異世界転生ぴんきぃぶるぅ

靑煕

第1話 ふわふわしっぽと王子様

転生…それは皆の憧れる魔法の世界。

メイド…それは優秀な人材育成の結晶。


私はこの異世界ファンタジーで全てを変える!


そう誓った…筈なのに。



水無月みなづき桃色ももいろ 16歳 女子高生。

通学途中、自然公園の側で怪我をした白兎を発見。助けようと後を追い、崖から転落し致命傷を負う。現場付近を通り掛かった公園の職員が救急車を呼ぶも虚しく死亡。


しかし、運良く輪廻転生の女神に再生の機会を与えられ異世界へ転生することに。

だが予想外にも転生が始まった矢先、謎のオーロラが発生。彼女は転身後、その容姿が大きく変貌してしまう。

白兎の縁を授かり物として、長い耳とふわふわしっぽを身体の一部に取り込まれた桃色。

魔法が存在するファンタジー色の強い異世界ではあるが、半分獣で半分人間の中途半端な転生者は異形とされ珍獣扱いを受けることになる。


女神の恩恵を受けたこともあり、彼女は異世界側の好意でメイド養成所へ送られ寮生活を始めた。ところが、異形の容姿は少なからず周囲に影響を与え、良くも悪くも「珍獣」とされる…仮にも元人間の彼女にとって不慣れな獣の耳としっぽは災厄としか成り得なかった。

ルームメイトとの共同生活が一般的であるが、異形の者はわざわいを与えるとされ新人メイドらによる同室拒否が相次ぎ、彼女をより一層追い込む結果を招いた。


聞こえがよすぎる耳、敏感な触覚を持つしっぽ

この2つがメイド仕事の大きな弊害となる。新人育成の際にどうしても起こってしまう失敗。その度に養成所のメイド長や先輩による指導にも熱が入り激を飛ばされ叱責され…半獣の彼女は数日の内にすっかり滅入ってしまった。

自分は勿論、他人の失敗も影響してしまう。


そんな落ちこぼれメイド唯一の利点は、長い耳としっぽ以外の美麗さである。

水無月みなづき桃色ももいろの名にちなんで透けるような水色の長髪とまばゆく煌めく桃色の瞳を持ち、他を抜きん出る可憐さを授かっていた。


そして転機は訪れ、彼女の幸運が幕を開ける。


この容姿を殊更ことさら気に入ったのか、風変りな王族の青年から直々に王宮メイドへ召し上げたいと申し出があったのだ。

大人しく物静かな彼女は悩みに悩み、7日ののちこの申し出を躊躇いながらも受け入れ、メイド養成所の寮へ別れを告げる。


水無月桃色は王宮メイドとして仕える為、その名をアクア=ローズと改めた。

銀食器に高価な花模様の陶磁器、伝統ある王宮作法マナーと王族への儀礼的配慮、縁取に刺繍が入ったクラシックなメイド服…

誰もが其を想像イメージしたであろう。


メイドである筈の彼女の部屋は王宮の中心から離れた簡素な造りの一室…などではなく…

何故か豪奢な天蓋ベッドの置かれた壁と床一面が乳白色の王族仕様の部屋。

実はアクア=ローズもこの部屋へ通された時点でかなり疑念を抱いていた。


…コンコンッ…


重厚な装飾扉がノックされ返事をする前にガチャリと半ば強引に開かれた。爽やかな王族の青年が笑顔を覗かせる…時期国王継承者である彼は意気揚々と乗り込んで来た。

立派な金糸の刺繍が入った濃紺の燕尾服に襟飾りが付いたシルクのシャツ。首回りに革紐の宝飾タイがくくりつけられており、手元には何やら包みを抱えている。僅かに開いていた窓から風が吹込むと、王子の黒髪がさらりと揺れ碧い瞳を耀かせながら口火を切った。


「休んでいるところ悪いね…ちょっといいかな?…君のために仕立てた物があって是非とも着て欲しいんだ。」


矢継早に話を吹っ掛けると直ぐ様、手元の包みを卓上へ移しリボンをほどき始める。

包み紙から桜色のエプロンドレスが裾を覗かせた…何やら白いレース飾りの付いた物もちらりと見える。


「それと髪…君は特徴のある綺麗な髪だけど少し長過ぎるね。アレンジしてすっきりさせよう。ほら、其処に座ってごらん。」


青年は備え付けの鏡台を指差し座るよう促す。


「えっ…ぁ、しっ…失礼します。」


しどろもどろな返答をするとアクア=ローズはぎこちなく腰を下ろした。


すると、彼はブラシを片手に彼女の長髪を取り上げき始める。突如として王子によるヘアアレンジが行われた。

透明度の高い水色の長髪を少し摘んで毛束を作ると、耳飾りのように巻き上げたちまち三つ編みハーフテールを仕上げてしまう。王族とは思えない程の手捌きだ。


「まぁこんなもんかな…どう、気に入った?」


青年は鏡越しに笑いかけながら彼女の感想を求めている。にこにこと常に愉快そうな様子だ。


「えっ…あ、ありがとうございます。」


あまりのことに硬直していたが、改めて見ると丁寧に整えてある。彼女は自分の綺麗に束ねられた髪が現実のものとは思えなかった。


「…綺麗…こんなの初めて。」


思いがけず両の指先を耳元へ添える。


透き通った髪質がより一層華やぐ装飾へと変貌を遂げた。青年が施したヘアアレンジメントは彼女の妖艶な雰囲気を際立てるのに一役買っており、その可憐さに磨きをかけている。


禍をもたらす異形の存在は今や幽玄の美。

少女の過酷な転生も歪な過去も砂塵と化す。

内なる儚さと神秘を兼ね備えた真の姿を具現化し始める一歩となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る