第16話 僕は何となく見物する

ケイン君が鼻で笑った。

『そんな強気も、彼らを見たら言えなくなるぞ』


ケイン君の視線の先――遠くから、こちらに歩いてくる集団がある。

兵士たちが自然と道を開け、人々がざわつき始める。


僕は当然、誰なのか知らない。なので素直にギンパチへ尋ねる。

『で、彼らは何?』


僕が楽しそうにしているのが不思議らしく、ギンパチにもあまり緊張感がない。

それがかえって異様な余裕に見えたのか、周囲の視線がこちらに集まる。


『彼らは〈この国で最強を誇るギルド:七王国〉ですわ』


『ナ、ナンダッテー!』


わざとらしく棒読みで返すと、ギンパチが呆れた目で僕を見た。

その反応を“緊張”と勘違いしたのか、ケイン君は満足そうに口の端を吊り上げる。



『七王国の方々よ、彼らは反逆者だ。ヤレ!』


ケイン君の叫びに、七王国の面々は一斉に顔をしかめた。

「何を言っているんだ?」といった雰囲気で、互いに視線を交わす。

ただ一人――ニヤニヤと口角を上げ、愉快そうに歩み出た男がいた。


『俺の名は七王国が誇る〈剣聖ランスロット〉。そなたのドラゴンを狩った者だ!』


名乗り終える前に、彼は地を蹴った。

音速を超える加速で突進し、巨大な剣を振りかぶる。

一撃に全ての重さを乗せ、狙いは――カクさんの首。


ブン!

バーン!!

バシッ!!!


空気が裂け、衝撃が石畳を揺らす。

剣が何かを斬る音が響き、舞い散る火花と風圧が周囲を叩いた。


ドサッ!


カクさんの巨体が地面に崩れ落ちる。


『『カクさん!!』』


おギンとハチの叫びが木霊した。

観衆が一斉に悲鳴を上げ、兵士たちが後ずさる。


えっ……マジで!? 一瞬だけ、僕の心臓も跳ねた。

けれど――なぜかカクさんの背中が“ニヤリ”と笑った気がした。



『弱すぎるドラゴンよ。差し出せと申したものの、それほど弱ければ使い物にならぬわ。残りは捨てておけ』


伯爵様は鼻で笑いながらそうのたまった。

勝ち誇ったように顎を上げ、周囲の兵士を見渡す。


僕は大きめの声で、わざとらしく言った。

『カクさん、もう良いよ~。面倒くさい伯爵がそう言ってる』


すると――


『ヨッコイセ。……もう良いのか? 一回“斬られて倒れるドラゴン”の画ってのをやってみたかったのだ。カッカッカ』


カクさんがむくりと起き上がり、楽しそうに笑った。

その瞬間、観衆がどよめき、兵士たちが一斉に後ずさった。



『じゃ、みんな行こうか?』

僕がにこやかに言うと、


『『ちょっと待てー!』』


伯爵とランスロットの叫びが重なった。


伯爵は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒鳴る。

『き、きさま、きさまー、きさまー!』


ランスロットは黙り込み、冷ややかな眼差しでこちらを睨んでいる。

興奮し過ぎた伯爵に引いてしまったのだろう。


『き、きさまー! こちらを向けー!』

伯爵は必死に叫ぶが――ほっておこう。


残りの六王国の面々は、嫌そうな顔をして立ち尽くし、関わる気配を見せない。

明らかに「俺たちは巻き込まれたくない」というオーラが漂っていた。



『これにて一件落着だね♪』


宣言してみた。


『きさま! こちらを向け!』


『おギンさん、今日はどこに泊まるのですか? もう決まっているのかな?』

『まだ決めておりませんわ。ゆっくり出来て、美味しい料理が頂ける宿を探しますわ』


『き、きさまらー!』


『美味しい料理!良いですね! あとで聞き込みして来ますね。コウ様、私に任せて頂けますか?』

『お、そこまで言うならハチさんに任せちゃいます~』


伯爵は必死にケイン君を探し、振り返る。

『ケ、ケイン! 私の声は届いているのか?!』


誰もが自然体で無視するので、伯爵は不安そうに叫び続ける。


『キ、キーン様! しっかり聞こえております! キ、キサマら、どれだけ赦されないことをしているか分かっているのか!』

ケイン君も一緒に興奮している。顔は赤く、声は裏返っていた。



『ハチさん、わたくしは良いお風呂に入りたいですわ。旅の誇りを落としてゆっくり休むのも贅沢ですの』

『カッカッカ、誰か我の“死んだフリ”についても触れてほしいぞー』

『カクさん、とても上手でした~。今度僕もやってみるね!』


スケさんも参戦するらしい。

どうやら“死んだフリ”ブームが来そうだ。


『『キサマらー! こっちを向けーー!』』


伯爵とケイン君の声が重なり、周囲の緊張感は滑稽さに変わっていく。



『じゃ、まずギルドに行って情報を集めましょ?』


『『キサマらー! キサマらー!』』


二人の声が重なるたびに、どこかでクスクスと笑いが漏れた。


『プッ……』


残りの七王国の中の誰かが耐えきれず吹き出した。

その瞬間、伯爵の顔がさらに真っ赤に染まる。


『笑った者は誰だ! 出て来い!!』


六王国の面々を見ると、皆一様に面倒そうな表情を浮かべている。

伯爵の怒声は空回りし、場の空気は白けていた。


『キサマらー!』

伯爵が六王国に噛みつく。


ランスロットは伯爵を横目で見て、どちらに付くか迷っている。

ケイン君は必死に目を逸らし、七王国を相手取るのは分が悪いと理解しているらしい。


味方を見失った者を相手にするのは、本当に大変そうだ。

――ケイン君、頑張れ。



伯爵はどんどん白熱し、怒鳴り散らす。

『今、笑った者! 出て来い!』


叫びに応えるように、六王国が一斉に一歩前へ踏み出した。


『な、なに?! 儂に逆らうとどうなるか分かっているのだろうな!』


狼狽する伯爵は、味方として呼んだはずの六王国に絡み始めた。

ちなみに――ランスロット君は、完全にタイミングを逃して立ち尽くしていた。

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