遮断
岸亜里沙
遮断
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
この現象を説明出来るのは神しかいない。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あなたは、アイソレーション・タンクという装置をご存知だろうか。
この装置は、端的に説明すれば人間の感覚を遮断する装置だ。
光と音が遮断されたタンク内に、皮膚温度に近い温水と硫酸マグネシウムを入れ、それに身体を浮かべる事で、リラクゼーション効果が得られるというもの。
宇宙空間にふわふわと浮かんでいるかのように、一切の感覚を遮断する事で無になれるのだそう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
このタンクに、一人の老人が入った後に起こった奇妙な現象を、これからお話しする。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2010年の5月、医師の
老人は極度の精神不安を訴えており、症状を聞く限り、躁鬱病でありそうだったが、老人の年齢を鑑みて、水原は投薬治療ではなく、アイソレーション・タンクによる代替治療を提案した。
老人もそれを了承し、数週間後にアイソレーション・タンクでの治療をする事になる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「水原さん、私はもう生きているのに疲れました。早く楽にさせてください。私はもう十分生きましたから」
「●●さん、あまり悲観的にならず、この装置を試してみてください。きっと効果はありますから」
「それならいいんですがね」
「では、この中に入ってください。しかし1時間だけです。それ以上は使用しません。1時間経ったら、扉を開けますので」
「ごきげんよう。また無事にお会い出来ればいいですが・・・」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
水原は1時間後に、アイソレーション・タンクの扉を開けると、目を疑った。
タンクに入っていたはずの老人の姿がなかったからだ。
それ以上に水原が驚いたのは、老人の姿は消えていたが、アイソレーション・タンクの中央に、小さな乳幼児が浮かんでいる事だった。
気持ち良さそうに浮かんでいた乳幼児を抱き上げると、その子が泣き出した為、水原はこれが幻覚ではない事を実感し、急いで警察へと通報した。
警察の捜査でも老人が何故消えて、乳幼児が入っていたのか、結論は出なかったそう。
防犯カメラの映像でも、老人がアイソレーション・タンクに入ってから、1時間後に水原が扉を開けるまで、タンクの扉は閉まったままだったのだ。
そしてもっと不可思議なのが、消えた老人のDNAと、浮かんでいた乳幼児のDNAが一致した事だった。
アイソレーション・タンクの中で老人が幼児化したという事実を、誰も受け入れる事は出来なかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「1時間が経ちました。水原さん、気分はどうですか?」
「・・・変な夢を見てました」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
遮断 岸亜里沙 @kishiarisa
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます