一層目から二層目のゲート内

 攻略する『魔具使い』が増えるとゲートの大きさが変わるのかと、俺は考えていた。

 ゲートを構成する為に使用した魔力文字の淡い光によって周囲は照らされている。

 近くにはエルが立っている。普段なら二人分の大きさで、互いが離れない様にしている。

 バルトロとエメルリンダを見る。

 意外というか、二人は無言だった。

 バルトロの表情は何かを考えているようだった。一方、エメルリンダは完璧な笑みで停止した様に立っている。普段の俺であれば、彼女の意思の強さを感じる姿と思うが、先程の一層で起きた後だと異常な行為にしか見えない。

 それにしても――

 一層目から精神的負荷が大きい『塔』だ。

 特別な理由が無い限り、攻略は続ける。ただ――なんとも言えない不安の様なモノが足元から這い上がって来て、俺の顔を凝視している様な感覚がある。

 その中で一番の不安材料がエルと離れることだ。

 今、『聖天翼教』のメンバーであるフェリカとイアーリと引き離された状態。

 この状況が、今後の俺達に絶対起きないと断言出来ない。

 となると――次の層へ向かうのもいいが、二人と再会する方法を探した方がいい。そして、確立出来れば、俺とエルが離れてしまった時、必ず再会出来る安心が生まれる。

 よし――

 エメルリンダとバルトロを説得するか――


「あっ!! 居た! バルトロだ!!」


「エメルリンダ様!! エメルリンダ様!!」


 淡い光と闇の境界から走って現れたのは、喜びで滅茶苦茶な顔になっているフェリカとイアーリだった。



 目の前で起きた事に理解が追い付かない。ついさっきまで二人の気配は全く感じなかった。

 瞬間移動してきたかの様に現れたフェリカとイアーリを見て、言葉を失う。


「ラウル様、今の現象は異常です……」


「あの二人にはゲートを作ることは出来ません。ゲートに入ってしまえば外部干渉はほぼ不可能ですし、何かの魔具を使用したとしても、その力に対する防衛によって衝撃が発生するはずです……」

 俺以上に驚愕を隠せない言葉。


「エルの言う通りだと思う。何だ……、何が起きたんだ……」

 急いで周囲を見渡すが、これといった変化が無い。何も無い。


 マズい――このままだと何が原因で起きたのか、その理由と方法に辿り着くチャンスを失ってしまう。時間が全てを押し流してしまう。


「なあ、フェリカ。お前達は今まで何処に居たんだ? 『塔』の外か? 『塔』とは全く関係無い場所か?」

 唐突な質問になってしまったが関係無い。俺にそんな余裕は無い。


 フェリカとイアーリは顔を見合わせ、直ぐに顔を背ける。


イアーリは教主の方を向き、笑みを浮かべ口を開く。

「私は早く、エメルリンダ様に逢うためにも、一層目の『魔具使い』と戦いました。私とエメルリンダ様が一緒であれば、私が手際良く殺すことが出来ました。無駄な動きばかりする女と一緒になったせいで、無駄な時間を過ごすことに」


 彼の言葉に反応したフェリカが怒りの言葉を放つ。

「え? は? お前は何を言ってんの? 誰が無駄だって? 邪魔なのはアンタだよ。私とバルトロだったら瞬殺だよ。殺さないように気を使って戦ってことすら気づけないお前は終わってるよ!」


「お前達、『魔具使い』と戦っていたのか?」

 俺は思わず聞いてしまった。脳裏にある光景が浮かぶが推測でしかない。それ以上の言葉を押し込めた。


「何だ、フェリカとイアーリも戦ってたのか。それにしても相変わらずだな、お前達は。本気で協力し合えば敵無しなのにな。まあ、それはそれでいいかもしれねぇな。あははは!」

 バルトロが豪快な笑いで全てをまとめようとしていた。


「待て、バルトロ。今のお前は少し軽率過ぎる。『聖天翼教』内の仲違いに口出しする気は無いが、二人と突然合流出来た事を真剣に考える必要がある。今後、誰が切り離されるか分からない。元に戻せる方法の糸口を少しでも見つけておくべきだ」


 バルトロが視線を向ける。

 少しの沈黙の後、「ラウルの考えは分かるが、どうやっても今の状況からだと何も分からないんじゃないか?」


「それは分かる。だが、全く何も考えないよりはいい」

 

 俺とバルトロの視線がぶつかり合う。

 その状況に誰も口を開かない。

 一触即発の状況の中、全てを変える様な明るい声が響く。声の主はエメルリンダだった。

「イアーリ、フェリカ、貴方達が戦った『魔具使い』はどんな方でした?」


「『下ガル頭部』という魔具を使う男でした。名前はサラス。層内は外の世界と似ていました。落ち着きが無く、独り言が多い若い男でした。攻撃方法としては、独り言が次第に刃になり、襲い掛かって来る。必要以上に時間が掛かってしまいましたが、倒した後に死体を見ると、頭蓋骨でした。肉体が無く、半透明の脳が魔具だった様です。歪な脳が崩れる時、耳元で名を告げられました」

 落ち着いた声とゆっくりとした口調。無駄のないイアーリの説明が終わる。

その内容にエメルリンダは笑みを浮かべ、頷く。言葉ではなく、態度で感謝を伝えられた彼は喜びのあまり泣き出しそうだった。


 その光景を横目で見ていたフェリカが大きく舌打ちをする。

「お前じゃなくてバルトロと一緒だったら、面倒無く簡単に殺せたのに。本当に最悪だ」


 再び二人の争いが始まりそうになった時、俺の視界が白い闇に包まれた。急いで近くに立っていたエルの手を掴む。次の瞬間、浮遊感に襲われ、意識が遠のいていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る