演目・風衝烈断

 巨大機巧龍ムラサキがイスカの指の動きに合わせ鱗を逆立て、一枚一枚が帯電し始め身体全体が紫色の光に覆われていく。すぐに地上のローズとバロンが二手に分かれる形で回避行動を取り、リオとシリウスも合わせてカードを引き抜き備えた。


「龍鳴招雷雨……!」


「スペル発動ソロガード!」


 イスカがその名を呟くと共に機巧の腕が大きく回るように糸を引き、ムラサキより放たれる紫の雷が一度天へ登ってから一気に舞台に降り注ぐ。

 五月雨の如き雷電の嵐の中をローズはリオの使うスペルにより守られるも完全とはいかず掠め、バロンは勢いよく前足で舞台の岩を打ち上げ盾としその間に穴を掘って地下へと逃れそれぞれ雷雨を凌ぎ切った。


 だがすぐにイスカは放電を終えたムラサキを操作して鱗を閉じると口内に炎を蓄えさせ、小指の先から糸を飛ばしてカードを引き抜き手元へ運ぶ。


「スペル発動フレアフォース……紫電が打ち砕いた大地を焼き払え、演目・爆炎龍海……!」


 赤い光を身体の隙間から放つムラサキが口から紅蓮の炎を吐き一気に舞台を炎の海へと変えた。イスカのスペルはムラサキを強化したのではなく、その体内に収められたウィルオウィスプのタマを強化したものであり、それによって火力を増したというのはリオも理解し炎の中からローズが飛翔し天を舞う。

 刹那に切り返し頭を向け炎を放つムラサキの攻撃を紙一重で避けてローズが一気に切りかかり、両手で剣を持って力を込めつつ押し付けるようにしながらすれ違ってムラサキの身体にようやく傷をつける。といっても表面を少し削った程度で傷とは言えないのはローズ自身がよくわかっており、地上からそれを見ていたリオとシリウスもムラサキの防御力をどう破るかを改めて考え直す。


「あれだけの硬さ相手では真っ向から攻撃しなければ歯が立ちませんね、何か案はありますか?」


「高度を取られていなければバロンの攻撃力で打ち抜ける可能性はあるが、警戒して浮かせている以上それは難しいな。かといってバロンの咆哮を使うにしても、射程が足りない事に変わりはない」


 確かに、と返しながらリオは戦況を分析し直す。ムラサキは長い身体を常に浮かせたドラゴンを象る機巧人形、そしてそれを完全に再現するように常に浮遊している。

 加えて全身刃物のような鋭さ、放電能力、火炎能力、堅牢な防御力と近づくのも容易ではなく並の攻撃では打ち抜けない。さらにまだ見ぬ仕掛けを持っているとなれば尚の事、誘いをかけられ反撃される危険も高い。


 しかし一方で無機質無感情を貫徹するイスカが肩で息をしているというのもわかり、彼が消耗しているというのも間違いはない。広範囲を一気に殲滅するような攻撃を繰り出してるのだから当然と言えるが、だからといって魔力切れになる程でもないというのも間違いなかった。


(ソロガードを使ってランもダウン状態になった今、私の使えるアセスはローズとアビスだけ……シリウス殿のアセスもチャーチグリムのダンを除けば今召喚しているバロンのみ、なんとかバロンの攻撃を当てられるようにできればいいのですが)


 挑む前にお互いのカードを確認し合っているのもありリオの状況分析も正確なものが出せ、またシリウスも同じように分析しつつ別の何かを考えているように見えた。

 戦況はイスカが有利、だがその中でも折れずにいる挑戦者にイスカ自身は胸の高鳴りを覚え、静かに糸を引きつつムラサキを攻撃態勢へと移す。


「並のリスナーならとっくに終わってるけれど、君らはそうじゃない。わえも楽しいよ、ここまで共に舞える相手とやり合えるのは……!」


 そう高らかに言い放ったイスカがパンっと両手を合わせ更にそこから手を組み何かの印を結びつつ、機巧の腕から伸びる糸が燃えるように赤く激しく光を帯びてムラサキが大きく口を開きながら、巨大な筒を展開し雷を収束させながら炎を集めていく。


 大技で一気に決めに来る、ならばその前にとローズが翼を広げ一気に近づくもののギロリとムラサキが目を向けながら細腕を振るって爪を飛ばし、盾で防ぐが振り抜かれる尾の一撃を受け再び叩き落される。

 歯を食いしばりつつ激突寸前でローズは翼を広げ留まるが攻撃阻止に失敗した事に舌を打ち、刹那、地下から飛び出たバロンが跳び上がった。


「スペル発動、エアーインパクト」


 大きく息を吸ったバロンが全身を使い空気の塊を吐き出し、シリウスのスペルを受けたそれは渦巻く螺旋を帯びムラサキへと向かう。すかさずイスカが指を引きムラサキの向きを変えるが上顎へ空気の塊が直撃し炸裂、弾けるように上空へと頭を向けられ刹那に炎と雷を収束させた光線が空を切る。


 すぐにイスカはムラサキを操作し鱗を立てて反撃に備え、再び接近するローズの一撃を受けて立つ姿勢をとった。


「スペル発動クリスタルエッジ! ローズ!」


薔薇水晶断ローズ・スライド……!」


 縦一閃に振り抜かれる聖剣ヴェロニカより放たれる水晶の刃がムラサキの身体に当たり、すかさず聖剣ヴェロニカの刃が食い込む程に強く刺さる。

 逆立てられた鱗に腕を切られるものの構わずローズは空気を蹴ってさらに剣を押し込み、身体を傷つけながらも攻撃をやめず目を強く開いて剣を振り抜いた。


(まだ、浅い……ですが!)


 表皮を切り裂き内部の機巧を露出させられたが破壊には至ってないとローズは悟り、細腕で切り裂かれる前に盾を切った場所へ突き刺し機巧にねじ込む。その影響かムラサキの動きが一瞬止まり、すぐにローズは盾を外し離れイスカも舌打ちしつつ糸の付け替えを行いムラサキを防御態勢へさせようとするが、上手く動かずゆっくり蛇行してしまう。


(中の仕掛けをやられたか……抜くのも無理なら、このままやるしかない)


 物理的に阻害をされてる為か上手くとぐろを巻けず、糸を盾に付け替えるが引き抜けず、やむなくイスカは操作を変え攻撃態勢へ戻す。

 盾が刺さったのはちょうどムラサキの身体の中間部分、しなやかな動きをする為に必要な機械部分をやられたと悟りながらリオとシリウスを捉えどう立ち回るか考える。


(さっきみたいに邪魔されたり時間を稼がれると厄介か。このまま一気に幕引きに持ち込む)


 イスカの意思を受けたグシがカサカサと這い回ってムラサキの胸部から頭部へと移動し、糸を引き仕掛けを動かす。それによりムラサキの胸部が開きウィルオウィスプのタマが放出され、次の瞬間に操作されたムラサキが口でタマを咥え持つ。


「演目・玉炎大華……!」


 頭を持ち上げるような姿勢をとったムラサキが天高く飛翔し、機巧の腕と合わせた四本の腕をイスカが振り下ろすと一気に急降下し舞台へ迫る。それをバロンが真っ向から受けて立つように見上げながら待ち伏せ、大きく息を吸い込むと一瞬空気が揺れる程の咆哮、否、衝撃波を放って押し返す。


 凄まじいまでの衝撃波は舞台を越え、劇場を越え、エカンの街を揺らす程の威力を見せ、ムラサキの全身にヒビが走る。糸を張って素早くイスカがムラサキの態勢を戻し空中で止まるが、その刹那にムラサキの頭をローズの聖剣ヴェロニカが貫く。


(駆動やられてると勢いが足りないか……まぁ、それも技量不足、わえの油断として受け入れるとしよう)


 ローズの一撃はムラサキの頭部いたグシを刺し貫くと共に実体のないタマも捉え、振り抜かれると共にタマの炎の体が霧散しグシも両断されイスカへ反射が一気に襲いかかる。


 反省と共に頭から血が飛びよろめきつつもすぐにアセスとムラサキとをカードにし手元へと戻すと、ふぅと息をついてカードをしまい軽く手を叩く。


「良いね、流石……」


「ありがとうございます」


 イスカに一礼するリオは落ちてくる盾を回収するローズと共に彼を捉え直す。舞姫ルリ、鬼火鳥タテハ、機巧龍ムラサキの三体の機巧人形を撃破した事でアゲハ家の演目は全て攻略し、また知っている範囲のアセスも同時に倒し切った。


 だが、イスカは負けを認める様子はなかった。いや、そもそもまだ終わってない事をリオは感じ取り、バロンを手前へ戻すシリウスと共に最後の演目へ挑む。

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