第2話 誘いの連絡

期末テストが終わり、俺たちは夏休みに突入していた。

外は気が遠くなるような暑さで、蝉が狂ったように鳴いている。外に出る気力などとっくに奪われてしまったようだ。


(夏休みに入ってから火谷に会えてないな。)


夏休みの一つの難点といえば好きな人と会う回数が減ってしまうことだろう。

俺がエアコンの効いた部屋で引き篭もっている間にあいつは何をしているのだろう。

火谷のことだから『引き篭もってばかりじゃ良くないよ。』とか言って、どこか遠くへ出掛けていそうだ。


スマホには初めて会った時にほぼ強制的に交換したLUNEがある。

『なあ火谷、LUNE交換しようぜ』

『嫌だよ、だって君用事ないのに無駄に連絡してきそうだもん』

『やらねーって。いいから』


(あのときはこんなに仲良くなると思わなかったな。)

そうだ、火谷に連絡をして出掛けよう。

暑くても、火谷に会えるのならどうってことなかった。火谷とはあまり休日に遊んだことがなかった。なおさら良い機会だろう。

俺はスマホを開いて火谷に連絡をした。


『8月3日にある花火大会一緒に行こうぜ』


すると、火谷はすぐに既読がついた。

『いいよ。どうせ水瀬は引き篭もってばかりいるだろうから良い機会だよ』


俺の現状などお見通しのようだ。

もうすぐ火谷に会える嬉しさから顔が緩んでしまう。俺は本当に顔に出やすいらしい。


喜びに心を躍らせたのも束の間、俺に一つのメッセージが送られてきた。

『8月3日の花火大会一緒に行こう。

 水瀬、お前どうせ暇だろ?』

俺は一瞬にして現実に戻らされたような感覚に嫌悪感を抱いた。


メッセージの送り主は火谷を好きになる前に、付き合っていた男だ。

そいつは深瀬 凛(ふかせ りん)という、大学一年のやつだ。当時は付き合っていたが、今はもう付き合ってなどいない。ただ、ダラダラと今も体の関係だけは続いてしまっている。

凛には不定期に呼び出され、ホテルに連れてかれて抱かれる。体の相性はとてもと言っていい程良かった。ただ、俺は未練があるわけでも、その行為で得られる快楽を求めているわけでもない。ただの、罪悪感だ。


凛には俺と同じ歳の弟、優真(ゆうま)がいた。俺と凛と優真は幼馴染で、昔から良く一緒に遊んでいた。俺が中学2年生だったある日、俺と優真が2人で遊んでいた時、急に優真が少し顔を赤ながら俺に言った。

『俺、ずっと火谷が好きなんだ。だから、付き合ってくれないか。』

好きと言われたことがなかったわけじゃない。だから、動揺することはなかった。だがずっと仲良かった、友達だった、幼馴染だった優真に好きだと言われ、今までの関係が崩れてしまうことが俺はただただ怖くて、寂しくて、嫌だった。


その当時の俺はガキだった。言葉選びもまともにできやしないし、相手のことを考えれる余裕なんてものも持ってなかった。

そんな俺が返した返事は、

『お前となんか付き合わねぇよ。』


今ならちょっと考えればわかる。好きだった相手に勇気を振り絞って伝えた気持ちに対して返された言葉がそんなものだったら誰だってひどく傷つく。


優真はその言葉に酷くショックを受けて、泣きながら『ごめんね。』と弱々しく笑って立ち去った。


_____次の日、優真の訃報がきた。

告白の後、ショックを受けて走って家に帰っていた途中、振られたことが頭を占めていた優真はこちらに向かってくるトラックに気づかず轢かれてそのまま亡くなってしまった。


葬式に行くと凛(深瀬の兄)がいた。

凛はこちらに気づいて、俺のところに向かってきてこう言った。

『優真はずっと、お前のことが好きだったんだよ。お前のことだから気づいてなかっただろうけどな。』

力尽きたように笑いながら、俺に優真の気持ちを伝えた。


俺は、後悔の念に駆られた。そして、俺が犯した過ちと罪を自覚した。

胸が張り裂けるような思いをどうにか押し込めて、優真が死んだ日にあったことを話した。


すると凛は俺を責めるわけでもなく、ただ安心したような顔を見せた。


『あいつは自分で気持ちを伝えれたんだな。本当に良かったよ。』


何が良かったのだろうか。目の前に弟が死んだ原因となった奴がいるというのだ。本来殴り殺されてもおかしくないのに、なぜ俺を責めないのだ。


そこからだ。俺と凛が付き合い始めたのは。

『凛、俺と付き合おう。』

俺は優真の気持ちに応えれなかった分と、大事な弟を奪ってしまった罪の意識から凛に告白をした。凛は少し目を見開いたものの、すぐに答えた。

『あぁ。付き合おう。』


付き合ったその日、俺たちはホテルに行って体を重ねた。意外にも体の相性は良く、俺も凛もただ快感に身を任せていた。俺と同時に達したとき、凛は泣いていた。

『優真、ごめんな…。兄ちゃんの体な感覚、伝わってるか?』

凛は擬似的に自分の体を通して優真に俺とヤらせてあげていたのだ。

それでも俺は良かった。なんでも、やってあげられるのなら、罪を償えるのならどうでも良かった。


凛は俺に好きだと言ってくれた。沢山優しくしてくれた、愛してくれた。何も普通のカップルと変わらないはずなのに、俺たちにはどこかカップルとは程遠い何かがあった。


それから俺は火谷を好きになり、

『好きな人ができたらから、別れたい。』

と凛に言った。すると凛は『わかったよ。』

とすんなりと受け入れた。

ただ、俺にはまだ罪悪感に苛まれていた。


俺は別れてから少し経った日、凛をホテルに誘って再び体を重ねた。そうすることで、優真に対する罪の意識が薄れていく気がしたから。俺は俺のために、凛と行為をした。


その日から付き合ってはいないけど体の関係が続いている。誘う時もあれば誘われる時もある。


そんな凛から花火大会の誘いがきた。

きっと断ればすんなりと受け入れてくれるだろう。ただ、俺は断る勇気がない。どうしたらいいのか分からない。


俺は火谷に連絡を送った。


『わりー、俺もしかしたら花火行けねぇかも。』

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