【完結】生き残り竜人は永久(とわ)の愛を待つ

伊藤あまね

*プロローグ

「新月の晩には闇の願いが叶い、満月の晩には光の願いが叶うんだそうだ」


 そう、教えてくれた愛しい彼が永い眠りに落ちてからどれだけの時が流れただろう。十八の姿のままでいる自分と同じように、窓の外ではあの頃と変わりなく小鳥がさえずり、森の緑が見える。窓辺に立つハノは、そんなことをぼんやり考える。

 もう数えることさえ飽きてしまったほど――だがもし合っていればいまはあれから二百年は経っているはずだ――長い時間、ハノはこの屋敷でひとりぼっちで待ち続けている。彼が話してくれた、光の願いが叶う時を。

 あの話をしてくれた時、もう一つ彼が教えてくれたことがあるのだが、それの意味を知るためには、ハノはもう一度彼に会わなくてはならない。そのためであれば、闇の孤独と呼ばれる果てしない孤独に耐えることだって厭わない。

 いつの間にか日が暮れ、暗くなっていく窓の外を眺めている内に、そこには透けるように美しい白い肌と薄緑の長い髪、そして燃えるような赤い瞳のハノの姿が映し出されていた。

 願いが叶うかどうかは、ハノは勿論、屋敷を残してくれたあの魔法使いだって知らない。きっと、神でさえわからないのかもしれない。何故なら、ハノが闇の孤独に耐えられるかを知るのは、未来のハノだけだからだ。


「本当にまた会えるかな……会いたいよ、ライナー」


 幾度となく呟いた名と願いを、今宵も小さく呟く。まじないを唱えるように、こいねがうように。

 そうして幾度目になるか知らない今宵の月の明かりが、ハノをやさしく包み込むように射し込んでくる。それはまるで、光の願いの話をしてくれた時の彼の笑顔のようだ。


「会いたい、ライナー……」


 月に祈るように呟いた願いは、今宵もまた孤独の闇の中に溶けていった。



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