『灯火(とうか)は誰のために』

志乃原七海

第1話特集:** 白衣の天使は駆け抜けて 山本あづさ 24歳の誓い


テレビのノンフィクションドキュメンタリー番組らしい臨場感と情感を込めて構成しました。


---


### **番組台本案**


**番組タイトル:** 「The Life Stories ~記憶の灯火~」

**特集:** 白衣の天使は駆け抜けて 山本あづさ 24歳の誓い


**【シーン開始】**


**ロケーション:** 山本あづささんの実家・リビング

**登場人物:**

* 壬生(みぶ)えりか(ディレクター)

* 山本さんの父

* 山本さんの母


(リビングには、あづささんの写真が飾られている。笑顔の遺影、旅行先でのスナップ、看護師の制服を着た姿など。テーブルにはアルバムが広げられている。ディレクターの壬生が、ご両親の向かいに座っている。穏やかだが、少し悲しみの影が差す空気。)


**壬生(D):** 「…あづささんが看護師になりたいと、はっきり口にされたのは、いつ頃だったんですか?」


**母:** 「高校生の時でしたね…。祖母が入院したことがあって、その時にお世話になった看護師さんの姿を見て、自分もああなりたいって。本当に、人の役に立ちたいという気持ちが強い子でしたから…」

(そう言って、少し目を伏せる母)


**父:** 「一度決めたら、まっすぐな子でね。勉強も大変だったろうに、弱音一つ吐かずに…。本当に、自慢の娘でしたよ。」

(父、少し遠くを見つめるように話す)


**壬生(D):** 「看護学校時代、一番思い出に残っている出来事はありますか?」


**母:** 「それはもう…戴帽式ですね。あの子が、本当に看護師になるんだって、覚悟を決めた顔をしていたのが忘れられなくて。」


**壬生(D):** (頷きながら、手元の資料へ視線を落とす)

「24歳というあまりに早すぎる死。山本あづささんとは、一体どんな人物だったのか。彼女が命と向き合う第一歩を記した、誓いの日があります。」


(壬生(D)、ご両親に優しく語りかけるように)


**壬生(D):** 「まずは、こちらのVTRをご覧ください。」

(壬生(D)、手元の資料を一枚めくる)


**壬生(D):** 「VTRへ。」


---

**<VTR START>**


**(SE:厳かなオルガンの音)**


**テロップ:**

看護師への誓い

― 戴帽式 ―


**映像:**

少し古いが、愛情のこもった家庭用ビデオカメラの映像。

講堂のような場所に、白いワンピース姿の学生たちが並んでいる。

その中に、緊張した面持ちの、若き日のあづささんがいる。


**ナレーション(N):**

「これは、あづささんが看護学校時代に撮影された、戴帽式(たいぼうしき)の映像。看護師を目指す者にとって、これは単なる儀式ではない。人の命を預かることの重さと責任を、その身に刻む、誓いの日である。」


**映像:**

一人ずつ名前を呼ばれ、教員からナースキャップを被せてもらう学生たち。

「山本あづささん」と名前が呼ばれる。あづささんが一礼し、壇上へ。

少し誇らしげに、そして凛とした表情でナースキャップを被せてもらう。


**(インタビュー音声・父)**

「この時は、本当に嬉しかったですねぇ…。これで夢が叶うんだな、と。」


**映像:**

ナイチンゲール像から灯りを受け取り、自分の持つろうそくに火を灯すあづささん。

暗くなった講堂に、ろうそくの灯りが幻想的に広がる。

その小さな炎に照らされたあづささんの横顔は、決意に満ちている。


**(SE:学生たちによるナイチンゲール誓詞の斉唱が、低く響く)**

「われはここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん…」


**ナレーション(N):**

「この手に灯した、小さな命のともしび。その光が消えぬよう、その重さをその両手に感じながら、彼女は、看護の道を歩み始めた。その眼差しは、まっすぐに未来を見つめていた。」


**映像:**

式が終わり、友人たちと満面の笑みで写真に写るあづささん。

少し離れた場所から、ビデオを回しているご両親に向かって、はにかみながら小さく手を振る。その笑顔で、VTRは静かに終わる。


---

**<VTR END>**


**【シーン継続】**


**ロケーション:** 山本さんの実家・リビング(現在)


(VTRが終わり、リビングの空気に戻る。母が、そっとハンカチで目頭を押さえている。父は、懐かしむように、そして愛おしむように、静かに目を閉じている。)


**壬生(D):** (優しい声で)

「…本当に、素敵な笑顔ですね。この時のあづささんのこと、今でも鮮明に覚えていらっしゃいますか?」


**母:** 「はい…。本当に輝いて見えました。『これで私も、人の命を守れる人になるんだ』って、少しだけ胸を張って…。あんなに嬉しそうな顔は、後にも先にも…」

(言葉を詰まらせる母の肩を、父がそっと支える)


**壬生(D):** 「…。」

(壬生(D)、静かにご両親の話に耳を傾ける)


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る