怨霊封じの鎮魂祭 ~金光の悪霊使い 第2部~

三川 なおた

第1話 白滝城の戦いから1ヵ月 ①

 真夜中、俺は電柱の上にたたずむ3体の悪魔と同じく、直径15センチほどの電柱の上に立ち、その異形の存在としばしにらみ合っている。 

 地上から10メートルはあるだろうか?こんなサーカスの曲芸のような状況も、今は気合で乗り切るしかない。

 あの人からもらっている陽ので体の能力は上げてある。奴らにできることは、人間のこの俺にもできるってことを見せつけなければならない、なめられるわけにはいかないのだ。


 3体の悪魔たちはそれぞれ3本の電柱の上でしゃがんでいる。背中には蝙蝠こうもりのような羽が生え、長いくちばし、短い角、長い耳を持ち、一見してガーゴイルのような容姿でキョロキョロと鳥のように辺りを見渡していた。


 こいつらは実体を持った『悪魔』である。幽体だけの悪霊とは対処の仕方が違うのだ、フィジカルがものをいう。


 ここ数週間、毎夜こんな奴らと戦っている。幽霊だったり妖怪だったり、たまには人間を相手にする。

 今夜、最後の相手はこいつらだ。俺は右手に持つ長巻ながまき(刀身1メートル、持ち手1メートルの大太刀類)に力を込める。


「ギャガァァァーーー」


 一番近くにいたガーゴイルが雄叫びを上げ、同時に翼を広げて羽ばたき始めた。俺はそのすきを見逃さない。

 狭い電柱の天辺を踏み台に跳躍し、10メートルの距離を一気に詰める。しかしその跳躍はガーゴイルがいた電柱の手前で失速し、着地する足場を踏めない。

 ガーゴイルは一瞬ヒヤッとしたようだが、届かないと確信すると飛ぶのを止め、羽ばたきをゆるめる。

 俺は長巻ながまきの末端のつかを両手で掴み、落ち始めた空中で姿勢を斜めに変え、手元から切っ先まで2メートルとなったリーチを生かし、思い切り一回転ブン回す。


「ギャァァーーーー」


 ガーゴイルの左羽は中央から切断され、青い血が飛び散る。普通の刀だったら届かなくてもこの長巻は広範囲の武器だ。奴はその目測を見誤ったのだ。


 俺はそのまま落下を続け、民家の庭に受け身を取りながら転がり落ちた。電柱の上から下を見ていたのだ。落下地点に土とアスファルトのどちらを選ぶかはあらかじめ選択できた。

 いくら神力で体を強化できてもダメージは少ない方がいい。


 翼を切られたガーゴイルはバランスを崩してそのままアスファルトの道路にドスンッと落下した。俺は民家の塀を飛び越え、手傷を負ったガーゴイルの前に仁王立ちする。


「人間をなめんじゃねーよ、あのぐらいの距離なら造作もねー、わざとだよ、わざと」


 言葉が通じているかもわからない。だけど一言言ってやりたかったんだ。この世に住んでる俺たちをなめるなってことを……。


 翼の落ちたガーゴイルはむきになって襲ってくる。長い爪を武器に、叩き込む様な連続攻撃だ。俺はそれを後退しながら避けていった。隙があれば長巻で一撃を入れてやる。


「ギュガァァーー」「ギャガァァーー」


 残りの2体も翼を広げて電柱から飛び立った。上空から狙いを澄まし、鷹のような4本爪の足を生かした、一撃離脱の攻撃を交互に仕掛けてくる。


 3対1では分が悪い、防戦一方の俺は後退しながらも、住宅街の十字路中心で居合いあいの構えを取った。この広さなら思う存分この長巻で戦える。

 反撃の構えを見て、一瞬、悪魔たちの動きが止まった。


‶バン、バンバン。バン、バンバン〟


 銃声がリズムよく6発響く。弾は3発ずつ、飛んでいたガーゴイル2匹に命中し、それぞれが間をおいて墜落してくる。 

 構えを取っている俺の後方に、先に落下したガーゴイルが、その負傷した体に鞭を撃ち、やみくもにこちらに向かってきた。しかし、俺は構えを解かず前方の2体を見据みすえている。


 次の瞬間、路地の暗がりに隠れていた新之介が、足音も無く一瞬で悪魔に詰め寄ると、瞬時に抜かれたその鮮やかな一線で、首と胴を切断した。悪魔の頭部が青い血を飛び散らしながら宙を舞う。

 俺に仲間がいたことを認識する間もなかっただろう、真打は新之介なのだ。彼は俺の剣術の師匠であり、大切な級友で、何でもそつなくこなせるイケメンだ。


 前方にいる左羽を切られた悪魔はあっけに取られている。俺はこのタイミングを待っていた。仲間の死を完全に認識していない硬直した間を狙い、長巻の持ち手を柄縁つかぶちに切換え、リーチが1メートルとなった小回りの利く刀身で、悪魔の首を一瞬でねる。


 次いで間を置かず、更に前方にいた狙撃された悪魔に駆け寄ると、上体を上げ始めたばかりの悪魔の頭部を一刀両断にした。

 切断面が多いせいで青い血しぶきは上がらなったが、アスファルトの広範囲が青色に染まった。

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