初恋

山下 おと

912日目「初恋」

 嫌い、大っ嫌い。

 そう泣き叫んだのは貴方に対してなのか、はたまた自分に対してなのか。

 分からなかった。


 終わりがきたのはありきたりな恋愛小説のように風が強い日でもなく、雨が降っている訳でもなく、雪がしんしんと降り積もっている訳でもない。ただいつもの日常のような顔をしてやってきた夜のことだった。



「終わりにしよう」



 どちらからともなく告げた。

 告げた。いや、告げられたの方が正しいのかもしれない。

 そんなことも分からないくらいに泣きじゃくっていたからである。

 近くに置いてあった色々な物を投げた。貴方のケータイ、貴方と一緒に撮ったプリクラ、貴方と一緒に旅行に行った時に買ったクッション、貴方とお揃いで買った時計、貴方に買って貰った持ち運びできる小さなコーム。

 全部全部全部。

 私の家には、手に取る物全てが貴方との思い出で溢れかえっていた。

 困ったように眉をひそめて私の手を取る貴方に、涙が止まらなかった。



「分かった」



 まだ子供だった私達には、どんな選択が最善策なのか分からなかった。

 今思い返しても未だに分からないけれど、後悔はしていない。


 間違いなく、人生最初で最後の初恋だったと私は思う。

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