私が体験した心霊現象

@takuya_0528

第1話 踏切の地蔵と血の幻影

四年前のことだ。


その日、俺は嫁さんと二人で車に乗っていた。

ドライブが目的だったのか、用事の行きか帰りだったのか──そこは不思議と記憶が曖昧だ。場所も時間も、今でははっきりと思い出せない。ただ一つ、あの踏切での光景だけは、今でも鮮明に覚えている。


その踏切の横には、お地蔵さんが立っていた。赤い前掛けをつけ、じっとこちらを見ているようだった。


普段なら、踏切を渡るときは前を走る車の動きに集中し、横を見ることなんてない。だが、その時は違った。なぜか視線が地蔵に吸い寄せられたのだ。


気づいたとき、世界が一変していた。


霧に包まれたように空気が重くなり、音も遠くなった。


そして次の瞬間、お地蔵さんが目の前に迫ってきたように見えたのだ。赤黒い飛沫がぶちまけられたように、地蔵の前掛けや顔が血に染まっていく光景がはっきりと。


息を呑んだ俺の横で、嫁さんも黙り込んでいた。


彼女も、同じ光景を見ていたという。


二人とも声が出なかった。ただ、その場の空気が異様に冷たかったことだけを覚えている。



数日後、俺は左手首と右足の指を立て続けに骨折した。偶然だと思おうとしたが、あの踏切のことが頭から離れなかった。


不安になり神社に相談に行くと、神主さんは俺の話を聞き終えるなり言った。


「除霊をしたほうがいいですね」


祓いを受け、お札を授かり、それを家の神棚に祀った。



数年後、ふと神棚のお札を見たとき、俺は息を呑んだ。


俺の名前が書かれた部分だけが、ビリビリに破れていたのだ。誰も触っていないはずなのに。



いまだに、あの踏切がどこだったのか思い出せない。

けれど、あの地蔵の顔と血の幻影、そしてその後の出来事だけは──今もはっきりと胸に残っている。

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