第16話 僕は何となく見物する
ケイン君が鼻で笑った。
『そんな強気も、彼らを見たら言えなくなるぞ』
ケイン君の視線の先――遠くから、こちらに歩いてくる集団がある。
兵士たちが自然と道を開け、人々がざわつき始める。
僕は当然、誰なのか知らない。なので素直にギンパチへ尋ねる。
『で、彼らは何?』
僕が楽しそうにしているのが不思議らしく、ギンパチにもあまり緊張感がない。
それがかえって異様な余裕に見えたのか、周囲の視線がこちらに集まる。
『彼らは〈この国で最強を誇るギルド:七王国〉ですわ』
『ナ、ナンダッテー!』
わざとらしく棒読みで返すと、ギンパチが呆れた目で僕を見た。
その反応を“緊張”と勘違いしたのか、ケイン君は満足そうに口の端を吊り上げる。
◇
『七王国の方々よ、彼らは反逆者だ。ヤレ!』
ケイン君の叫びに、七王国の面々は一斉に顔をしかめた。
「何を言っているんだ?」といった雰囲気で、互いに視線を交わす。
ただ一人――ニヤニヤと口角を上げ、愉快そうに歩み出た男がいた。
『俺の名は七王国が誇る〈剣聖ランスロット〉。そなたのドラゴンを狩った者だ!』
名乗り終える前に、彼は地を蹴った。
音速を超える加速で突進し、巨大な剣を振りかぶる。
一撃に全ての重さを乗せ、狙いは――カクさんの首。
ブン!
バーン!!
バシッ!!!
空気が裂け、衝撃が石畳を揺らす。
剣が何かを斬る音が響き、舞い散る火花と風圧が周囲を叩いた。
ドサッ!
カクさんの巨体が地面に崩れ落ちる。
『『カクさん!!』』
おギンとハチの叫びが木霊した。
観衆が一斉に悲鳴を上げ、兵士たちが後ずさる。
えっ……マジで!? 一瞬だけ、僕の心臓も跳ねた。
けれど――なぜかカクさんの背中が“ニヤリ”と笑った気がした。
◇
『弱すぎるドラゴンよ。差し出せと申したものの、それほど弱ければ使い物にならぬわ。残りは捨てておけ』
伯爵様は鼻で笑いながらそうのたまった。
勝ち誇ったように顎を上げ、周囲の兵士を見渡す。
僕は大きめの声で、わざとらしく言った。
『カクさん、もう良いよ~。面倒くさい伯爵がそう言ってる』
すると――
『ヨッコイセ。……もう良いのか? 一回“斬られて倒れるドラゴン”の画ってのをやってみたかったのだ。カッカッカ』
カクさんがむくりと起き上がり、楽しそうに笑った。
その瞬間、観衆がどよめき、兵士たちが一斉に後ずさった。
◇
『じゃ、みんな行こうか?』
僕がにこやかに言うと、
『『ちょっと待てー!』』
伯爵とランスロットの叫びが重なった。
伯爵は顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒鳴る。
『き、きさま、きさまー、きさまー!』
ランスロットは黙り込み、冷ややかな眼差しでこちらを睨んでいる。
興奮し過ぎた伯爵に引いてしまったのだろう。
『き、きさまー! こちらを向けー!』
伯爵は必死に叫ぶが――ほっておこう。
残りの六王国の面々は、嫌そうな顔をして立ち尽くし、関わる気配を見せない。
明らかに「俺たちは巻き込まれたくない」というオーラが漂っていた。
◇
『これにて一件落着だね♪』
宣言してみた。
『きさま! こちらを向け!』
『おギンさん、今日はどこに泊まるのですか? もう決まっているのかな?』
『まだ決めておりませんわ。ゆっくり出来て、美味しい料理が頂ける宿を探しますわ』
『き、きさまらー!』
『美味しい料理!良いですね! あとで聞き込みして来ますね。コウ様、私に任せて頂けますか?』
『お、そこまで言うならハチさんに任せちゃいます~』
伯爵は必死にケイン君を探し、振り返る。
『ケ、ケイン! 私の声は届いているのか?!』
誰もが自然体で無視するので、伯爵は不安そうに叫び続ける。
『キ、キーン様! しっかり聞こえております! キ、キサマら、どれだけ赦されないことをしているか分かっているのか!』
ケイン君も一緒に興奮している。顔は赤く、声は裏返っていた。
◇
『ハチさん、わたくしは良いお風呂に入りたいですわ。旅の誇りを落としてゆっくり休むのも贅沢ですの』
『カッカッカ、誰か我の“死んだフリ”についても触れてほしいぞー』
『カクさん、とても上手でした~。今度僕もやってみるね!』
スケさんも参戦するらしい。
どうやら“死んだフリ”ブームが来そうだ。
『『キサマらー! こっちを向けーー!』』
伯爵とケイン君の声が重なり、周囲の緊張感は滑稽さに変わっていく。
◇
『じゃ、まずギルドに行って情報を集めましょ?』
『『キサマらー! キサマらー!』』
二人の声が重なるたびに、どこかでクスクスと笑いが漏れた。
『プッ……』
残りの七王国の中の誰かが耐えきれず吹き出した。
その瞬間、伯爵の顔がさらに真っ赤に染まる。
『笑った者は誰だ! 出て来い!!』
六王国の面々を見ると、皆一様に面倒そうな表情を浮かべている。
伯爵の怒声は空回りし、場の空気は白けていた。
『キサマらー!』
伯爵が六王国に噛みつく。
ランスロットは伯爵を横目で見て、どちらに付くか迷っている。
ケイン君は必死に目を逸らし、七王国を相手取るのは分が悪いと理解しているらしい。
味方を見失った者を相手にするのは、本当に大変そうだ。
――ケイン君、頑張れ。
◇
伯爵はどんどん白熱し、怒鳴り散らす。
『今、笑った者! 出て来い!』
叫びに応えるように、六王国が一斉に一歩前へ踏み出した。
『な、なに?! 儂に逆らうとどうなるか分かっているのだろうな!』
狼狽する伯爵は、味方として呼んだはずの六王国に絡み始めた。
ちなみに――ランスロット君は、完全にタイミングを逃して立ち尽くしていた。
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