その日私は『弟』を拾う…

@yomitu-akari

Prologue - Girl's Side

ちょっと高めのヒールにピッタリとしたスーツ。

ちょっとスモーキーな香水に真っ赤なルージュ。


それが私の戦闘服。


これさえあれば誰に何を言われても絆されない、構わない。


そんな私の防護服。


いま思えばその日はちょっと間違えて隣に置いてあった甘めのグロスで。


その時からもう、全ては崩れていたのかもしれない。





第一印象は『遊んでそう』だった。


真面目そうなのは艶のある黒髪だけで。

軽薄な笑顔。

口にも耳にもついたピアス。


あーモテるんだろうなと一目でわかる整った顔立ち。


「ねえ、おねーさん。泊めて?」


ほら、軽薄。


「嫌。」


はっきり拒否すると一瞬驚いた顔。自分が断られるなんて思ってないくらいには自信があったのね。


「ケチ。」


不満そうな顔を隠そうともしない。


「ケチで結構。」


バッサリと切り捨てて私はその場を去る。


後ろからギャーギャーと文句が聞こえるけど知ったこっちゃない。



帰宅して少し楽な服装に着替える。


外を見ると土砂降りの雨。



家を出たのはほんの気まぐれ。


濡れたくないから買った大きめの傘をさして。


ほんの少し前に通った大通りを歩く。



いた。


ああ、なんて顔して。



雨に濡れて震える子犬のように。


小さく膝を抱えて。


寂しそうな顔で雨に濡れている。



そっと傘を差し伸べる。


自身を打つ水滴が無くなったことに不思議そうに顔を上げる。


ああ、この目を私はよく知っている。


「坊や、うちへおいで。」




その日私は『弟』を拾った。

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