『闇ト月ト剣』

 世界は夜の時間に――

 空―― 

 ――闇


 わずかな光が何処かに存在することで、世界は輪郭を保つことが出来ている。

 それすら止まりそうになる。静かに死にゆく世界。

 全てが停止してしまう瞬間、荒野で命を失った騎士の身体が動く。

 白銀の甲冑を着た少女を中心に、世界を包む様に波紋が起きる。

 それを追う青い光。

 世界が、少女が生んだ波紋によって包まれ、そして――

 夜空に青い月が生まれた。


 冷たく世界を照らす。

 世界中に有る騎士の死体から、平行世界へ移動する魔法の詠唱が始まる。

 美しい少女の声が次第に重なり合っていく。その音が次第に波紋の中心へ。

 全てが集まった時、地震が起きた。


 地割れ、あらゆる物が破壊されていく中、一人の騎士が生まれる。

 滅びゆく世界を救った少女。その姿は醜かった。

 この世界を救う為に戦った騎士の身体を繋ぎ合わせた肉体。複数ある顔からは怨嗟の声が出ている。巨大な身体の頭上、少女の頭部が浮いている。青い光を放ち、見開かれた両目から血が流れ、口は光る糸で縫い合わされていた。

 開かない口から漏れる咆哮。握られている刀身が月と同じ光で輝く。

 乱暴に振るわれ、空間が斬り裂かれる。少女はそこへ飛び込む。

 自らの罪で生まれた化け物と私達を戦わせ、そのまま此処を捨てたこの世界の元住人。必ず殺す、殺さなければ何も始まらない。

 私達の存在理由はそれしかなかった。


 だめ――

 段々と昔の事が思い出せなくなってくる。

 仲間と一緒に戦った記憶――

 敵―― その姿を最近見たような――

 ああ――

 ユルサナイ、カナラズ、コロ――す。

 世界を揺らす叫びが再び。そして―― 誰もいなくなった世界は一瞬で闇に飲み込まれ、消滅した。

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