『不誠実ナ手甲』

 青い瞳を持つ男。美しい金髪は泥と血に汚れ乱れている。風に乗って教会内に漂ってくる血の匂い。戦場が近く、争いは続いている。

 

『加護』を受けた鎧を身に纏い、激しくぶつかり合う兵士。鳴り響く音は少女の絶叫。

加護の力は、兵士に恐怖と痛み感じさせない。代わりに加護を与えた少女らがその痛みと恐怖を受け取る。


 互いの陣営はこのシステムを使って戦を続けている。

 加護の力を持つ少女は、国土を奪われない限り消滅しない。そんな少女らに人権は無く、全てが利用され、捨てられる。狂気に満ちた世界はこれからも続く。システムが消失しない限り。


 一度は抱くこの不誠実な世界を変えようとする意思。

 だが、蔓延した狂気の中では微力。

 それでも消えなかった意思。ある男はシステムを作った存在を見つけ、殺した。


 亜空間内に存在する教会。

『全ての処女』という名の教会内でシステムの変更をしようとしていた。


 見開かれた目。瞳から青い雫が一つ。

 落ちたと同時に床に現れた『魔法陣』。首を持つ青年の身体が青い光に包まれ、同時に膨大な情報が脳内に流れる。凄まじい速度で見せられる歴史の裏側。現在の世界が何故生まれたかのかを知り、尚且つ選択を迫られる。


 この世界の狂気を取り除く。自身が新しいシステムを作る。前者を選択する気は全く無かった。青年は、自身が作る世界を想像し笑みを浮かべる。

 握っていた首を光の中へ投げる。

『魔法陣』が明滅し、それに続くように教会が消滅していく。


『全ての処女』は消え、青年は、自身の漆黒の長髪が生臭い風で舞い上がる中、身体に甲冑が食い込んだ状態で戦場に立っていた。自軍と敵軍がぶつかり合う中心で。

 両腕には青い光を閉じ込めた手甲。その中を全裸の少女らが泳いでいる。亜空間に繋がった世界を内包する手甲は、この世界のシステムを破壊する『不誠実ナ手甲』として存在していた。

 その異様さに兵士の動きが止まる。


 両腕を大きく振りかぶった青年が、地面に拳を突き刺さす。

「全ての処女を、処女の全てを、その苦しみを我の力に。穢れ無き者に従う魔獣よ、少女らの呼びかけに応えよ」

 言葉に続いて地震が起き、固いに何かが割れる音が響き渡る。

 空間を破壊し、戦場に現れた『魔獣』。全身にある口から乱杭歯を鳴らし、固い毛に覆われた身体を震わせ、四肢を暴れさながら兵士に突撃していく。複数が兵士を吹き飛ばしながら更に進んでいく。

 空には怪鳥の群れ。翼を動かすたびに強力な酸性の液体を振りまく。


 これだけの攻撃でも兵士には痛みも恐怖もない。少女らの加護があるから。

 青年が腕を引き抜き、「切り離せ切り離せ切り離せ。続けた三つの言葉は選択までの時間。思考を、思考を、そして選べ。自分の存在を」冷徹な声が戦場に響く。

 数秒後、兵士達の絶叫が響く。

 少女らが加護を捨てた瞬間だった。



 数年後。

 人類は三分の一まで減った。

『不誠実ナ手甲』を持つ魔王が世界を滅ぼそうしている。人間と代わろうとしているのが加護を持つ少女と魔獣。

 人類は亜空間に存在する『全ての処女』という名の教会を探していた。

 その状況で僅かな希望が見つかった。それは魔王の遠い血縁者。

 人類はその少女に希望を託した。



 数十年後

 人類は滅んだ。

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