喰われているのは身体ではなかった。本来、身体という物は魂を、本質を隠す化けの皮。そんな物を喰べてもを得ることはできない。

 人の本質は魂にある。性格、性の自認、記憶や力を保つ重要な部位。魂があるから身体を動かせる、魂があるから五感を働かせることができる。じゃぁ……それがなくなれば……?

「なっ……!?嫉妬神ネメシス!」

 叫んだ頃にはもう遅い、ネメシスの魂はもうそこになかった。やがてマズイと言ってペッと彼女の口から吐き出されたスライム。それはもう、生を持っていなかった、魂だけが抜けた生存意義のないただの抜け殻。

「し、死んだのか?神が……?」

 神という存在に死という言葉はない、なぜなら元は魂そのものがそこに存在しているから。長い年月と共に身体を奪う、または構成する。例えなくなろうと元々魂のみで生きられる神にとって意味はない。

「死んだ?お馬鹿さんっ……ただ私の中で生き続けるだけよ、力を奪われて、ね?」

 あぁ、これは恐らく敵なのだろう、しかし敵ながら美しい。その姿に見惚れない人はいないであろう。

「率直な感想としてはあんまりね、さて……本命と行こうかしら?」

「……!ガイア気をつけろ!」

 慌てて戦闘態勢に入るも光の速度をも超えた光線に咄嗟には成す術などあるはずがなかった。あっさりとは胸に穴が開いてしまう。

「み、見えなかったぞ……」

 撃たれていたのはガイアだけではなかった、ウォルフの腕に抱かれ半目を開け、意識ギリギリを生きていたセリオ、知らずうちに撃たれていたのだ。

「そこの新しい『創世神』と『死神』はと~っぉても美味しそうねっ」

「うぐっ……」

「お、オキサキ様ぁ……血がぁ」

 コツ、コツ。と一歩ずつ、ガイアへと彼女は近づく。それをジルは許さなかった。

「それ以上近づくようだったら容赦はせん」

「あらぁ~怖いわね、雑魚へ豹変したゴミは邪魔なのよ」

 着実に、両者の怒りは頂点へと上ろうとしていた、しかし戦いの火花が飛び散ることはなかった。

 ゴゴッ、っと迷宮は動き出した。

「あらぁ、お時間かしら、分が悪いわね、じゃぁ頑張って逃げてね~」

 神の迷宮を作り出していた神がいなくなれば、この迷宮の存在定義はなくなる。存在定義が証明されなければ物だろうと人だろうとその世に生きることはできない。構成の核として存在した神がいなくなり崩壊が始まったのだ。

「おいっ……!待て!」

「俺の魂機装使うか?」

 ロビンの魂機装は『縄縛刃斬』ミリオンバインド、百発百中のどこまでも伸び追いかける縄を投げる技。普段は誤って海に落ちた乗組員を助けたり、動くのがめんどくさい時に欲しい物を持ってくるために使ったりと雑な扱い方だ。しかし戦闘時にはありえない力を発揮する、刃斬といわれるだけあり、その縄の中には鋭い刃が隠されている。それを出すのは使用者の自由、捕まえた相手を脅しのために使ったりと用途は様々だ。

「いや、いい、多分……効かないであろうからな、それより速くここから脱出しガイアを助けるぞ」

 ロビンの提案をジルは否定した。神という存在に人間の魂が通用するであろうか?答えは一部を除いてほぼ不可能だ。

 ジルはガイアを抱え、ブラッドは再度、しっかりとセリオを抱える。そしてジルの行く方向に他の奴らは崩壊する迷宮を駆けていくのだった。

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