1-3話 混乱の夜明け前:病院の蝋燭と伝令の声

長い待機の末、グレッグたちは蝋燭の火が揺れるシャウカステンのある部屋に通された。

そこは静かで、どこか儀式のような空気が漂っていた。


医師は、救急馬車に同乗していたと語った。

グレッグが「回復したら麻痺が残りますか?」と尋ねると、即座に答えが返ってきた。

その応答の速さに、グレッグは医師としての覚悟を感じた。


「積極的な治療はしないでください」

グレッグの言葉に、医師は静かに頷いた。

「それでは、心拍が止まった時点で、治療を終了といたします」


その一言で、グレッグは悟った。

――もう、先は長くないのだ。


一方、叔父は食堂へ向かい、「美味い、美味い」とパンを葡萄酒で流し込んでいた。

医師から「何かあれば早馬で連絡しますので、ご自宅でお待ちください」と言われていたにもかかわらず、帰り道では酒場に立ち寄り、馬車を待たせて酒を買っていた。


その酒の値段が銀貨一枚に跳ね上がっていたことを、グレッグは鮮明に覚えている。


実家に戻ってからも、叔父は酒を飲みながら「幸せ、幸せ」と繰り返していた。

グレッグは、ただ黙って杯を呷った。


その夜、叔父は「もう何十回もグレッグの部屋に泊まっている」と言い、当然のようにグレッグを父の部屋へ追いやった。


長年、実家に上げてもらえなかったグレッグにとって、叔父が息子以上に父に寵愛されているように見えるのは、理不尽だった。


父は思い込みが激しい人だった。

「可愛い」と思った人間は何をしても可愛い。

「憎い」と思った人間は、どんなに優しくされても憎い。

グレッグに対しては、憎しみしかなかったのだ。


午前二時前、早馬の伝令が玄関を叩いた。

「急いで来てください!」

病院からの切迫した知らせだった。


グレッグは叔父と母を起こしたが、叔父は「お前、ベッドから落ちたろう。ムハハハハッ!」と笑っていた。

グレッグは、伝令の内容を聞くのに必死で、そんなことは覚えていない。


眠り薬の影響で、夢と現実の境が曖昧だった。

一度目の呼び出しでは起きられず、頭の中は混乱していた。


母を起こして外出の準備をさせようとしても、叔父と同じく危機感がまるでなかった。


家を出るまでに、二時間以上かかったのではないか。


「馬車を呼ぼう」と言っても、母は「呼べば高くなるから!」と反対し、近所の馬車乗り場まで歩いて行くと言って聞かなかった。


雨の中、数百メートルしか離れていない馬車乗り場へ向かうのに、十分以上かかった。


そして、馬車はいなかった。


馬車乗り場は村役場の前にある。

叔父は「村役場の馬車で送ってもらうよう、役場に交渉してこい!」と命じた。


「そんなの無理だよ!」とグレッグが言っても、叔父は聞く耳を持たなかった。

「自分で言って来て!」と返すと、ようやく黙った。


その沈黙の中に、夜明け前の不穏な気配が漂っていた。


つづく

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