第24話 みんなで仲良くベルの競技を応援しようとしていたのに

 俺たちは校舎の正門をくぐった。

 蒼天に輝く「知の星」――蒼星(そうせい)。

 紅き炎の「戦星」――紅星(こうせい)。

 二つの象徴が豪華に飾り付けられ、賑わう人々のざわめきと相まって、入口からすでに祭りの熱気に包まれていた。


「ベルは紅星組だったよな」

「そうですわ。初等部から高等部まで半分に分かれていて、わたくしたちのクラスは紅星組。武技専攻も魔法専攻も混ざって、色々な競技で競い合います」


 入り口で配られていた紙を受け取る。

 そこには本日の催しがずらりと並んでいた。


「ほぉ~、こりゃ面白そうだな! この“保護者参加型”というのはなんだ?」

「歴史の長い学院ですから、親が卒業生ってことも多いんです。詳細は知りませんけれど、結構人気の企画みたいで……子供より親が盛り上がって大変なことになるという噂を聞きましたわ」

「……マオ、来られると良いな」

「……お母様は、忙しいから」


 ベルがぽつりと呟く。


 本来ならマオも同席したがっていたが、魔王としての責務ゆえだろう。仕方ないのかもしれない。

 ベルが気落ちしているのは、きっとそのせいだ。

 そんなマオも、仕事が片付けば来られるらしい。娘の晴れ姿を見たいはずだが……間に合うかどうか。


「…………もし」

「……? なんですの」


 きょとんとした目でベルが俺を見る。


「マオが来られなかったら、俺が出る」

「え……!? あなたが? ……たしかに代理出席もできますけれど、本気で言ってますの?」

「ああ。本気だ」

「なぜそこまで……そんなに出場したいんですの?」

「ああ。出たい。ベルと一緒にな。二人で一つのことを成し遂げたい」

「なんかどんどん前のめりになってませんか!?」

「いやもう、マオは来なくても良い。いや、来ても俺が出る」

「何を言ってるのよ……もうっ。ふふっ、オカシイ……変な先生」


 ベルが鼻を鳴らして笑う。

 ……少しは気が紛れたか。それでいい。



 そんなこんなで会場へ。


 この学院の競技場は、元は闘技場を改築したものだ。中央の広大な石畳、その周囲をぐるりと囲む観客席。

 観客が競技者を見下ろす造りは、やっぱりどこか物騒な雰囲気を残している。


 二階席へと進むと――。


「あ! ユシャさーん! ベルちゃーん! こっちこっちー!」


 大声で手を振るのは、孤児院育ちの巨乳シスターのチャーム。

 食堂での一件以来仲良くなり、今日も一緒に観戦する約束をしていたのだ。保護者以外にも、数席なら取れるらしい。


 チャームは元々この競技会で配られる昼食配布担当として、今日も仕事をする予定だったが、ベルの応援のためにわざわざ代理を立てて、来てくれたというわけだ。


「チャームさん!」


 ベルの顔がパッと明るくなる。

 年頃の娘にとって、同性の友達というのはやっぱり気安いのだろう。

 学校での昼食も毎回彼女と食堂のバックヤードで取っているようだし、ベルもチャームにはすっかり懐いているようだ。

 ……俺は、もっと時間かかった気がするけどな。


 ちなみに、俺が女生徒に化けて潜入していた理由も、ベルからチャームへと共有済みらしい。特段俺から説明などしなくても、「聞いてる聞いてる」と話が大変スムーズでよろしい。


「すごい熱気だよね! わたし出場するわけじゃないのに、こんなに汗かいちゃった。ほら、見て見て~」

「……チャームさん、あまりそういうのは……だ、男性もいますのに!」


 ベルの視線が、チャームの谷間と俺の顔を行き来する。

 双丘の谷に汗がきらめいて……視線が勝手に吸い寄せられるのは仕方ないだろう。


「あぁ~ごめんね! ユシャさんも久しぶり! ベルちゃんの先生って立場で一緒にいるの、やっぱり新鮮!」

「ベル・ミスティオお嬢様の家庭教師を務めております……ユシャです」

「ちょっと! あなた、普段そんなこと言わないでしょう!」


 ぺしりとベルに肩を叩かれる。う、嬉しい……。


「たまにはそれっぽくしてみようと思ってな」

「いつも通りで良いですわ!」

「……ふふ。賑やかで楽しいねぇ」


 チャームが日だまりの笑顔を浮かべる中、整備を終えた競技場では、学院長の声が響きはじめた。いよいよ競技会が始まるらしい。


 そのときだった――。


「……ここですか」


 ザッ、ザッ、と俺たちの背後から足音。


 俺たちの前に立ったのは。



「探しましたよ……“17代目”」



 18代目勇者だった。

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