参戦!ユーナカリア!

 由奈ちゃんが割り当てられた自分の部屋に行ってからしばらくすると僕のキャラクターに個人チャットが飛んできた。


『お兄ちゃんログインしたよ!』


 そうチャットを飛ばしてきたキャラクター名は"ユーナカリア"となっていた。


 これが由奈ちゃんのアバターかな……?

 そう思った僕はこのユーナカリアへと個人チャットで返す。


『由奈ちゃん?』


『そうだよ!』


『わかった、ならチームリーダーに話を通しておくね』


『お願いします!』


 僕は個人チャットからチームチャットへと切り替えてスズタクさんにチャットを送る。


『スズタクさん、僕の知り合いがINしたよ』


『分かった、ならその知り合いのキャラクター名を教えてもらってもいいかな?』


『ユーナカリアって名前だよ』


『分かった、その人にチームへの招待を送ろう』


 スズタクさんへチャットを送ってから待つこと少し……ログに『チームに【ユーナカリア】さんが加入しました!』と言う文章が流れる。


『改めましてユーナカリアさん、ようこそ私立グレイス学園へ!』


『はじめましてユーナカリアです!カナタさん……だったかな?の義妹で中学三年生で~す!v(´∀`*v)ピース』


 由奈ちゃん……もといユーナカリアの自己紹介に一同の間に沈黙が訪れる……。


『……とりあえずユーナカリアさん、あまり個人情報を晒すのはやめたほうがいいですよ』


『あ……ごめんなさい、つい……(@_@;)』


 ミオリネさんの指摘にユーナカリアのチャットと同時に由奈ちゃんの部屋からやっちゃった……と言う声が聞こえてくる。


『でも、カナタはユーナカリアさんに手を出したらこれは犯罪確定だな』


『だから出しませんって!』


「あははははは……っ!お兄ちゃんスズタクさんにイジられてる!」


 スズタクさんのチャットに僕がツッコむと隣の部屋から壁越しに由奈ちゃんの笑い声が聞こえてきた。


 なんというか……少し気恥ずかしい……。


『それより、ユーナカリアさんチームルームに来れますか?』


「お兄ちゃん、チームルームってどうやっていくの?」


 チームルームの行き方が分からないのか、直接由奈ちゃんの声が聞こえてきた。


「メニュー画面を開いたらチームっていうのない?」


「チーム……?チーム、チーム……あった!」


「それを開くとチームルームと言うのがあるからそれを選択すると行けるよ」


「分かった、ありがとう!」


 由奈ちゃんとの会話を終え画面へと再び目を向けると頭の上に「ユーナカリア」と書かれたキャラクターが姿を現した。


 これが由奈ちゃんのアバターか……。


 由奈ちゃんのアバターは水色のツインテールの髪に人目の見た目に犬の耳と犬の尻尾をもつ獣人の女の子で、初級の魔法使い用のローブを身にまとい、手には初級の魔法の杖を持っていた。


『犬耳……』


 それに反応したのはなぜかミオリネさん……。


『改めて……ユーナカリアです!』


 由奈ちゃんはアバターを操作してピースサインをさせるとくるりとその場で一回転させてみせた。


『ユーナカリアさん、可愛いですね!』


『ありがとうございます、スズタクさん!』


『これは……強敵……』


『ミオリネさん、何が強敵なんですか……?』


『……いえ、何でもありません』


 僕は頭にはてなマークを浮かべながらミオリネさんに問うも、はぐらかされてしまった……。

 ……まあいいか。


「ねえねえ、お兄ちゃん!せっかくだからこれから冒険に……!」


「由奈ーっ!お風呂空いたわよーっ!」


 由奈ちゃんが冒険に行こうと提案しようとするとタイミング悪く風原さんがお風呂から出たらしく、由奈ちゃんを呼びに階段を登ってきた。


「あ、はーい!ちぇ、残念……」


『ごめんなさい、お風呂に入ってくるのでこれで落ちますね、お疲れ様でした!』


『お疲れ様でした!』

『お疲れ様でした、ユーナカリアさん』

『お疲れ様でした』


 由奈ちゃんは挨拶をするとそのままログアウトし、しばらくすると部屋を出て階段へと向かう足音が聞こえた。


 すると、突然部屋のドアが開けられ、僕はドアの方へと目を向けるとそこには風原さんの姿があった。


 お風呂上がりだからか顔は少し紅潮していて、そんな彼女に思わずドキッとしてしまう。


「風原さん、どうしたの……?」


「ああ……ここは御堂君の部屋だったのね……間違えたわ」


 そう言う彼女は半袖のTシャツにハーフパンツと言ったラフな格好をしていた。

 僕は思わず彼女の胸元へと目をやるとスレンダーと言うか、控えめな胸がそこにあった。


「……なに?」


 僕の視線に気がついたのか、風原さんは胸元を手で隠しながら僕を睨んでくる。


 まずい……さすがに女の子の胸を見すぎるのは良くなかったな……。


「い……いや別に……ところで、僕に何か用……?」


「別に……さっきも言った通り間違えただけ。それより……それゲーム……?」


「うん……エリシア・オンラインってゲームなんだけど……知ってる……?」


「知らないし興味もないわ……」


 それだけを言うと風原さんは僕の部屋のドアを閉めると去っていく足音が聞こえたのだった……。



 ~サイドストーリー~



 ──亜希──



 御堂君の部屋を出たあと私は割り当てられた自分の部屋へと入るとピンク色のシーツが敷かれたベッドへと倒れ込んだ。


「はぁ……、今日はドキドキしっぱなし……」


 私は自分の胸へと手を置きながら一人つぶやくとスマホを開いて先ほど御堂君がしていたエリシア・オンラインを検索するとゲームの説明文や紹介画像などが表示される。


「バカみたい……」


 私は少しそれに目を通すとすぐにスマホの画面を消した。


 本当は今日御堂君に告白された事が嬉しかった……本当は御堂君と一つ屋根の下で暮らせることが嬉しかった……。


 でも、何も言えなかった……。

 言った事といえば「御堂君のこと好きじゃないから」と言う事と、「御堂君と仲良くする気はない」と言ったことくらい……。


「はぁ~……私って本当にバカ……」


 御堂君は覚えていないかもしれないけど、彼との最初の出会いは小学校の低学年の頃……。

 あの頃の私はボーイッシュな見た目で、まだお父さんとお母さんが離婚する前……私は嫌々ながらも柔道を習っていた。


 でも、嫌々していたせいかちっとも上達しない私は男の子と勘違いされていた事もあってか、他の男の子達からイジメられていた……でも、そこを助けてくれたのが御堂君だった。


 一目惚れだった……。


 でも、男の子達からイジメられたという恐怖感と素直になれない性格が災いし、それから徹底的に男の子を避けるようになった。


 しばらくして両親は離婚し、私は柔道を辞め御堂君と合うこともなくなった……。


 久しぶりに御堂君と出会ったのは青葉ケ丘学園に入ってから……。

 付属中学の頃は彼の存在には気がついていたけど、私は御堂君のことを密かに目で追うだけだった……。


 勿論御堂君本人は私のことなんて覚えていなかった。


 二年になって同じクラスになった時私は飛び上がりそうなほど嬉しかった!


 でも、その時の私は既に男の子達との間に壁を作り、男の子達を見下すように完璧主義に走っていた。

 当然御堂君に対しても素直になれなくなってしまっていた……。


「はぁ~……私……どうすれば素直になれるんだろう……」


 一度作ってしまった壁を壊すのは至難の業だ……。

 御堂君に積極的に接している由奈が羨ましい……。


 私は目から涙を滲ませるとそれを手で拭うと、スマホで隠し撮りした彼の写真を眺めたのだった……。

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